「あ、タケちー!」
と手を振るクミコ。
昼に連絡した時は、中学校は普段通りで問題ないと言っていた。
「タケルの学校はどうだった?」
「やっぱりなにもなかったよ。全然普通だった」
「そっか~。それならよかった」
それはそれとして……だ。
「でさ、タケル」
「うん、ごめん。ついて来ちゃった……」
校門正面の道路の反対側。そこの電柱から見覚えのある顔が三つ並んで覗いていた。
……
「どうしよう?」
「どうしようって言われてもねえ……」
なんか乾いた笑いしか出ない。
その時……
「お~い、宝生」
と、校舎の方から歩いてくる担任の角セン。タイミング悪いぞ。異世界人が来たと思って焦ってしまったじゃないか。
「お前たち、というか
「えー、あーしがなにかする前提って酷くないかにゃ?」
私たちが花壇で話し込んでいるのが気になって見にきたらしい。
なんだかんだでいつも生徒を気にかけてくれ、それでいて適度な距離感で接してくれる気のいいおっちゃんだ。
「ん? 君は中学生だろ。説明会はとっくに終わってるぞ」
……説明会?
「先生、説明会ってなんですか?」
「一週間前に言ったぞ。……ったく、中学生を対象とした学校説明会だ」
持っているプリントの束で、私の頭をパサッと叩く角セン。もちろん痛くもなんともなく、むしろ軽いツッコミのような感じだ。
「あ、それって今日だったのにゃ?」
「例の騒ぎで延期になってたんだよ。朝と午後の二回。もう終わってんぞ」
しまった……そういうことか。
私たちは顔を見合わせ、お互いの認識が同じであることを確認した。
「あ、この子は私の幼馴染なので……」
「そうそう、ウチらで案内しておきます」
「そうか、宝生がいるなら大丈夫だろう。あまり遅くなるなよ」
「はいにゃ!」
「
と言い残し、角センは笑いながら職員室に戻っていった。それにしてもクミコに対する教師陣の信頼度はかなり高い。
それはさておき……
「つまり、保護者や引率教師のフリをして、学校説明会に参加した異世界人がいるってことだよね」
確かにそれなら『転校生』や『臨時教師』ではないから、聞いてもわからなくて当然だ。
「あの、ちょっといい?」
と、授業中のように右手を軽くあげて会話に入ってくるタケル。
「おいもさんがこの間、『一つの
「その通りや。ショタ坊、ちゃんと覚えとるな。嬢ちゃんとは大違いやで」
「……ひと言多い」
タケルは校舎を右から左へと見渡すと、私たちが失念していたことを口にした。
「これだけの異世界人が一斉に転移してくるのは無理なんじゃないの?」
校内に感じる多くの魔力、しかし姿がまったく見えない。私たちはそんな現状に焦り、頭が回っていなかったのだろう。
「ショタ坊、おまえ天才か」
「当たり前でしょ! タケちーは天才なんだから!」
……あ~クミコ、今は推しムーブを抑えてくれると嬉しい。
「じゃあ、この魔力って」
「多分、虫や小動物に魔力を与えて、学校にばらまいたんちゃうかな」
おいもさんが言うには『魔力を感じても、見ていない相手を判断するのはほぼ不可能』らしい。
つまり、人間なのか小動物なのかはたまた虫なのか、あの時点での判別は不可能だったってことだ。
「じゃあ、レナが感じた『渋谷交差点のザワザワ感』って、その……」
「えっと……虫かごに入っていた昆……虫?」
非常に言いにくそうなクミコ。気持ちはよくわかる。私も想像した瞬間、背中がゾワゾワっとしたから。
「うう、なんかトラウマにゃ……」
「でも、なんでそんなことをしたのかな?」
「やられたで、これは……」
「おいもさん?」
「ワイらは釣り上げられたんや」
おいもさんのそのひと言で、クミコは口に手をあてて『ああ、もう……』と落胆の声を発していた。
「あのさ、アカリん。学校中に散らばる魔力に反応するのは、魔力を持った人間だけでしょ」
「うん」
「魔力調査に動いたことで、敵に『ウチらがあなたのターゲットです』って教えていたんだよ」
「あ、そういうことか……」
「そして、今感じる魔力のどれかが監視者やな」
「やられたわ。悔しいけど、上手いやり方ね」
クミコは校舎を睨みつけた。もちろんどこかにいる異世界人に対してのものだ。
「学校中に撒いた魔力虫は、ウチらをおびき出すだけじゃなくて」
「同時に、や。監視者が“自分の魔力を特定されないように隠れるためのもの”ってことやな」
なるほど。だから軍隊みたいな同じ魔力を点在させたのか。
「じゃあ、魔力を感じて、それでいてまだ調べていない場所。そして人の動きを見張れるのって……」
「ウチさ、一か所だけ思い当たるのよね……」
「うん、あーしも。やっぱり、あそこにゃ……?」
はぁ……また屋上か。