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川の向こう側
川の向こう側
オデットオディール
ホラー怪談
2025年05月29日
公開日
1.7万字
完結済
大型連休を使って集まった高校時代の同級生5人。 久しぶりに集まった5人はキャンプへ行く事にする。 何となく決めたキャンプ場、緑がいっぱいで安全、混んでいないという口コミを見て決めたのだが。 カーン、カーン… キャンプ場に来てからずっと遠くで鳴り響いている鐘の音のような音。 管理者だという大男。 寂れた感じのするキャンプ場で、同級生5人組が体験する事とは…?

第1話ーキャンプ場ー

「なあシンジ、ここで合ってるよな?」

車の運転をしている真人まさとが聞く。

「あぁ、多分…合ってると思うけど…」

助手席でそう言いながら俺はもう何度もアプリの地図で確認していた。

「なぁ、あそこ! あそこ、管理小屋じゃね?」

後部座席に座っていた春樹はるきがそう言う。春樹が指さした場所には小さな小屋が立っている。予約を入れたキャンプ場の写真に映っている小屋だが、実物は何だか暗く湿っぽい。


◇◇◇


俺たちは高校の同級生。高校を卒業してそれぞれみんな、違う道を歩く事になり疎遠になっていたが、大型連休に便乗してキャンプに行こうという話になり、仲間を集めた。キャンプの発案者は運転をしていた真人。真人と俺と春樹は大の仲良しだった。今は真人は大学生に、春樹は就職して社会人に、俺は浪人という名のフリーターになった。


◇◇◇


「ねぇあの建物、大丈夫なの?」

そう聞くのは後部座席で不安そうにしている亜希子あきこちゃん。麗奈れなちゃんもその隣で不安そうにしている。二人とも同じ高校の同級生だ。とりあえず車を停めて、その管理小屋らしき建物に行ってみる事にした。

「あのー、すみませーん…」

声を掛けたのは真人。人の気配が無い。

「間違いなんじゃね?」

そう言うのは春樹だ。


カーン、カーン…


どこか遠くから鐘の音のようなものが急に響いた。

「この辺、鐘の音がなるとことか、あったっけ?」

そう聞く真人。

「いや、全然、分かんねぇ。」

この辺には来た事が無い。キャンプ場を探していて、緑に囲まれた安全なキャンプ場だと書いてあったし、それ程、混まないっていう口コミを見たから、ここにしただけだし。


ガタンッ!!!


急に大きな物音がして、俺たちはビクッとなる。


バンッ!!


背後で大きな物音がして驚いてそっちを見ると、そこには一人の男が立っていた。

「お客さんかな?」

その男がそう言う。

「あー、あのー、今日、5人で予約入れてあった神崎と言います…」

真人がそう言うとその男が近付いて来る。近付いて来られて初めて分かったのは、その男が大男だという事だ。ゆうに2メートルはある。

「あぁ、神崎さん、ね。予約入ってるよ、手続きと注意点があるから、入って。」


遠くで鐘の音のようなものがまだ鳴っている。


カーン、カーン…


「チッ。」

その大男が舌打ちする。


◇◇◇


小屋の中で手続きが終わる。その大男はシキョウという名前だそうだ。

「苗字かな、名前かな。」

春樹が小さい声で俺に聞く。

「知らねぇよ。」

そう言うとシキョウさんが言う。

「苗字だよ。」

シキョウさんはそう言って少しだけ微笑む。その微笑みを見て、何だか少しほっとした。見た目は大きくてえらく無愛想、眉間に皺が寄っていて、怖い雰囲気だったから。

「俺の下の名前はオウゴというんだ。」

不思議な響きの名前だ。今まで聞いた事が無い。

「これから注意点を言う、良く聞いてくれ。」

シキョウさんがそう言って、話し出す。

「このキャンプ場は人里離れている。だから自然いっぱいで何をしても、夜中に騒ごうと、誰にも文句は言われないが…」

シキョウさんがそこで言葉を区切る。

「火の元にだけは気を付けてくれ。火が付いたら山ごと焼けるからな。」

そう言ってシキョウさんは俺たちに地図を渡す。

「火を扱って良いのは、この河原の一区画だけだ。テントを張る区画では火を使わないでくれ。」

まぁ言われている事は至極、真っ当だ。

「それから、河原の奥には行かない事。」

そう言われて反射的に春樹が聞く。

「何でですか?」

シキョウさんはそう聞かれて少し笑う。

「この川の奥は俺の土地じゃないからだ。」

地図にある川。その地図の川向うには真っ赤なラインが引いてある。

「他人の持ち物だ。俺はそこでは役に立たない。」

役に立たない? 何でそんな言い方になるのか、引っ掛かる。

「それ以外なら、まぁ、人里離れているから、何をしても、どんな時間に動こうと、何も言わん。」

シキョウさんはそう言って、立ち上がる。

「車はこの小屋の前に止めてくれ。俺はずっとお前さん方がキャンプしている間はこの小屋に居る。」

不意にスッと手を差し出して、何かを渡そうとする。俺が恐る恐る手を出すと、手の中に落ちて来たのは鍵だった。

「この小屋の裏手にキャンプで使えそうなものは置いてある。何でも好きに使え。肉も野菜も酒も。」

そう言ってシキョウさんがニヤッと笑う。


◇◇◇


俺たちはとりあえず、テントを張る区画に入った。だだっ広い空き地のような場所。俺たち以外に利用者は居ないようだ。

「なぁ、何か気味悪くね?」

春樹がテントを立てながらそう言う。

「まぁな。」

そう言ったのは真人。

「でも、酒も肉も野菜も、好きに使って良いって言うし、これからBBQでもして、気分変えようぜ。」

俺がそう言うと、春樹が笑う。

「だな!」


カーン、カーン…


鐘の音のような音がまだしている。


◇◇◇


女の子二人には河原に運んできた野菜なんかを切って貰って、俺たち男衆はそれの手伝いをする。河原にはBBQ用のコンロも網も炭もある。日差しを遮れるように簡易の日よけを立てて、その中で5人でワイワイ、楽しむ。最初こそ、ちょっと気味悪かったが、BBQをしているうちにそんな気分もどこかへ行ってしまった。


たらふく食べて、川遊びをする。

「川向うは行くなって言ってたよな?」

そう言ったのは春樹だ。

「あぁ、何か言ってたな。」

真人が言う。

「何か説明あったんだ?」

亜希子ちゃんがそう聞く。

「うん、何か、所有者が違うから、行くなってさ。」

真人が亜希子ちゃんに言う。

「ふーん。」

亜希子ちゃんは川向うを見ながらそう返事をする。

「何にも無さそうだけどね。」

そう言ったのは麗奈ちゃんだ。確かに言われてみれば、川向うは鬱蒼とした森。木々に阻まれて奥は見えないけど、きっと森が続いているんだろうと思った。


カーン、カーン…


ずっと鳴り続けている鐘の音のような音。


「あれ、何の音なんだろうね。」

亜希子ちゃんが聞く。

「さぁ?」

春樹がそう言いながら笑う。

「別に良くね?何でも。俺らには関係ねぇし。」


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