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第11話 生きる道

 ブラックウルフは難なく狩る事ができた。強敵の前に連携を実戦で確認できたのは大きい。ただ、この後も油断はできない。


 再び車を走らせ目的地へ向かう。


 車窓に映る街の景色は、荒れた感じの雰囲気だ。道端にはゴミや家具が散乱していて片付けもままならない惨状が露わになっている。


 窓を開けて風を感じながら車で走行しているが、森林が多いはずなのに空気の匂いは森林の香りというよりはゴミのようなにおいが漂っている。


 俺は訓練の時以来、城壁の外へは出ていない。実に十年ぶりくらいぶりじゃなかろうか。


 遠くに見えている山を見ながら呟く。


「そこにいるのか? 秀人……」


 なぜこんな言葉が出てきたのか。無意識に出た言葉に自分でも不思議だった。


 ズズゥゥゥンンッ


 何かの音が響き渡ったと思った瞬間、山の方面から何かが飛び出してきたのが見えた。衝撃で土埃りが舞い、こちらの進路を塞いでくる。


「デカいのが来たぞ! 出るぞ!」


 一同が下りると目の前の土埃が晴れてきた。そこにいたのは大きな赤黒い鬼であった。


「オーガだ! 力也出番だ!」

「アッシの出番っすねぇぇ! かかってこいやぁぁぁ!」


 雄叫びをあげながら振り回すのは力也用に作成した特注の大剣だった。大剣の全長が力也の身長程ある。これだけの長さを、怪力で振り回したらどうなるか。


 力也はこの身体に似合わず水属性の魔力を宿している。放出する魔法は得意じゃないらしい。それならなんの魔法を使うのか、肉体強化だ。


 人間の身体は成人で60%が水分でできているのをご存知だろうか。その60%全てを思い通りに動かせ、そして強化できるとしたらそれは最強に指がかかる程の強さになることを想像できると思う。


 オーガも二メートルほどある大きな体をしている。体の大きさは一回り小さいが、力では力也も負けていない。


「ウガァァァ!」


 オーガは手に持っていた鉄骨を振り下ろしてきた。


 ガヅンッッ


 力也は大剣の腹でそれを受け止めた。受け止めただけではない。力也はそれを横へと弾き飛ばしたのだ。なんて力だ。凄まじいパワーの応酬である。


 「ハッハッハァァ! 軽いぜぇぇぇ!」


 雄叫びを上げると鉄骨を更に弾き吹き飛ばして、大剣で袈裟斬りを放った。


 ダメージは与えたが、浅かったみたいだ。オーガは怒りに満ちた目でまだ立っている。効いてはいるが相手の身体も硬い。


「ウゴォォォ!」


 鉄骨を弾き飛ばされたので、オーガも考えたのだろう。肉体を使ってタックルをしてきた。


「うおおぉぉぉぉぉ!」


 そのタックルを同じようにショルダーチャージで真っ正面から突進していった力也。体が青く発光している。体内の水を最大限活用してパワーを上げているのが光として現れているのだろう。


 両者の力は拮抗し、硬直した時間が訪れた。


早波はやな、足回り頼む」

「はっ!」


 別に両者が正々堂々と戦う必要などないのだ。魔物相手にまともに取り合う必要などない。素早くオーガの足元へ行くと後ろの付け根を両足共に切り裂き、腱を断絶する。


「ウガァァァァ」


 これにはたまらずオーガも叫び声を上げた。膝をつき足に力が入らないようだ。力也は少し不満そうに大剣を持ち直すと首を刎ねる。


 魔石を取り出すとそれを渡してくる。


「隊長はアッシが負けると思ったから加勢したんですか⁉」

「別に負けるとは思っていないさ。ただ、ここでまともに相手して怪我したら本来の目的の討伐ができなくなるだろう? 今回の目的を念頭に入れろ。冷静に物事を考えることも必要だと思うが?」

「す、すみません! その通りです!」

「力は見せて貰った。素晴らしい力だったぞ。期待してる」


 俺が褒めてやると力也はあからさまにニヤニヤとしていた。そんなに力を認められたのが嬉しかったのだろうか。


 車に再び乗りこみ移動する。


「隊長、ありがとうございます。力也の事……」


 そう声を掛けてきたのはすぐ後ろに乗っていた幸地ゆきじだった。何のことを言っているのやら見当がつかなかった。もしかして、褒めたことを言っているのだろうか?


「褒めたことか?」


「そうです。力也は前の萬田の時は力だけの脳キンだから使えねえといわれてました。それに細い刀を持たせ、折れるたびに罵倒してたんです。それが悔しかったらしく……」


 (何やら萬田とは力也は因縁があるみたいだな。アイツはもういない。縮こまる必要はない)


 あの萬田は俺に負けたあのあと居づらくなったのだろう。魔法を二度と使わないという誓約書にサインして脱退したのだ。


 アイツがそんな誓約書など守るはずがないと思う。だが、使用がジスパーダに見つかった場合処刑だ。残酷だが、魔人というのはそれだけ一般人である無人の脅威となるのだ。


「そうだったのか。水属性を身体強化で使用するなんて俺には思いつかなかった。その発想は凄いことだと思うぞ?」

「そうですよね。最初理論を聞いた時なるほどって思ったんですよ。コイツすげぇなって」


 幸地は嬉しそうに話してくれた。コイツは、力也を仲間として好きでいるのだなと感じた。これは、必要なことだと思う。仲間は尊敬して、人として好意を持ってなんぼだ。


「幸地はよく見ているんだな。それはいいことだと俺は思う。本質を見極めるってのは上に立つ者には必要なことだと思うからな」


 その会話を皆が静かに聞き入っていたようで。恥ずかしくなったのか、幸地は黙った。


「アタイのことも褒めてくれたし、頼ってくれているものね。感謝してるよ」


 この声は早波はやなか。


「俺は適材適所というのは大事なことだと思っているんだ。何も刀剣部隊の者達だけではなく言えることだ。無人だが、手先が器用だから生産部隊で皆の力になる。それもよし。看護師になる為、勉強していた経験があるから治癒部隊に入り力を発揮する。それもよし。魔人だからと言って戦う必要もないと思う。自分の得意なことをする。別に役に立つ必要もないさ。多様に自分なりに生きて行けばいいんだ」

「「「はっ!」」」


 なんだか、畏まった話になり、みんなが敬礼をしながら返事をするような感じになってしまった。


「おっさんはダメだな。すまん。説教臭くなった」

「いえ! 僕達の胸には響きました!」


 そう言ってくれたのは幸地だった。他の面々も頷いてくれて、この若者たちは素直でいい子達だなと感心した。こんなオヤジのいうことを聞いてくれるなんてな。


 気が付けば目的地はもうすぐそこに迫っていた。

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