【鎖国】さ-こく
外国との貿易や交通を制限し、国を閉ざすこと。日本では江戸時代にこの政策がとられ、幕末まで続いた。
2×××年
日本は再び鎖国を行った。【new!】
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2×××年、4月1日。
新年度の始まりに、人々が慌ただしく過ごしていた朝7時。
新入生や新社会人は緊張と期待に心躍らせ。特に変化の無い者たちは、いつも通りのルーティンをこなす。そんな朝。
かくいう私も、今日から新社会人のひとり。
しかし気分は憂鬱で、期待なんてものは1ミリもない。緊張感もなければ、やる気もない。
いや、そもそも……私には。
生きる気がなかった。
「……死にたい」
何度目かもわからない呟きとともに、テレビのスイッチを入れた。
テレビはあまり好きではない。
うるさいし、暗いニュースを観るとこちらの気分も暗くなる。明るいニュースは眩しすぎてそれはそれで辛いし、ドラマは感情が揺さぶられすぎてしまうから観れない。
バラエティとアニメはものによりけり、メンタルの安定してる時なら観れるけれども。
それでもスイッチを入れたのは、なんの気まぐれだったか。
ピッと小さな機械音とともに、画面が明るくなる。映し出されたのは朝の情報番組で、ニコニコ笑顔のお姉さんが天気を教えてくれていた。
「今日の天気は、晴れです!えー、こちら、現在のお台場の様子です……」
卵かけご飯に醤油をちょびちょびと垂らしながら、ぼーっとテレビを眺める。
そのまま数滴垂らしてから醤油瓶をテーブルに置き、代わりに箸を手にとる。
死にたいと言いつつ、飯を食う。
なんて相反する行動だろうか……なんて考えながらお茶碗を左手に掴もうとしたその時だった。
ピロリンッ!ピロリンッ!
テレビから謎の機械音。
何事かと思ってテレビを見ると、アナウンサーのお姉さんが慌てて言った。
「臨時ニュースが入りました!画面切り替わります!!」
その言葉が終わるや否や、画面が切り替わる。
お姉さんの代わりに現れたのは、白い壁に背を向けて立つ、スーツ姿のメガネおじさん。
汗をハンカチで拭き拭き、緊張した面持ちだ。
「えー……」
「日本国民の皆さまに大切なお知らせをいたします」
「本日より、日本は」
「”鎖国”します!!!」
「……」
「えー、お知らせは以上です」
そこで映像はブチッと終了した。
ニューススタジオが映される。
皆、何が起きたのか分からないといった様子だったが、ハッとしたように突然笑顔を貼りつけて喋りだす。
「い、いやー、驚きましたね!」
「ですね!鎖国って、あの鎖国ですかね?学校の歴史の授業で習った」
「そうとしか思えませんけれども、急すぎませんか?そういった政策案とか出てましたっけ」
わいわいと話すテレビの中の人たちをそのまましばらく眺めた後、私は静かにテレビを消した。
「いや……」
「鎖国ってなによ」
ようやく絞り出した言葉は、どうでもいいような一言だけだった。
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衝撃的な政策の実施が国から発表されてから、1ヶ月が経った。
その日のうちに”鎖国”は実施された。
まず、少しだけ安心(?)してもらいたいのだが……鎖国といっても完全な鎖国では無かった。
禁止されたのは、人の行き来と、一部の品物の貿易、そして文化や技術の国外発表だ。
こちらから他国へ行くのはもちろん、他国から来ることも出来なくなる。しかし、多少の例外(仕事とか家族とか)はあるし、今現在他国にいる人もいるわけだ。急に帰れなくなるのは困るだろう、そういう人たちへの配慮もきちんと存在した。
貿易についても、大抵のものは今まで通りである。食料自給率が高い国では無いのだ、当然の措置だろう。天然資源だって、日本では採れないものもある。
日本からの輸出もそうだ。日本製が必要とされているものだってあるだろう。
そして文化や技術の国外発表についてだが……一般の人々が特別何かしなければならないということはそう多くない。
あるとすれば、SNSやネットへの書き込みや画像等のアップロードに注意すること。それくらいだった。
しかし、一部の産業が突然の変化に悲鳴をあげていたのは、言うまでもないだろう。
ものすごーく大きく変わったことは少なかった。だが、少なかったとはいえ、変わったことが無かったわけでは無い。
え?
それは何かって?
……。
魔法が、使えるようになったのだ。
しかも、使えるようになったのは特別な人間だけというわけではない。ほとんど、誰でも。日本人ならばという注釈はつくけれど。
そう、突然の鎖国とともに始まったのは”魔法時代”だった。