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第30話『任務完遂』

「……」


 回収物を集合地点へ運んできた秋兎あきととクリムゾン。

 しかし、2人を待っていたのは敬意と沈黙であった。


「報告にあった通りでした」


 秋兎あきと華音かのんへチップ型の機械を手渡す。


「お、お疲れ様でした。これほどの数を回収いただきありがとうございました。別二組も、それぞれ資料などを回収いただきありがとうございました」

「収容されていたモンスターも討伐できたわけですが。こんなことが地上で起きている事実はどうするんですか?」

「一つ一つ探して対処していくしかないですが……あの様子だと、時間がかかるだけではなく、相手側の用意の方が速い可能性もあります」

「とりあえず、帰り道で話をしましょう」


 全員がそれぞれの車内へ乗り込み、出発。


「それにしても、秋兎様の凄まじさを再認識致しました」

「まあ、それだけの経験をあっちの世界でしてきましたので」

「そういえば秋兎様は、相手の世界へ転移させられた、とのことでしたが。神様から何か授かったりしたのでしょうか?」


 と、運転手の華音かのんは、助手席に腰を下ろす秋兎へ問いかける。


「この――なんでも収納できる空間をプレゼントとして貰いました」

「うわ、なんですかそれ。すっごい便利じゃないですか」

「そうですね。でも、生物とか建造物とかは無理ですけど」

「この世界では、どちらにしても凄すぎるものですよ」

「後は、短剣ですね。【絶剣】って名前らしくて、絶対に折れない剣みたいです」

「それも凄いですね」

「以上です」

「え? もっと、こう、凄そうなスキルとか魔法とかそういうのはなかったのですか? あそこまで強いのに?」

「俺もそうは思いました。こんな理不尽な目に遭わされているなら、せめて楽に生きさせてくれる何かをくれてもいいんじゃないかって」

「でも、なかっと」

「はい」


 この話を聞いても、華音は完全に信用できていない。

 それもそのはず。

 華音は、これまでほぼ直接秋兎たちの凄まじい力を目の当たりにしている。

 であれば、常人から逸脱した力とその力を有する仲間からの厚い信頼はどう説明できるのか、疑問で疑問で仕方がない。


「今となっては想像もつかないと思いますが、アキト様は間違いなくなんの変哲もない少年でしたよ」

「えぇ……」

「それこそ、わたくしと初めて顔を合わせたのは、たぶんちょうどあちらの世界に来た直後だったのでしょう。妙な光の柱を調査するべく、偶然にも付近に居たわたくしが急行して出会ったのです」

「あのときは、さすがに肝が冷えたよ」

「その節は大変失礼いたしました。ですが、あれもわたくしに課せられた役目でしたので」

「いいよ、今となってはいい思い出だから。まあでも、邂逅初手で首に剣を突き付けられるとは思いもしなかっけど」

「しっかりと反省しております」


 現実味のない話に華音はついていけないが、繋がって話が続く。


「ボクもあのときは、すっごく反省してるんですよ」

「さすがにあれは死んだと思ったよ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「わたくしが事情を聞いた後、待機してもらったのですよね。ですが、侵入者と間違えて戦闘になってしまって大怪我を――」

「ボクが全部悪かったんだぁー! ごめんなさいーっ」

「とまあ、そんな感じで異世界へ転移させられて剣聖と盾聖に痛めつけられたわけです」

「アキト様、少しだけ言い方が悪いですよ」

「ごべんなざい!」

「たしかに、今となっては笑い話ですが、当時の心境はお辛い境遇ですね」


 本当の意味で別世界の話を繰り広げられている中、華音はさきほどの光景を伝える。


「あちらの皆様、私もそうですけど口が開きっぱなしになっていましたよ」

「そういえば中継で見てもらっていましたね」

「ええ。最初の発端はクロッカスがセシルさんに吹っ掛けたかたちだったのですが」

「吹っ掛けた?」

「わたくし、あのときはさすがにカチんときてしまいまして。危うく首を斬り落とすところでした」

「え」

「え」

「だってアキト様の強さが疑わしい、という感じのことを言われましたので、つい」

「あまり恐ろしいことを唐突に言わないでください。事故を起こしてしまいます」

「俺のために怒ってくれたのは嬉しいけど、これから仲間として活動していく人に、次からはそんなことをしちゃダメだよ」

「今回で次はなくなりましたから大丈夫です。ですが一応、肝に銘じておきます」


 華音も冗談でそう言っているわけではなく、しっかりとハンドルを握る手に力が入りすぎて車が蛇行してしまった。


 ちなみにセシルは口頭でそう誓っているものの、アキトに対して不敬な態度が散見される場合は容赦なく剣を突き立てる所存である。

 それは当然、敵であろうと仲間であろうと贔屓ひいきの目なしに。


「ボクたちは、何もわからないから鍵がかかっている部屋をドッカンボッカン壊し回ってましたよ!」

「えぇ……」

「でも収穫はあったんだろ?」

「はいっ。なんだかになんとかすると使える何かを発見しました! どうやら、物凄く壊れやすいみたいです」

「その説明だとなんも伝わらないがな」

「ボクには難しい話でした!」

「そ、そうか」

「ちなみに、パソコンに接続する記憶媒体です」

「いやごめんなさい。俺も同じく、説明されてもいまいちわかりません」

「アキト様、仲間ですねっ!」


 アキトは、悔し顔に胸元をグッと握って「何も嬉しくない」と呟く。

 それを横目に、華音は苦笑いを浮かべ、今後の話に移る。


「今回の一件は、一応は疑惑程度でした。しかし、こうして既に実験段階から実用段階まで進んでいる様子から、今後の対応が難しくなっていきます」

「と言いますと?」

「今回はこちら側から先手を打てたので良かったですが、あちら側から攻められたら想像もしたくありません」

「場所が限定されておらず、民間人も巻き込まれる可能性がある。ということですね」

「はい、その通りです。臨機応変に対応する他ないですが、場所の数もそうですがモンスターの数も未知数です」

「たしかに」

「一応ですが、皆様は瞬間移動のような遠くの場所へすぐに移動する手段などはあるのですか?」

「高速移動というわけではなく、ワープのような、ということでしたら今のところは手段がありません」

「わかりました――ん? 今のところは?」


 その問いには、後部座席で静観していたフォルとエグザが口を開く。


「妾は、アキトと出会うまでそのような発想がなかったからの。魔法の研究が遅れてしまったのじゃ。いろいろと忙しかったし」

「それに関しては我も一緒だな。人間との戦争で忙しかったし、かと思ったら一瞬で仮死状態になったし。いや、あれは死んでた、の方が正しいのか?」

「まあ細かいことはいいじゃない。という感じで、俺はフォルとエグザの成果に期待しているんです」

「協力状態になれば、じゃが」

「いがみ合う理由はなくなったといえ、さすがに時間はほしいからな」


 華音は当然、「仲間なのでは?」という疑問を浮かべて首を傾げる。

 それを観ていた秋兎は、ちょうどいい機会と踏んで話し出す。


「実は、フォルとエグザは姉妹というか双子の存在なんです。種族も一緒で。名前は違うのですが、フォルが霊王、エグザが魔王でして」

「なんだかもう、気が動転しなくなってきました」

「それで、あんなこんなあって。フォルは仲間になってくれたのですが、エグザは立場上そうはいかなくて」

「話を聞かずカッとなったのは反省しているが、1撃で負けた。スパッと首を落されて――」


 話を割り込むように、関係者兼当事者であるオルテが口を開く。


「一応、その前に僕が1撃で殺されてるんですけどね」

「えぇ……」

「それに関しても悪いと思っている。だが、長年の歴史や因縁は既に膨大なものになっていたのだ」

「それは僕だって理解しているよ。だけど、僕はアキトの意思を尊重して全てを託した」

「本当、それが一番理解できない。勇者がアキトを仲間にするならまだわかるが、アキトや勇者を仲間にするなど今となっても理解に苦しむ」

「まあね。僕も自分のことながらに凄い考えに至ったなと思っているよ。だけど、後悔はしていない。結果としてもアキトは英雄になり、英雄であり続け、生きとし生ける者の全てを背負って神々との戦いに勝利してみせたのだから――」


 オルテの話を遮ったのは、華音の急ブレーキだった。

 幸いにも完全に人気がない道路であったから、二次被害はなかったものの、4台分の車間距離を空けていた特殊部隊員たちが乗っている車両も急停止。


 すぐに華音へ緊急連絡のコールが鳴るも、応答せず一言。


「あ、あの。神って、あの神ですか」

「はい、たぶん想像している通りの神です」

「なるほどわかりました。私、もう全ての話を理解するのを辞めようと思います」


 以前、話を聞いていた際は「何かの隠語なのだろうか」と流していた話が、いよいよ自身の目で確認した数々のおかげで一気に現実を帯びた。

 だからこその驚愕であり、だからこその真実であり。


 華音はそれら逸話を信じずにはいられなくなってしまったからこそ、半ば全てを諦め、半分まぶたを閉じて虚ろのまま車を再発進。


「話を中断してしまい申し訳ございません。私は完全に傍観者となりますので、続きをどうぞ」


 華音は想う。

 自分が運転している車に乗っている人たちは、もしかして想像しているよりも想像を絶する存在なのでは、と。

 出会ってから今まで化物染みた存在だとは理解していたものの、なんとなく普通に会話できていたから、と油断し過ぎていたのでは、と。

 だからこそ思う。

 明日からの立ち振る舞いをどうするべきか、不敬を働いたら自分の首が文字通り飛ぶのではないか。

 そして「私はとんでもない役割を担ってしまったな……」と。

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