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夢の中でだけ彼氏だった好きな人が闇堕ちしたので、戦うことにしました
夢の中でだけ彼氏だった好きな人が闇堕ちしたので、戦うことにしました
春音優月
現代ファンタジー異能バトル
2025年06月03日
公開日
1,846字
連載中
内気で、友達が一人もいない女子高校生の蒼海瑠璃(あおみるり)。同じクラスの人気者の八雲流星(やくもりゅうせい)くんに密かに恋をしているが、話しかけることさえできない。 そんな瑠璃の唯一の楽しみは、毎日眠りにつくこと。 夢の中でだけは、理想通りの明るい自分になることができる。そして、八雲くんの彼女だった。 しかし、甘く幸せな夢は少しずつ歪み始める。 優しかった八雲くんが闇堕ちして、瑠璃に襲いかかってきたのだ。 異変は夢だけではなく、やがて現実の世界まで巻き込み始め――。 闇堕ちした八雲くんを救うため、瑠璃は仲間と共に戦う決心をする。 これは、弱い自分を忘れるための『夢』? それとも、『現実』と向き合うための戦い?

第一章 孤独な現実

第一話 理想の世界に行く方法

 今の自分を変えたいですか?

 別の世界に行きたいですか?


 現実は、簡単には変えられないですよね。

 だけど、たった一つだけ方法がありますよ。

 夢と現実をそっくり入れ替えればいいんです。


 夢の中では、あなたは望んだ通りの自分になれます。

 願った通りの世界になります。


 理想の夢を見る方法は、簡単です。

 眠る前に、ただ強く強く――あなたの望みをイメージするだけ。


 望み通りの夢を見ることに慣れてきたら、次は夢を現実だと意識しましょう。そして、夢を現実に、現実を夢に変えてください。


 ◆◆◆


 真っ暗な画面に、赤い文字が浮かぶ。


「何これ、こわ……」


 寝る前にベッドに寝転がってスマホを見ていたら、変なサイトにたどり着いちゃったみたい。


「夢の中の世界に入り込んじゃって、もう二度と目が覚めないってオチだよね」


 あわてて一つ前の画面に戻ると、これまでの検索履歴が出てくる。


『自分 変える方法』

『明るい性格 なりたい』

『別世界 行く』


 こんなことばっかり調べてるから、怪しいサイトが出てくるんだよね。


 webアプリを閉じて、写真フォルダを開く。そこに写っているのは、黒と白のハチワレ猫。


「グレン。今日ね、せっかく好きな人に声をかけてもらえたのに、また上手く話せなかったの。本当にダメだよね、私って」


 画面の中で気持ち良さそうに眠っている猫――グレンは、もちろん何も答えてくれない。


 お父さんとお母さんは、私の物心がつく前に事故で死んじゃったらしい。おじいちゃんとおばあちゃんに引き取られた私は、ずっとグレンと一緒だったの。


 グレンは、私が生まれる前からこの家にいたんだって。

 昔から内気だった私のたった一人の友だち。

 もちろんグレンが人間の言葉を話すわけじゃないんだけど、いつもじっと私の話を聞いてくれて、何でも理解しているみたいな猫だった。『泣いてばかりいないでしっかりしろよ、瑠璃るり』、そんな声が聞こえてくるようだったよ。


 そんなグレンも年をとって、眠るように逝っちゃったんだ。


 たった一人の友だちを失った私は、どうしようもなく落ち込んだよ。おじいちゃんとおばあちゃんに心配されちゃうぐらいに毎日泣いて、泣いて……。


 神さまお願い、一生友だちも彼氏もいなくていい。

 なんでもしますから、グレンを生き返らせてください。

 ――そんなことを願ってたっけ。


 あれから一年と少し。もちろんグレンは生き返らなかったし、高校二年生になっても相変わらず友だちは一人もいない。好きな人とお話しすることさえできない。


 私の好きな人――去年からずっと同じクラスで、剣道部の八雲流星やくもりゅうせいくん。

 いつもさわやかで、誰にでも優しくて、明るくて、みんなの人気者。私もあんな風になれたらなって見てるうちに、いつのまにか恋してた。


 だけど、私はずっと見てるだけ。

 今朝だって……。偶然下駄箱のところでバッタリ八雲くんに会ったとき、彼は笑顔で話しかけてくれたんだ。


『おはよう、蒼海あおみさん。昨日部活で県大会があってさ、まだ眠いよ』


 落ち着いた茶色の髪と瞳、160センチの私よりも20センチぐらい背の高い彼。やっぱり今日も素敵で、いつも通り輝いていた。


 (おはよう! 昨日はおつかれさま)

 (県大会、どうだった?)

 (試合、今度見に行ってもいい?)


 おしゃべりなのは私の頭の中だけで、口から出てきたのは言葉にもなってない情けない声。


『あ……』


 ペコリと頭を下げるだけで、私は精一杯だった。


『いきなり話しかけてごめんね』


 キラキラした八雲くんの笑顔も曇って、困らせちゃった。きっと、変な子だと思われたよね。


 どうやったら、他の子みたいにまともに話せるようになるんだろう。私だって、本当は友だちがほしい。好きな人とも楽しく話したい。


 何一つできないこんな自分、大嫌いだよ。


「グレンのところに行きたいよ」


 グレンの写真を見ていたら涙が込み上げてきて、ツーッと頬を伝う。それを手で拭い、スマホを枕元に置く。


 部屋の電気を消してから、暗闇の中で目を瞑る。

 そのまま眠ろうとしたのに、さっきの怪しいサイトに書かれていたことがふと頭をよぎった。


 夢と現実を入れ替える、か。

 もしも望んだ通りの自分になれるなら、夢でもいいかもしれないな。何もかも上手くいかないこんな現実なんて、戻ってこれなくたって……。


 八雲くんと楽しくお話したい。

 明るい自分になりたい。

 グレンにもう一度会いたい。


 サイトにあった通り、自分の望みを強く強くイメージする。どうせ叶わないだろうけど、でも、もし本当だったら……。途中で雑念をはさみながらも、何度も願い直しているうちに、しだいに意識が遠くなっていった。

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