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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件
我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件
木ノ花
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年06月03日
公開日
4.7万字
連載中
異世界貿易×獣耳幼女たちと送る非日常ほのぼのライフ! パワハラに耐えかねて会社を辞め、独り身の気楽な無職生活を満喫していた伊海朔太郎。 だが、凪のような日常は驚きとともに終わりを告げた。 ある日、買い物から帰宅すると――頭に猫耳を生やした幼女が、リビングにぽつんと佇んでいた。 その後、猫耳幼女の小さな手に引かれるまま、朔太郎は自宅に現れた謎の地下通路へと足を踏み入れる。そして通路を抜けた先に待ち受けていたのは、古い時代の西洋を彷彿させる『異世界』の光景だった。 さらに、たどり着いた場所にも獣耳を生やした別の二人の幼女がいて、誰かの助けを必要としていた。朔太郎は迷わず、大人としての責任を果たすと決意する――それをキッカケに、日本と異世界を行き来する不思議な生活がスタートする。 最初に出会った三人の獣耳幼女たちとのお世話生活を中心に、異世界貿易を足掛かりに富を築く。様々な出会いと経験を重ねた朔太郎たちは、いつしか両世界で一目置かれる存在へと成り上がっていくのだった。 ※まったり進行です。

第1話 猫耳幼女

 猫耳を頭に生やした幼女が、我が家のリビングにぽつんと佇んでいた。


 食料品の入った袋を抱え、帰宅したところで俺たちは鉢合わせた。状況が意味不明すぎて自分の目がおかしくなったのかと何度か擦ってみたが、視界に映る猫耳幼女の姿は一向に消えない。


 仕方ないので、覚悟を決めて容貌を確認する――黒髪青眼の幼女だ。透き通るようなその青い瞳が、こちらをじっと見つめている。


 身長は俺の腰に届かないくらいに小柄で、年齢はおそらく四歳前後。

 黒髪のボブヘアに縁取られた顔は、将来かならず美人さんになると断言できるほどに整っていた。ジュニアモデルとして活動したらさぞ人気を集めることだろう。


 ただし、それはきちんと身なりを整えた場合の話……率直に言って、美点が台無しになるほど薄汚れていた。


 髪は傷み放題のバッサバサで、ぼろ布と見紛うような生成りのワンピースを身にまとい、下は裸足。それにガリガリに痩せていて……大変失礼ながらちょっと臭う。


「もしかして近所の放置子とか……いや、違うよな」


 口にした思いつきを自ら即座に打ち消す。

 幼女がこの辺りの子供ではないことは明白。なにせ、頭に『黒い被毛に覆われた猫耳』を生やしているのだから。おまけに、ほっそりとした黒い尻尾のようなものまでもが背後で揺れている。


「コスプレとか……?」


 心を落ち着けるためにあえて尋ねてみたが、猫耳と尻尾が作り物ではないことは一目瞭然だ。幼女の感情に呼応しているようで、あまりにも生々しく『ぴくぴくゆらゆら』動いている。


「うーん……」


 にわかには信じがたい話だが、どうやら本物らしい。近所どころか同じ惑星の住人かさえも怪しくなってきた。もしや警察案件なのでは?

 そこまで考えて、俺は恐るべき事実に思い至る。


「これは、かなりマズいぞ……!?」


 猫耳が生えていようが、幼女は幼女。対して、こちらはジャケットにテーパードパンツという一般的な私服姿なのだけれど、相手のズタボロ加減との対比により『虐待現場』のような構図が成立してしまっている……つまり、間違いなく事案だ。


「……俺は『伊海朔太郎(いかい・さくたろう)』。28歳、独身です。キミはどこの何ちゃんで、何歳かな? 親御さんはどこにいるの?」


 俺はどうにか平静を装って問いかける。一人暮らしで目立ちにくいとはいえ、できるだけ早く保護者のもとへ返さなければ、無実の誘拐暴行犯として逮捕されかねない。


 しかし、猫耳幼女は声をかけられると思っていなかったのか、ぽかんと口をあけてこちらを見上げていた。


「えっと、言葉はわかる?」


 適当に荷物を置き、驚かさないようにゆっくり近づく。こちらが動き出した途端、相手の華奢な体がビクッと震えた。


「大丈夫。怖くないよ」


 親と逸れた子猫を保護するがごとく、できるだけ警戒心を和らげようと中腰になって語りかける――けれどそこで逆に、意を決したような面持ちの猫耳幼女に詰め寄られてしまう。


「わ、なになに!? ちょっと待って、落ち着いて!」


 何を思ったか、ジャケットの袖口を懸命に引っ張りだす猫耳幼女。

 行動から察するに、俺をどこか別の場所へ連れて行きたいらしい……それはもうすごい形相で、必至に助けを求めるように見えた。


 なんとか宥めようとするものの、袖を引く手は止まらない。むしろ次第に込められる力は強まり、しまいには両手でぐいぐいされることに。


「わかった、わかったから……」


 状況は依然として把握できないが、とにかくただならぬ様子。

 俺は根負けして袖を引かれるままに歩きだす――ペタペタと足音を鳴らして猫耳幼女が導いた先は、階段下のスペースにある広めの『納戸』だった。


 今は亡き祖母から相続したこの一軒家(二階建て)は、数年前にリフォームして新築同然に生まれ変わっている。


 そしてこの納戸は後から増築されたもので、現在は物置として利用している。たまに空気の入れ替えは行っているが、ここしばらくは扉に触れてもいなかった。


「……それなのに、ちょっと開いてるね。ここになんかあるの?」


 触れた覚えのない納戸のスライドドアが少し開いていた。子どもが出入りしたら、ちょうどこのくらいの隙間ができるだろうな。


 扉を見つめながら犯人に見当をつけていると、案の定その隙間からするっと中へ潜り込む猫耳幼女である。


「ちょ、待って!?」


 袖を引く手を離してくれなかったで、俺も仕方なく納戸へ足を踏みいれる。中は8畳ほどの広さで、収納棚と未開封のダンボール箱、加えて予備の家電などが置かれている。


 周囲をざっと見渡してみるも、数ヶ月前に越してきたときと変わりないように思える。

 それでも念を入れて電気をつけると、信じられない異変が目に飛び込んできてまたも驚愕するハメになった。


「なにこれ、穴……?」


 なぜか床板と壁の一部がごっそり消失しており、車一台くらいがするりと潜り込めそうな謎の開口部が存在していた――いや、違う。軽く覗き込むと石造りの段差のようなものが見えるので、これは地下と通じる『階段』なのだろう。


 とても不思議だ。

 この家には、地下室やシェルターの類は存在しいないのだけど……。 


「もしかして、君はここから来たのかな?」


 尋ねるも、やはり返事はない。けれど、開口部に向けられる青い瞳が正解であると告げていた。きっと、この先に目的地が存在しているのだろう。


 すると思った通り、迷いなく俺を不気味な階段へと導く猫耳幼女――まるで不思議の国に迷い込む物語の冒頭シーンのようじゃないか。


「うわ、なんで明るいの……」


 石造りの階段をくだる途中で、思わず足をとめた。

 何かしらの光源があるらしく、中は思いのほか明るい。いったい何がどうなっているのか。しかしそんな疑問はすぐに氷解する。


「ああ、これのおかげか」


 小さな先導者に袖をひかれ、改めて階段をくだる。程なく、やはり石造りの通路のような場所にたどり着く。


 その壁沿いには謎の光がゆれるランプのようなものが複数設置してあり、通行に支障がでない程度の明るさが確保されていた。


「ていうか、あれはなんだ……」


 驚きはさらに続く。

 通路は一直線に伸びている――そして中腹あたりの空間の平面が、油膜のはった水たまりみたいにうっすらと虹色に光り、ゆらゆらと穏やかに揺れていた。


 おそるおそる確認すると虹の膜は透けており、先の様子をうかがえる。まるで通行ゲートのように感じられた。


「ああ、うん……わかったよ。行くよ」


 あまりの怪しさに足を動かせないでいると、不意にぐいっと腕を引かれる。視線を下に向けると、袖を握る猫耳幼女が『早くいこう』と必死に催促していた。


 あの虹色のゲートを通るのはあまり気乗りしない……が、せっかくここまで来たのだから好奇心に任せて進んでみるとしよう。というか、そもそも通れるのだろうか?


「……別になんてことなかったな」


 意を決して前進してみれば、何の抵抗もなくあっさり通過できてしまった。むしろ気持ちがホッと落ち着いたような気さえする。まるで魔法だ。


 続いて視線の先には、またも石造りの階段が現れる。先導に従うと、次はこれを登るらしい。

 ややあって最上段へ達すると、今度は古びた石造りの一室に行き当たる。


「ここは、倉庫……?」


 首を振って周囲の様子を確認してみたところ、今は使われていない倉庫のような印象を受けた。木箱や樽の残骸らしきも物が散らばっていたのだ。


 左手側にある出入り口からは外光が差しこんできている。俺はそれを見て、あちらに目的地があるのでは、なんて当たりをつけ始めていた。


 その時、突如として猫耳幼女が駆け出す。

 袖から手を離し、あっという間に部屋から飛び出していく。


 やはりな、といった心境だ。俺も足早にその後を追う。そして部屋を出てすぐ、思わず感嘆のつぶやきを漏らす。


「これは、すごいな……」


 そこには、淡い輝きを湛える『純白の女神像』が厳かに佇んでいた。


 この場は屋内であるものの、欠けた屋根から陽光が降り注いでいる。加えて周囲は荒廃しており、見上げるほど立派なサイズの彫像を設置するには不釣り合いだ――しかしその退廃的な背景が却って、夢のような儚さを伴った神秘性を一層強調している。


 この美しい光景に、俺はしばし見惚れていた。

 だが、それもつかの間のこと。


「ルル! こんなときにどこいってたの!?」


 背後から子供の悲痛な叫び声が聞こえてきて、ハッと我に返って振り向いた。


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