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第13話 親友と部下へ

 その日帰ったのは夜になってしまった。


 だが、部隊のみんなへ早く知らせたかったのだ。先に討伐が完了して今から戻ると連絡を入れてある。その時も驚きの声が上がっていたが。


 空に広がる星たちは俺たちの功績を讃えてくれているかのようにキラキラと輝きを放っている。


 暗い街並みの中、ひと際輝きを放っている基地の入口の検問で歓迎されてそのまま中に入っていく。すると、駐車場には沢山の部隊員が集まっていた。


「「「わぁぁぁぁぁ!」」」


「良くやってくれた!」

「信じてたよ!」

「みんなすげぇよ!」


 各部隊の面々は俺達が帰って来るのを待ってくれていたようだ。


 そこには討伐の報告を受けたのであろう武岩総長が佇んでいた。こちらをジッと見つめているその目には込み上げているものがあるように感じる。


 早朝の前へと整列し、ビシッと直立に立ち敬礼する。


「ただいま戻りましたっ!」


「報告は受けた。良くやってくれたな! これで天地も報われるだろう」


 笑顔でそう告げる武岩総長。俺もそう思う。


「天地の刀を持ち帰りました。鞘はないので作り直して莉奈に渡そうと思います。いいですか?」


「なにっ!? 刀は無事だったのか?」


 眉間に皺を寄せて、俺の言っていることがいまいち理解できていないようだ。


「魔物が使っていました」


「くっ! そういうことか。よくぞ持ち帰ってくれた。天地の奥さんに渡すことを許可しよう」


「ありがとうございます」


 頭を下げると同時にこれで仇を討てたという安堵感に襲われた。少しふっと身体の力が抜ける。


「刃、本当によくやったな。今日は祝勝会だ!」


「「「わぁぁぁぁ!」」」


 騒ぎながらみんなで食堂に移動した。

 すると既に食事とつまみ、ジュースや酒が用意してあったのだ。食堂のおばちゃんたちが残って作ってくれていたようだ。


 いつも提示で帰っているのに。残って作ってくれたんだという心意気に俺は込み上げてくるものを堪えるのに必死だった。


 いい香りが食堂に充満していて、腹の虫を刺激する。今にも腹が鳴りそうだ。もう帰ってしまっていたが、後でおばちゃん達にお礼を言おうと誓う。


 皆が思い思いの席に座り食事を始めた。もちろん討伐隊の面々は質問攻めである。


 どんな敵だったのか、どうやって倒したのか。苦戦したのか。やっぱり強かったのか。聞きたいことは山ほどあるようだ。


 少し経つと酒の入った幸地ゆきじが饒舌に語り始めた。


「みんなにも見せたかったですよ! 道中はボクたちが敵を寄せ付けませんでした! 速王そくおうさんも金剛こんごうさんも活躍しましたよ! 速王さんはブラックウルフの群れをほぼ一人で鎮圧しました。金剛さんはオーガを一人で抑え込みました!」


 その幸地の話に目をキラキラさせて話を聞くのは刀剣部隊員達だったが、他の部隊員も耳を大きくして聞き耳をたてている。


「ウルフ系は群れだと討伐が困難になるんだよな?」


「オーガって一人で抑えられないからパーティで何とかって感じだよな?」


「まぁまぁ慌てずに。その通りです。ボクがこの二人を選んだ理由はそこにあります!」


 部隊員からの矢次早な質問にニヤリとしながら答え、しまいには立ち上がり、演説を始めた。


「速王さんは風魔法を使用しての素早い動きが売りなんです! その速さは魔物をも凌駕します! その速さで相手の機動力を奪います。こうすれば後はとどめを刺すだけです!」


「なるほど。たしかにな」


「金剛さんの凄さに気付かない人は多すぎます! 水属性という属性上、放出する関係の魔法の使用にばかり目が行きがちです。ですが! 金剛さんは違うんです! 成人男性の水分量ってどのくらいかご存じですか?」


 幸地は得意げに語りながら今度は話を聞いていた部隊員に質問している。


「あー。二十パーかな?」


「ブブーッ! 実に六十パーセントと言われています!」


「そんなに!?」


「そうです。それを自由に思い通り動かせるとしたら。硬化させたり軟化させたり、熱したり冷やしたり。可能性は無限だと思いませんか!?」


「「「おおぉぉぉ!」」」


 聞き入っていた部隊員から歓声が上がった。たしかに硬さを変更させること、温度を変更させることまでは考えつかなかったな。やっぱり幸地は凄いな。


 そう感心しながら聞いていると。隣の武岩総長に肩を叩かれた。


「討伐隊の奴らは何やら一皮むけたかのぉ?」


「そうですね。いい経験になったと思います。刀剣部隊員の三人はこれからが楽しみです。きっとこれからを担う戦力になると思いますよ」


 俺がそう返答すると満足そうに頷いて酒を一口、口に含めた。


「飲んで大丈夫なんですか?」


 武岩総長は奥さんに酒はあまり飲まないようにと止められていたのだ。なんでも飲みすぎると説教臭くなって周りに迷惑がかかるから、飲むなら家で飲めと言われているんだとか。


「ふんっ! この程度では酔わんわ!」


「はははっ。ならいいですけど。俺も一杯もらいます」


 二つのグラスにビールを注ぎ入れ、一個は置いたままチンッとグラスをぶつける。


「親友に」

「よき部下に」


 空に向かってグラスを掲げて一口飲む。


「ああぁぁ。うまいですねぇ」


「あぁ。ここ数日。飲む気分になれなかったからな」


「はい。本当によかった」


 二人で顔を綻ばせる。

 突然武岩総長は険しい顔をする。


「よかったが、これからはこのくらいの強さの魔物の発生する可能性があるということだろう?」


「そうです。それに対応するには戦力の強化が必要です」


「そうだな。異世界化についての調査もしなければな?」


 その通りだ。異世界化については本当に何もわかっていない。ただ、今回のミノタウロスが初めてのBランクの発生だった。これから発生して来るだろう。


 この現象がどういうことなのか。俺の行く前と後で何が変わっているのか。その辺りを調べればわかってくると思うんだが。


「ちょっと俺の方でも資料を漁ってみます」


「あぁ。頼んだ」


 これからの課題は異世界化のなぞの究明。そして戦力強化が急務だ。

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