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第7話 ボスを討伐するそうです

 扉の奥は薄暗く、苔や植物が繁茂していた。それもそのはず、なんだってここのボスは"キルツリー"と呼ばれる、木の形をした魔物。


 そして初心者殺しと呼ばれる魔物だ。


 能力は、自然回復が凄まじいこと、そして地面から生えてくる根による物理と、木の葉による魔法攻撃。


 その何度も、配信で見てきたボスが、アマネの前に、姿を現した。彼女の興奮が頂点に達する。


「みなさん〜!行きますよ。Let's ダンジョンですっ!」


 忘れてはならないのは、彼女がダンジョン配信のヲタクであること。攻撃パターン。弱点。HP残量による行動の違い、すべてを熟知している。


 もちろん、相手も生き物なので個体により攻撃パターンなどは、異なることがほとんどだ。しかし、それは"少し"であることだ。動物と、植物と同じように魔物にもDNAというものが存在する。


 よって、いつもの攻撃パターンは本能によって決められていることであり、高度な知識、脳を持たない限り、その本能は偽れない。


 アマネは、元々キャラデザにあった小さなナイフを取り出す。ライブ画面でも彼女のナイフカバーが空になるよう設定されており、両手にそのナイフが収まるようになっている。


 魔物の攻撃を避けながら鋭い斬撃を食らわしに行く。それに歯向かうように根を動かす獲物魔物。彼女はそれを完全に無視する。なぜなら、それには向かい撃つ先客がいるから。


 プラルグ姉妹。アッタカーの妹とサポーターの姉とで組まれている初心者向けの配信を行っている配信者。しかし、その実力はすさまじく、息ぴったりの連携により、2人同時に相手をするならば、ダンジョン配信者の最強決定戦のベスト20に入る実力だ。


 妹の能力は、魔法剣士。剣士にも色々と種類があり、剣の中の術式を使いながら、戦えるというバランスタイプでもある。


 そして、その術式をバトル中のリアルタイムで組み替える姉のサポート。相手によって付与する魔法を瞬時に理解し、剣の属性を素早く切り替えている。


 よって、今現在彼女の剣には、炎の魔法が付与されていて、大きな火炎弾がアマネの攻撃できる進路を作ってくれている。そして、炎属性がついた剣で下の根を攻撃し、大きな動きをできないように緻密な位置に斬撃を入れる。


 その間をすり抜けるように動き回るアマネ。よって、魔物自身はそのスピードと、現在の状況把握能力に追いついていない。動かせる根を動かし、葉をナイフのように地面に突き刺す。


 当たらなければ、意味もないが……。


 彼女たちの、手の中で踊らされた結果、根の上を走り、大きく飛び上がったアマネによる上からの斬撃によって、討伐された。


 アマネは、息が荒いながら画面を盛り上げる。


「みん、なー。なんとか、ボスを討伐、できた、かな?本当に、プラルグ、姉妹には感謝しかないね。縛りプレイも上手くいったから本当に良かった。」


【アマネちゃん、運動神経良すぎ!】


【プラルグさんの連携カッコよかった。フォローしました!】


【このコラボ連携凄すぎ、またやってほしいな。】


 たくさんの、お祝いコメントがあふれるなか、画面には大きな笑顔を浮かべた3人組が映し出されるのであった。


 ***


 事務所に戻り、社長に今日の配信の出来を聞いてみた。本当は、自己分析したいのだが、わたしがオッケーでも、周りの人から見たら危なく感じたり、不快に思わせる行動があった可能性があるからだ。


 何にしろ、今日はテンションが上がりすぎた。


「おかえり、結愛ちゃん。」


 彼女はいつもどおりの笑顔で結愛を迎えてくれた。アマネとしての彼女ではなく、結愛としての彼女で配信を見てくれている数少ない存在のなかの一人である。


「今日の配信は良かったと思うよ。うまく、立ち回れていて、プラルグ姉妹からも『またご機会があれば、コラボを前向きに検討したい!』と、言っていただけたしね。」


「この業界では人間関係は大事なんだから…」そう、続ける彼女の言葉を遮った。


「咲羅さん。わたしは、ダンジョン配信者を出来ていたでしょうか?誰かの心を傷つけなかったでしょうか?本気でダンジョン配信者を出来ていたでしょうか?」


 VTuberが、面白半分にやっていると思われているんではないか?私一人が盛り上がっているだけなのではないだろうか?そんな、疑問が彼女のなかで渦巻いていたのである。


「本気で……。っていうのは、結愛にしか分からないことだよ。だから、それを他人に聞くのは少し違うかな?」


 はじめは叱られるのだと思った。変なことを聞いたことはよくわかっている。しかし、社長の続いた言葉は違った。


「わたしもいい配信だったと思うよ。言ってなかったけど、前は大手のVTuberのマネージャーみたいなことやってたんだ。流行りに乗るためにたくさんのVTuberをプロデュースしたし、教えたりもした。だから、アマネの配信はアマネらしくでいいと思う。」


 真っ直ぐな目線がこちらを向いていた。


「今は、VTuberもダンジョン配信者も飽和時代だからね。一つ、もっとたくさんのの個性、魅力がないと生きていけない…。そんな、なか結愛にはSkillがあって、第一条件はクリアしている。それに、コミュニケーションの取り方も好評だし、うちの技術は中の人の感情をアバターに映し出すものだ。しっかりと喜びを分かち合えるような人ではないといけない。」


 そう言うと、少しスマートフォンを操作し始める。


 「そういう所を結愛は、しっかりと出来てるよ。これを見てみなよ。」


 そう言って、見せてくれたのはわたしの配信の切り抜き動画。チャンネルを見る限り、プラルグ姉妹の切り抜き動画が多い。彼女たちのファンなのだろう。


 画面には、わたしのボス戦のトドメが、切り取られている。うまく、編集されてると思うしBGMもつけられていて、センスが良い。


 動画の最後の方になり、このままクローズアウトで終わると思っていたら、そこに映し出されたのは、最後のアマネの笑顔。


 きれいに笑えている自分と思う。こんな、表情できたんだ。少し前はすべてに絶望していたというのに……。


「よかっただろう?」


 社長の質問に、結愛は大きく答える。


「はい!」

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