今のは聞き間違えであろうか。そう思っていると、もう一度、聖修は口を開く。
「だから、本当に私はね尚のことが好きだったから、探偵を雇って尚の事調べてさせてもらってたの……で、ココのマンションに尚が住んでいるって事が分かったわけ……で、私はここに引っ越しして来たんだけど……」
……マジか。
いや本当に色々な意味でマジか……だった。って、誰が自分が好きな人が隣りの家に引っ越ししてくるなんて事思うだろうか。しかもたまたまではなく聖修自らっていうの? 有名人自ら俺みたいな一般人の家を探してまで引っ越ししてくるなんて思わないだろう。ま、自分が好きな有名人を追っかけて隣りの家に住むっていう事ならあるのかもしれないけどね。そう考えると聖修は本当に俺の事が好きだって事だ。本当に今まで俺は聖修の事で悩んで来たんだろうか? って思う程だ。いや、全く俺の場合には聖修の事は意識していたけど、聖修と恋人になりたいとは思ってはなかった事なんだけどね。そこは正確には有名人と恋人関係にはなれないって思っていたからなのかもしれないけど。まぁ、そこは男ですから、好きになった人っていうのは、夜のオカズにはなっていてのだけどね。それで聖修が本格的に俺に告白して来て、そこでやっと自分の気持ちに気付いたって事になったんだけど……。こうなんていうのかな? 聖修は本当に雲の上の人間だったから友達にさえもなれないと思っていたから、全くもって俺は今まで聖修の事を意識もしてなかったという事なんだろう。
「……ってことは本当に聖修は俺のことが好きだったってこと?」
「嘘はないさ……。探偵まで雇って尚の事、調べて貰ったんだからね……」
そこは嬉しい所なのかもしれない。だって本当にまさか自分が好きなアイドルが自分の事を好きでいてくれたのだから。これで俺が聖修のこと好きじゃなかったら、今まで聖修がやって来て事は犯罪だぞ、ってツッコミたいけど、ま、そこは俺も聖修のことが好きだし、そこは問題なくなったって事か……。
「じゃあ、俺が昨日、あの時間に帰って来ることも知っていたとか……?」
俺はそう恐る恐る聞いてみる。
「いや……それは、本当にたまたまだったかな? 同じマンションに住んでれば尚に会う機会はあったわけだし、どっちにしろ今日か休みの日にでも引っ越し蕎麦は持って来る気満々だったからね……」
「あ、そうか……」
その言葉に納得する。
じゃあ、このマンションに聖修が来てからは全部たまたま偶然が重なっていたってことなのか……。だって、今日、俺が仕事休みになったことさえ偶然だったんだからな。
あの近所のおばさん達も偶然居合わせただけだし……。 それで聖修が俺の家に来たこともたまたまって訳か……。
ま、その偶然が重なって聖修とは恋人にはなれたんだけど……。
偶然、いや……運命……。
運命って色々な意味で使われるけど……いい意味も悪い意味もある。
だけど今回のことについてはいい運命だったのかもしれない。
この地球上には何億人って人達が住んでいるけど、運命の人と出会う確率なんてほぼゼロに等しいのに、その運命の人と出会えたことは本当に奇跡だ。
これからも聖修との出会いは大切にしよう。もう、二度とこんなことはないと思うから……。
END