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忘れられし村と蠢く祠
忘れられし村と蠢く祠
とんこつ毬藻
ホラー怪談
2025年05月29日
公開日
1.6万字
完結済
加藤茉莉乃は都内に住む大学生。 ある日、茉莉乃はネットで知り合った友達『鶴ちゃん』から来た「助けて」のメッセージに、彼女が住んでいるという山奥の村へと向かう事となる。 都内から外れたローカル線を何本も乗り換え、たどり着いた場所はゴーグルマップにも載っていない、社会から忘れられた村だった。 村人を訪ね歩き、鶴ちゃんとリアルでの邂逅を果たす茉莉乃。しかし、リアルの鶴――振袖鶴子は、茉莉乃を拒絶するような態度を取り……。 閉鎖された村 村に定められた掟 祀られた土地神 壊してはいけない祠 因習村の秘密が暴かれた時、恐怖の扉が開かれる―― ネオページ様、プチコン02――因習村 参加作品です。 (〆切までに間に合わなかったらごめんなさい!) よろしくお願いします!

第1話 加藤茉莉乃

『でね、その後輩のからあげくんの反応がさ、凄く面白くて!』

『うんうん』


 スマホ画面上で素早く指を滑らせ、私は他愛ない会話を続けている私。一人暮らし向けのオートロックマンションの夜は静かだ。フリックとタップの音だけが部屋に響いている。


『あ、リノアちゃん、うち、そろそろ時間だ』

『おっけー、じゃあね、鶴ちゃん。また明日ーー』

『うん、また明日〜』


 SNSのチャット画面を閉じ、私はそのままダイブするようにしてベッドへ横になる。


 私の名前は加藤茉莉乃。都内の大学に通う二年生。地方から単身上京して来た私は、都内のマンションで一人暮らしをしている。


 特に悩みがある訳でもないし、大学生活もそれなりに楽しんで居るけれど、田舎育ちの私にとって都会の空気はあまり居心地の良いものではなかった。


 鶴ちゃんはたまたまスマホゲームで意気投合した同世代らしい女の子。らしいと書いたのはリアルで逢った事がないし、アバター同士じゃあ実際会ってみると年齢も容姿も全然違うなんて普通だから。


 同世代なのに訳あって家に引き籠もってるっていう彼女の境遇を心配したのがきっかけだったか、今ではもう憶えてないけれど、鶴ちゃんに関してはなんとなく惹きつける何かがあって、スマホゲームが終わってもSNSでいつも他愛ない会話をしていた。


 大学→カフェでアルバイト→ご飯食べながらスマホゲーム→鶴ちゃんとチャット


 これが普段の私の日常だ。


 スマホ画面から日常へと戻って来た瞬間、バイトの疲れがどっと頭へ重く伸し掛かって来た私は、重力へ身を任せるかのようにそのまま眠りについた。そして、そのまま明日を迎える筈だった――


 ピンポーン――


 とSNSの通知が光る音に目を覚ます。スマホの画面を見ると時計は深夜の2時22分を知らせていた。


「何もう……こんな時間に……広告?」


 表示されていた名前は……鶴ちゃん

 届いたメッセージは……


『  たすけて』

「え?」


 一気に頭が覚醒し、私は半身を起こしてSNSのチャットメッセージを開いた。


『鶴ちゃん、どうしたの?』


 すぐ変わる既読表示

 続けて送られて来たものは……。


「え? これって……位置情報?」


 ゴーグルマップの位置情報共有。そのままリンクを開いてみる。が、うまく表示されない。続いて乗換案内のリンクが来る。


 東京から東海道線へ乗って、静岡方面へ向かい、ローカル線へと乗り換える案内が続いている。これに乗れって事なんだろうか? 到着駅の名……文字化けしてるけど……。


『ねぇ、鶴ちゃん、どうしたの? 大丈夫?』

『何があったの? 此処へ行けばいいの?』


 そして……このあと、メッセージの代わりに鶴ちゃんから送られて来た写真は、よく分からない古びた祠の写真だった。 




「おばあちゃんが倒れたって……それは心配ね。行ってやりなさい。店の事は心配しなくていいから」

「はい、すいません瑠奈先輩。今度代わりにシフト出ますので」


 あのメッセージのやり取りから翌日、東京駅の構内からバイトの瑠奈先輩へ休む連絡をした私は、中央線から東海道線へ乗り換え、特急電車へ飛び乗った。


 熱海まで二時間、そこから乗り換えて更に小一時間、ローカル線まで入れると五時間近くの長旅だ。こんな長い時間電車に乗るのは上京して来た時以来だ。


「鶴ちゃん……無事だったら、帰りに静岡土産。瑠奈先輩とバイトのみんなへ買って行こう」


 そうこの時はまだ、鶴ちゃんが本気半分、冗談半分で私を地元へ招待したのかも位に思っていたんだ。私が東京の話をする度に、鶴ちゃんの住んでいるところは山しかないって話してた。でも家に天然温泉があるって話を聞いた時に、田舎好き且つ温泉好きの私は『行きたい行きたい!』って話した事があったんだ。


「たぶんあの時の話を鶴ちゃんは覚えていてくれたんだな」


 乗り換えの熱海駅で買った鯛めし弁当を食べ終え、名前も知らないローカル線へと無事乗り換えた私は一路、鶴ちゃんの示した駅へと向かっていた。昨晩は深夜に目が覚め、早起きでの長距離移動。お腹いっぱいになった私はついウトウトして眠ってしまっていた。


『……ノアちゃん。リノアちゃん……』

『ん……誰……?』

『わたしよ…………り』

『ん……嗚呼……久しぶり……え?』


 目が覚めると、同じ車両には誰も乗っておらず、電車はトンネルの中を走っていた。私寝ちゃってたのか……って、今どこよ!


 トンネルの中でスマホも圏外。GPSも分からない。


『次は~~××らぎ駅~~~××らぎ駅~~』


 車両アナウンスは雑音混じりでうまく聞き取れない。何処なのよ、もう!

 トンネルを抜け、私はスマホを開く。すると、ゴーグルマップで昨日、鶴ちゃんが示していたらしき山の中へ電車は向かっているようだった。


「あ、よかった。無事着いたみたい」


 あたりはすっかり夕暮れ時。空は夕陽をいっぱいに浴びたかのようにあかく染まっている。古びた駅は無人駅で、案内はところどころ剥げていて、文字が読めない。それはまるで何年も前に役目を終えた駅のようで。


『鶴ちゃん、駅へ着いたよ! 今から向かうから!』


 私は鶴ちゃんへメッセージを送ろうとするも、メッセージを送信出来ませんでしたの表示。何故かスマホが圏外になっている。通信障害か何かだろうか? GPSもクルクル表示でエラー。仕方がないので駅を降りて、私は駅から一本だけ続いていた田舎道を歩いていく。電線が続いているって事は、きっとこの先に町か村があるんだろう。そうして暫く歩いていくと、ようやく小さな民家が見えて来た。


 村の入口らしき昔ながらのアーチ型の門。ようこそ、●●●●村への文字も朽ちていて見えない。あ、よかった! 第一村人発見だ。少し安堵の息を漏らした後、私はちょうど入口付近に立っていたおばあさんに鶴ちゃんに繋がる手掛かりがないか尋ねてみた。


「あ、あの! すいません! 鶴ってお名前の子、この村へ居ませんか?」

「…………近づくな」

「え?」


 一瞬、何て言ったのか分からず聞き返した私。給食当番の子がするような白い頭巾に、割烹着姿のお婆さんは皺の寄った顔を全力で真ん中へ集めたような形相で、私へこう言い放った。


「アヤシロ様の祠へは近づくな」

「えっと……私、鶴って名前のつく子を探していて……」

「アヤシロ様の祠は決して壊してはならない!」


 それだけ言い放ったお婆さんは、踵を返してお婆さんとは思えない速足で、村の奥へとスタスタ歩いていった。


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