…どうして、出ていくことが出来なかったのか。
電車を乗り継いでゆりのアパートに行くと、ちょうど部屋から出てきた2人に出くわした。
とっさに身を隠したのは、俺を見たゆりを混乱させたくないと、思ったから。
白鳥は、それほど俺に似ていた。
痩せ型で元々背も高いから、遠目で見れば誰もが見間違えるだろう。
「…そこ、段差になってるから気をつけて」
「もう…子供扱いしないでってば…」
聞き覚えのある喋り方…
俺以外に向けられる、熱っぽい視線、そして…
ふと、白鳥がゆりを抱きしめた。
迷わず、唇を合わせる2人を見て…俺は…
飛行機の時間が迫っていた。
向こうで暮らす準備は整っている。
…そこに、ゆりを加えるなら、どんな苦労も厭わなかっただろうに。
見つめ合い、キスを交わして、抱きしめ合う2人を見て、俺は…
このままそっとしておくのが、ゆりの幸せなんじゃないかと思ってしまった。
…もう一度、やり直す事が出来たなら。
期間限定の同居をしたいと、ゆりに連絡をしたあの日に戻ることができたなら…
白鳥を近づけることを、俺は絶対に許さないのに…