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「ねえ、旦那様?」
「ねえ、旦那様?」
柚木ゆきこ
ホラー都市伝説
2025年05月29日
公開日
1.9万字
完結済
「祠には、絶対に触れるな」  大学の夏休み、御堂真守(みどうまもる)は祖父母の遺品整理のため、限界集落――因習村へとやって来た。 静かで退屈な村。そんな中、祖父が生前管理していたという古びた祠の存在を知った真守は、気分転換のつもりで足を運ぶ。  隣人からの忠告を守り、決して祠には触れまいとしていた真守。だが、足を滑らせた拍子に、左側の扉を壊してしまう。  その数日後。 真守の前に、ひとりの美しい女性、スズラが現れる。  顔の右側に巻いてる包帯  彼女の持つ古ぼけた鍵  偶然見つけた古文書の言葉ーー。    遺品整理を終えたその夜。 ついに彼女に「家に帰る」と告げた真守。それを聞いた彼女は……。  壊れてしまった祠の左の扉―― それは決して触れてはならない、“何か”を封じたモノだった。

私はー、今あなたの目の前にいるーー

第1話 202×年 7月19日――

「ねぇ、旦那様?」


 鈴の鳴るような声が耳に入ってくる。

 まるでその声が夢の底へと誘導するかのように――俺の意識は、闇へと溶けていった。



 **


 202×年 7月19日――


「あー、面倒だなー」


 文句をこぼしながら、俺はじいちゃんたちの家を片付けていた。田舎の古い木造の家で、床はぎしぎし鳴るし、窓はやけに重たい。それ以上に埃っぽいのが嫌だな。

 それにここはいわゆる限界集落ってやつらしい。見渡す限り田んぼや畑、山しかない。携帯も辛うじて繋がるけど、遅いしな……それもあって娯楽も何も無いんだよ。


 ――ん? なんでこんな場所に来たのかって?


 簡単に言えば、片付けと遺品整理。亡くなったじいちゃんの家を、しばらく預かることになったんだ。暇なのが俺しかいなかったからな。

 まさか大学の休みにこんな事を頼まれるとは……俺だって思わなかったよ。

 元々ばあちゃんはだいぶ前に亡くなっていて、じいちゃんは半年くらいに亡くなったんだ。四十九日は終わったんだけど、両親の時間が取れなくて俺がここに来たんだよ。

 俺はばあちゃんの位牌が置かれている仏壇を見た。


 あれ、あそこの仏壇に置いてある仏様……今こっちを見なかったか? 気のせい――だよな?

 思わず目を逸らした俺は、その背に、ひやりとした風が流れた気がした。


 俺はブルブルっと体を震わせたあと、仏壇に背を向ける。なんとなく、仏壇を見るのが怖くなったからだ。俺は違和感を拭うために鼻歌を歌いながら部屋を片付けていく。その時、「あ」と思い出した事があった。


「そうだ、じいちゃん……確かあっちの山も管理してたよな。一応誰かに確認した方が良いか」


 なんだったかなー? じいちゃんから「あの山には神様がいる」って話を聞いていたような気がするんだけど……あれ、どうだったかな?


 じいちゃんの話を思い出そうと、うんうん唸る俺。ふとその背に感じたのは誰かの視線。

 なんとなく、なんとなくだが……その部屋にはもういたくなくて、俺は寒気に背中を押されるように外へ飛び出した。


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