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第40話:自由な飼い猫

 野澤 真帆(のざわ まほ:仮名)さんという女性から聞いた話。


 小学校2年生の頃、どうしても猫が飼いたかった野澤さん。両親に何度もお願いして、その年の誕生日に子猫を1匹買ってもらった。


 メスの三毛猫で、名前は「プリン」。好奇心旺盛で、ベッドの下に潜り込んだり、本棚を爪で傷つけたりと、小さな頃から元気いっぱいだった。


 プリンが大きくなってからは放し飼いにしており、よく野澤さんの家を抜け出しては近所を散歩していた。家に帰ってくるとエサを食べないこともよくあった。散歩しながら色んな人にご飯をもらっていたのだろう。首輪をつけてなかったから、ノラ猫に間違えられていたのかもしれない。飼い猫にしては、かなり自由な暮らしをしていた。


 そんなプリンが姿を消したのは、野澤さんが高校1年生になってすぐのことだった。いつも通り散歩に出かけたきり、帰ってこない。「すぐに戻ってくるだろう」と最初は深刻に考えていなかった野澤さん一家だったが、翌日になっても帰ってこなかったので、流石におかしいと思い始めた。


 どこかで交通事故にでもあったのだろうか……あるいは保健所に連れて行かれてしまったのだろうか……


 3日経ってもプリンは戻ってこなかった。野澤さんは家族で協力し、プリンを探しながら近所を巡った。貼り紙も作り、街の掲示板や電柱に貼って回った。


 しかし効果はなく、野澤さん一家がプリンと会うことは二度となかった。


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 プリンがいなくなって1年ほど経った頃、野澤さんはテレビで興味深いニュースを見つけた。


 小学生の男の子を誘拐、殺害した容疑で30代の男が逮捕された。男の家からは大量の猫の死骸が見つかった。ノラ猫と見られ、全て首が切断されていたとのこと。「数年に渡って猫を殺し続け、その矛先が人間の子供に向いた可能性がある」と専門家は分析していた。


 その男の住まいとされていたのは、野澤さんの住む市内。しかも野澤さんの家から歩いて30〜40分ほどの地域だった。


 また、これはだいぶ年月が経って野澤さんがインターネットで見た情報なのだが、犯人は殺した猫の血を注射器で自分の血管に注入していたらしい。「母親にかけられた呪いを解くために必要だった」と話していたそうだが、普通では考えられない行動だ。


 プリンの散歩コースに犯人の家付近が含まれていたとも考えられる。もしかしたらプリンもこの男の毒牙にかかった猫の1匹になってしまったのかもしれない。


 この話自体が数十年前の出来事であるため、今となっては確かめようがない、と語ってくれた。

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