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第37話 会議1 光ノ輪教団 ナギ視点

定例会議。


人に害をなす異能力者を討伐、異能力者の保護、または異能を騙った事件などを防ぐための「警護隊」

巫女、神職、術師らで構成され神の加護を賜る「敬神(けいしん)の会」

ネットを制するロジックマスターが所属し、情報統制を行う「電子警備隊」

異能に関わる事件、事故を担当する「特異存在解明調査班」

異能力者らを保護した後に差配している「籠ノ守部(かごのもりべ)」

それに広報。

加えて、異能暴走事件の被害遺児を保護してる弘原海(わだつみ)先生。

隊長クラスの人間、そして弘原海先生側からは代理として秘書の蓮見(はすみ)さんが一堂に会する場。

そしてそれらを取り仕切るのが杠葉(ゆずりは)長官だ。



「いやーみんな忙しいのにご足労をかけてゴメンね~。さくっと終わらせて昼飯に行こうね」といつもの調子で杠葉長官が明るく声をかける。

俺たちのような制服姿の警護隊員から、スーツを着てる特異存在解明調査班と電子警備隊そして蓮見さん、私服姿の籠ノ守部と広報、そして雑面(ぞうめん)で顔を隠し装束(しょうぞく)を纏う敬神の会が集まるこの場は一見異様に見える。


「まずは壱番隊から報告してね」と左手でもって俺の発言を促す。

「壱番隊。今年の花火大会の警備を受け持ち担当で、今は警備計画の最終確認を行っております。例年通りに対異能力者には敬神の会と協力体制を取り異能力を無力化する結界を敷き対処予定」

「当日は一般市民の小競り合いとか色々トラブルが発生するから臨機応変にお願いね。で次は弐番」

「弐番。ノラネコを新たに複数人確認。個々の異能の種類はまだ未確認だが少なくとも観念動力と精神感応能力者、特に記憶操作系が居ると思われる。メンバーの情報はタブレットで共有してるから確認してくれ」

「了解、もうちょっと異能の種類を絞り込みたいから特異存在解明調査班ちゃん、加賀宮ちゃんと打ち合わせしといてね。ここ最近の事件からいって、おそらく強力な攻撃型観念動力者が居るだろうから慎重、かつ安全にね」

声をかけられた特異存在解明調査班が大きく頷く。

情報は後で確認して隊員らにも共有しなければ。

表面上大きく目立った動きは無いが、数年前から発生している資産家らの謎の死とノラネコが絡んでるのではと言われてるので、さぞや上層部もやきもきしてるだろう。

被害者には五行本家の当時の老当主も含まれている。

恨みからの犯行なのか、原形をとどめないほどに五体が引き裂かれていたという。

護国機関所属の残留思念を読める異能力者からはいずれの犯行現場からも「黒い喪服を着た女」が視えたという。

黒色のベールに包まれた顔は一切視えなかったらしい。

通称「クロネコ」と呼ばれるその女の足取りは他の異能力者の協力があったのか、追跡はできなかった。



「次は参番隊報告してね~」

それを受けて隊長の五行(ごぎょう)が発言する。

「新たに出来た「新興宗教 光ノ輪教団」に祀られてるという霊石調査の為に潜入。教祖自体は異能もなくただの凡人。磐座(いわくら)信仰を謳う奴らが「石神さま」だと主張する石はせいぜい霊石レベルでありますがその石はF県の霊山から調達してきたとのこと。教団自体は放置しても差し支えないレベルなんですが、霊石の処理は上の指示待ちです」

「F県かあ。あそこは村人集団神隠し事件の場所だからね。元村周辺は禁足地なんだけど立ち入っちゃったか。そんなにメジャーな事件じゃないのに情報社会って怖いね」

「その霊石は消失した村人らを弔うために近隣住民が道祖神として祀っていたものです。個々の祈りは弱くとも200年程の時間を経てそれなりの力を得たかと。ただまだ能力としては低く、神具としての流用は不可能なレベルです」

参番から事前に報告を受けていたらしき特異存在解明調査班が補足する。

石はある一定以上の祈りの力を得ると霊石へと昇華される。

そしてそれを少し「頂戴」し、神具へと加工し俺たち護国機関の道具としても使う。

異能を持たない俺たち警護隊にとっても希少な武器となる。

本来なら人間だけで構成せずに警護隊にも異能力者を配属すればいいのだが、昔警護隊に所属していた異能力者らがノラネコらによって故意に暴走を引き起こされ甚大な被害が出た為、現在の警護隊所属は基本的に人間のみとなった。


「1夜にして村人全員が光と共に消失した場所だと心霊スポットとして数年前に話題になってましたね。消えたのは人間のみで家畜らが無事だったという不可思議な点と、現代でも説明がつかない事件は興味をそそるのでしょう。もっとも一部では未知のウイルスが発生して政府によって皆殺しにされただとか特殊部隊の人体実験の場所だったという陰謀論もあるようですが」

ネットを監視している電子警備隊も心霊スポットや怪異に纏わる話は随時チェックしている。

ここ数年は特に視聴者稼ぎで心霊スポットなどを安易に訪れる動画配信者が居て困ると以前の会議でもこぼしていた。

「よりにもよって神の怒りを買った場に立ち入る人間が居るだなんて信じられませんね。ここまでこの国の民の信心は地に落ちたかとあきれ果てます」

雑面で顔を隠した敬神の会の代表者が怒りと侮蔑を込めて言う。

「そういったものを認知できないのもある意味人間の強みだからね。敏感な体質なら近寄りにくい雰囲気の場なんだけどねぇ。まぁいいや35人もの人間が神隠しに遭った「F県K村人集団神隠し」も情報送っておくからみんな一読しといてね」



特異存在解明調査班が事前に用意しておいたのか、すぐさまタブレットにフォルダーが送られた。

中を確認すると、数枚の廃村の写真と明確な地図、そしてテキストがあった。

古ぼけた写真を見ると、つい先ほどまで人が暮らしていた痕跡が残っているのに老若男女問わず突然消えた様子がうかがい知れる。

後でじっくり読むつもりだが、軽くテキストを流し読むと「「侵してはならざる存在」に村人らが害をくわえた事による「天罰」だと推測」「これを踏まえ今後、確認できた異能力者は「籠」にて保護することを強く推奨する」などという文章が目に入った。

俺たち警護隊員が異能力者を保護をするのも悪意のある人間から彼らを守るためだと入隊時に聞いた。

曰く、異能力は神、あるいは魔のものからの贈り物でそれを持つ能力者はそれぞれの加護を得てるという。

その中に特に寵愛を得てる存在が居、彼らを迫害すると神隠しなどの罰を受けるという。

神おろしが出来る三つ目の巫女を筆頭に、他に複数居る姫巫女と呼ばれる存在もそれにあたるらしい。


「君たちも異能力者を見かけたらどんどん保護してね。とはいっても一見した限りではわからないから探しようがないんだけどね。みっちゃんの御先祖様のように、三つ目だったり、角が生えていたりしてたらわかりやすかったんだけどねー。心無い人間の迫害から逃れるために姿をお隠しになられ、一般人とは見分けがつきにくくなってしまったのが痛いよね」

杠葉長官は深くため息をつく。

三つ目の巫女みたいに血脈を追えていたら楽だったろうな。

他には、先祖返りと呼ばれる「人とは違う見た目」の者も希少だが存在しているらしいが、一般市民に溶け込んでいるらしく、彼らを発見、保護するのは至難らしい。

俺たち普通の人間には大小の差こそあれ「霊力」が備わってるらしいが、敬神の会に所属している巫女、神職らにはヒトと違って「神力」があるらしい。

そしてその先祖返りと呼称されるものたちも。

敬神の会らの持つ神力によって俺たち警護隊が持つ武器に様々な「付与」が行われ異能力者と渡り合えるという話だ。




それから肆番(よんばん)隊へと淀みなく報告が続いていった。



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