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『異世界に転生した親友が、俺のクラスメイトを殺しに戻ってきた。』
『異世界に転生した親友が、俺のクラスメイトを殺しに戻ってきた。』
マカロー
現代ファンタジースーパーヒーロー
2025年05月29日
公開日
1,481字
連載中
主人公の親友がある日失踪し、「トラックに轢かれて異世界に転生した」と噂されていた。 数年後、親友が謎の転校生として戻ってくる。 だが再会の夜、親友は主人公にだけ告げる――「このクラスには“この世界を滅ぼす鍵”がいる。俺はそれを殺すために帰ってきた」と。 異世界で神に選ばれ、超常の力を得た親友と、それを止めようとする主人公の戦いが始まる。

第1話 「異世界に転生した親友が、俺のクラスメイトを殺しに戻ってきた。」

四月の空は、どこか現実味がなかった。

 穏やかな風と、桜吹雪。通い慣れた通学路に、また新しい一年が始まる。


 ――もし、あの時アイツが死ななければ。

 俺はこんなに普通でいられただろうか。


「椎名くん、帰りにカラオケ行かない?」

 クラスメイトの誘いを断り、俺――椎名蓮しいなれんは教室を出た。

 今日から二年生。席替え。新しい担任。そして――


「……転校生が来るらしいよ。今さら?」


 その噂は、今朝からクラス中をざわつかせていた。

 始業式も終わって、全員がそわそわしながら迎えた五時間目。

 ガラリと開いた教室のドアの向こうに、そいつはいた。


「初めまして。天ヶ瀬一真あまがせかずまです」


 目を疑った。

 髪の色、背格好、声――すべてが変わっていた。だが、俺にはわかった。


 ……間違いない。

 三年前、“異世界に転生した”はずのアイツだ。


 あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。

 一真は事故に遭った。俺の目の前で、トラックに轢かれて――消えた。


 葬式もなかった。遺体も見つからなかった。

 「異世界に転生したんじゃね?」という冗談が、なぜか噂になって――


 でも、冗談じゃなかった。

 アイツは、本当に“異世界から帰ってきた”。


 放課後。

 俺は、一真に呼び出された。校舎裏のベンチ。あの頃、よくサボってた場所。


 風が吹いていた。懐かしい匂いがした。


「久しぶりだな、蓮」


 無表情でそう言うアイツの目は、まるで別人みたいだった。

 俺の中の記憶の一真は、無鉄砲で、笑顔のまぶしいやつだった。


「……生きてたのかよ」


「死んだよ。トラックに轢かれて。ちゃんと、死んだ」


 淡々と語られる事実に、喉が詰まる。


「転生したんだ。剣と魔法の世界で、俺は“選ばれし者”だった」


「……ラノベの読みすぎじゃないか?」


 俺の皮肉を無視して、一真は続ける。


「魔王を倒したよ。勇者として。だけど、あの世界の“神”に言われたんだ――

 『この世界にも“災厄の種”が眠っている』って。

 その種を見つけて、消さなきゃいけない。じゃないと、両方の世界が滅ぶってさ」


 風が止む。空気が一気に重くなる。


「なあ、蓮。お前のクラスに、“鍵”がいる。

 そいつは、気づいてない。でも、確かに存在する。だから――」


 一真は、かつての親友の声で、吐き捨てた。


「殺すしかないんだ。」


 心臓が止まるかと思った。言葉の意味を理解するのに、数秒かかった。


「お前、何言って――」


「止めるなよ。俺がやらなきゃ、世界が終わる」


「……ふざけんなよッ!」


 思わず声を荒げた。

 だけど、一真はまるで感情のない目で俺を見つめていた。

 剣を握っていた手と、同じように冷たいまなざし。


 あの頃の、一真はいなかった。


「もし、お前が立ち塞がるなら――お前も、“消さなきゃいけない対象”になる」


「……ふざけるな。俺たち、友達だっただろ」


「だった、な」


 淡々と、切り捨てるように。


「……明日から観察する。誰が“鍵”か、確かめるまで殺しはしない。

 でも特定できたら、俺は迷わない」


 ――この世界を守るために。

 そう言って、親友は歩き去っていった。


 残された俺の胸には、ひとつの感情だけが渦巻いていた。


 ――守らなきゃ。

 “あいつが何を信じてるか”なんて関係ない。

 俺は、この日常を、クラスの誰一人死なせずに守り抜く。


 だって、俺の知ってる一真は――

 こんなこと、望んでなんかいなかったから。


 教室に戻ったとき、一真はもう席に座っていて、何事もなかったようにノートを開いていた。

 クラスメイトが話しかけても、笑って応えている。


 でも――その中に、“鍵”がいる。


 世界を滅ぼす災厄の火種が。


 そして俺は、それを見つけて、一真より先に止めなければならない。


 これは、俺と親友の、決して交わらない戦いの始まりだった。

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