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第40話 ファクトリー結成

 ジョシュア先生とコノハ先生は向かい合う。


「この授業が始まる前の忙しい時期に、ノアヴィス洞窟へ行く余裕があったのか?」

「いやぁ~、大変だったぜ~。かわいい生徒のために、寝る間も惜しんで行ってきたんだ。おかげで寝不足だよ」


 ジョシュア先生はわざとらしく欠伸をする。


「コイツらに課した課題だぞ。お前が手伝っていいはずがないだろう」


 コノハ先生はまだ食い下がる。

 だがここで、ここまでずっと穏やかな調子だったジョシュア先生が初めて、威圧するような視線でコノハ先生を見た。


「それは通らないぜコノハ。お前が外部の協力を考慮していなかったのなら、お前は生徒を危険指定区域に誘導したことになる……厳罰処分だ」


 コノハ先生の言葉が、ここでようやく止まった。


「――コノハ先生。この通り、私たちは正当な手段でオーロラフルーツの種を錬成しました。ファクトリーの顧問になってもらえますね?」


 一転、ヴィヴィが強気に出る。

 コノハ先生は「むぅ……」と顔をしかめた。


「ふんっ。まぁいいだろう」


 コノハ先生は不敵な笑みを浮かべる。


「お前たち4人の素性について、詳しく調べさせてもらった」


 ヴィヴィの顔が青くなる。

 ヴィヴィだけじゃない、フラムと、アランも険しい顔をした。


「……どいつもこいつもおかしな能力をしているな。色の判別ができない奴、腕のない奴、爆弾しか作れない奴――そして」


 コノハ先生は俺を見るが、すぐに視線を切る。


「お前ら欠陥品共が集まって何を造るのか、少しばかり興味はある」


 言葉一つ一つに性格の悪さがにじみ出ているな。

 欠陥品……か。


 ヴィヴィの目、アランの腕、フラムのマナ特性、そして俺の――精神異常。

 俺たちにはそれぞれ欠けたモノがあるのは事実だ。


「暇つぶし程度にはなるだろう。ファクトリーの申請書をまとめたら、俺の研究所まで渡しにこい」


 そう言って、コノハ先生は研究室の出口へ向かう。


「……あまり俺の生徒をいじめるなよ。またコイツらを貶めるような真似をしたら、今度は怒るぜ」

「もう俺のファクトリーの部下だろう? 口出し無用だ」


 コノハ先生の去り際、ジョシュア先生とコノハ先生はそう小さく言葉を交わした。

 ジョシュア先生がため息交じりに俺たちの方を振り返る。


「それで、シャインアクアを取りに危険指定区域に踏み込んだお馬鹿さんは、誰かな?」


 アランとフラムの視線が俺とヴィヴィに集中する。

 俺とヴィヴィは観念して手を挙げた。


「いつっ!?」

「いたいっ!!?」


 ガツン! ガツン! とジョシュア先生のげんこつが俺とヴィヴィの脳天に叩きつけられた。

 あまりの痛みに悶え、跪く。ヴィヴィにいたっては涙目だ。


「まったく、今回は大目に見るが、次同じような違反をしたら容赦なく処分するからな」

「「……はい」」


 ジョシュア先生は懐から紙を3枚出す。


「これがファクトリーの申請書だ。今日中に書いて、俺に渡せ。俺からコノハに渡しておく。それと、ここはもう閉めるから、続きは教室でやってくれるか?」

「わかりました。色々と助かりました、ジョシュア先生」


 ヴィヴィが頭を下げる。俺たちも遅れて頭を下げた。


「大変なのはこれからだぜ。ファクトリーを一から立ち上げ、維持するためには多くの困難がある。頑張れよ」

「「「「はい!」」」」


 良い担任のクラスになったと、改めて思った。



 ---



 ジャッククラスの教室。

 俺たちはファクトリーの申請書を回し読みする。


「ファクトリーの名前、ファクトリーの顧問の名前と判子、ファクトリーのメンバーの名前および団長と副団長1人ずつ選出、ファクトリーの方針と最終目標。その他注意事項等々」


 アランが申請書の内容を読み上げていく。


「とりあえずこの中で決まってないのはファクトリーの名前と団長と副団長、あとファクトリーの最終目標だね」


 アランは紙を机に置く。


「一つずつ片付けていこう。まずはファクトリーの名前だな」


 まず案を出すはヴィヴィ。


「単純に“ゼネラルファクトリー”じゃ駄目かな?」

「単純すぎだな。捻りがない」

「ほう。そこまで言うんだ。君には素晴らしい案があるんだろうね?」


 ヴィヴィの手元にあるオーロラフルーツの種が視界に入った。

 そうだ、それなら――


「“オーロラファクトリー”っていうのはどうだ?」


 3人は乗り気な表情をする。


「それこそ捻りがない……が、悪くないな。オーロラには様々な種類の色があると聞く。ゼネラルストア……多くの種類の品物を売る私たちのファクトリーの名前としてはピッタリかもしれない」

「ジブンも賛成です。オーロラフルーツを看板商品にするんですし、わかりやすい方がいいと思います!」

「僕も異論はないよ」


 全員が納得した。


「というわけで、ファクトリーの名前はオーロラファクトリーでいくね」


 ヴィヴィが書類に書き込む。


「次に団長と副団長を決めよう」

「団長はヴィヴィさんでしょ」

「そうですね」

「異論なし」

「……私でいいのかい?」

「そもそもファクトリーを作ろうって言い出したのはお前だぜ。錬金術の腕も知識もこの中で一番だ。お前以外ありえない」


 俺が言うと、ヴィヴィは「わかった……」と書類に自身の名前を書き込む。


「次に副団長だけど……」

「それは団長であるヴィヴィさんが決めたらどうかな? ヴィヴィさんの側近になるわけだからね。ヴィヴィさんが一番信頼できる人間にするべきだ」

「そうだね……」


 ヴィヴィはアラン、フラムの顔を順に見て、最後に俺に視線を合わせた。


「君に任せていいかな?」

「団長のご命令なら従いますよ」

「……じゃあ、副団長はイロハ君に任せる」


 ヴィヴィは書類に俺の名を書き込む。


「最後に最終目標」

「全ファクトリーで売り上げ№1! ってのはどうだ?」

「採用」


 俺の意見であっさりと決まった。まぁ、賢者の石を造りたいヴィヴィにとって、この最終目標は上っ面に過ぎないしな。


「これでOKだね」



---ファクトリー申請書---



ファクトリー名

『オーロラファクトリー』


顧問

『コノハ=シロガネ』


団長

『ヴィヴィ=ロス=グランデ』


副団長

『イロハ=シロガネ』


団員1

『フラム=セイラー』


団員2

『アラン=フォーマック』


ファクトリー方針

『種類に依らず、様々な物を売るゼネラルストアを開く』


最終目標

『全ファクトリーで売り上げ1位』



------



 こうして、俺たちのファクトリー……オーロラファクトリーが結成した。

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