「偉大なるハルメニウス様。我々教団のメンバーは神をこのように呼びますが、それは厳密には神の御名ではありません。神の名はわたしたち人間ごときが口にできるものではないのです。ハルメニウスの名は、わたしたちが祈りを捧げるために下賜された仮初のものに過ぎません。そもそも神と呼ばれる御方は……」
クラスメイトの
やや離れた場所で帰り支度をしていた
宗教に興味はない。そもそも人づきあい自体が億劫だ。
いつものように誰にも声をかけられないうちに帰宅する。そのつもりだった。
ところが、この日はクラスメイトの男子が、行く手を遮るように立ち塞がった。
「よお、希美ちゃん。帰りに俺等と一緒にゲーセン寄っていかね?」
背の高い男子生徒だ。いわゆるイケメンに分類されそうな顔立ちだが、その笑みはどこか軽薄な印象を受ける。
クラスの中心人物的存在の
連れ立って遊びに行くつもりなのだろう。
希美に声をかけてきたのは、おそらくたまたま目に留まったからで、深い意味はない。何かにつけ思いつきで行動する男なのだ。
間違っても自分からは近づくことのない人種で、ただでさえ人付き合いが苦手な希美としては、話しかけられること自体迷惑だ。
ひとまず制服の上に羽織っている水色のパーカーのフードを目深に被り直す。もちろん断る以外の選択はなく、目を合わせないようにしながら、それを告げるつもりだった。
しかし、そのタイミングで、先ほどの深天が口を挟んでくる。
「いけませんよ、藤咲さん。ゲームセンターなどという穢れた場所にクラスメイトを連れて行くなんて」
「いや、穢れてねーし」
「いいえ、あそこは
「なんだよ、その決めつけは? 少なくとも、俺らが通ってるところは、そんなところじゃねーよ」
「通ってる!? ああ、なんと嘆かわしい」
深天はふらつくように後ずさると大げさに頭を抱えた。
「神よ、このバカで愚かな唐変木な子羊に天誅をお与え下さい」
「なんでいきなり天誅なんだよ!? 普通、まずは正しい方向に導くもんじゃねーのか!?」
藤咲が言い返すと、深天は軽くうなずいた。
「それもそうですわね。では、そのようなところには足を向けないとお誓いなさい」
「バ、バカかよ、お前は。なんでそんなことを、お前なんかに指図されねーといけねーんだ!」
くだらない諍いを続けるふたりをクラスメイトたちは苦笑気味に眺めている。慣れているのだ。仲が良いのか悪いのか、藤咲と深天が舌戦を繰り広げるのは、新学期が始まって以来、日常茶飯事だった。
そしていつもと同じように今回も最後には藤咲がそっぽを向く。
「もういい。行こうぜ、みんな」
それを聞いて希美は内心ホッとした。自分が誘われたことがうやむやになったと思ったのだ。
ところが、藤咲は歩き出すときに、さも当然のように希美の手をつかんでいた。
(あれー?)
もんくを言う暇もなく、希美は引きずられるようにして、級友たちと一緒に教室を出て行くはめになった。
流されやすい性格である。