香織さんの妊娠騒動からまもなく、わたし達は都内のタワマン最上階に引っ越した。わたしは、それまで2人で住んでいたアパートでもよかったけど、アパートの場所が香織さん一家に知られていてセキュリティも低かったため、
婚約破棄するとすぐに海は、わたしに交際を申し込んでくれた。
「空、僕と付き合ってくれますか?」
「……はい、喜んで!」
わたし達は固く抱き合ってうれし泣きした。
「ああ、空! 嬉しいよ。愛してる! これからも毎日愛し合おうね」
「うん! 海、わたしも愛してる!」
「ありがとう。空は僕の魂の片割れだよ。空がいなくなったら僕はもう生きていけない」
「いなくならないよ。わたしは死ぬまでずっと海と一緒にいる」
「約束だよ。絶対守ってね」
「うん、絶対守る。指切
わたしが小指を差し出すと、海も小指を絡めて指切拳万を唱えた。
「うん、分かった! 指切拳万、嘘ついたら針千本呑ーます! 指切った!」
「え……うん……」
さっきまでの甘い雰囲気が嘘のように海の目つきが鋭くなっていたので、普通の指切拳万が怖くなった。
「知ってる? 江戸時代の遊女は小指を切断して相手の男性に愛の証として渡したんだよ」
海は、さっき指切拳万したわたしの小指をスススッと撫でた。
「ヒッ……!」
「ごめん、ごめん。僕はそのぐらいの覚悟があるって言いたかっただけ。僕達はそんなことをしなくても、深く愛し合ってるよね。それにかわいい空を傷つけるなんて絶対しないから、安心して」
もういつもの優しい海に戻っていた。さっきの怖い海は気のせいだったのだろう。
それからと言うものの、今までの空白を埋めるかのように、わたし達は深く愛し合った。いや、正確に言えば、海とわたしに以前も空白はなかった。海はいつもわたしのそばにいてくれた。ただ、恋人としての時間がそれまでなかっただけだ。海は、かつて双子の弟だったけど、本当は従弟だった。それに恋人という肩書が加わり、わたし達の間の距離はかつてよりずっと近くなった。
わたし達の交際は順調に進んだ。
大学卒業後に海は本橋コンツェルンの本社に入社し、わたしも同じく本社の事務職で入社する予定だったが、大学卒業直前に妊娠してしまった。海も祖父母も母もパパも皆、わたしが妊娠中に就職するのを反対したため、入社を辞退し、卒業直後に海と結婚した。
わたし達の第一子は男の子だった。母がパパと結婚後に産んだ弟はわたし達の息子から見ると叔父だけど、歳が近いので、仲が良いほど喧嘩するのを地で行っていて、ついつい意地を張り合ってしまうみたいだ。
わたしが年子で女の子を産んだら、それがもっと顕著になった。幼い弟と息子は2人とも娘を取り合って泣いてしまうこともあるけど、とてもかわいがってくれてわたし達の小さな頃を思い出した。
子供達が生まれてからは、海と身体を重ねることが少なくなった。特に幼い弟が我が家に入り浸りなので、尚更海と2人だけの時間がなくなってしまった。弟は、母とパパの元に戻るのを泣いて嫌がって我が家の子供達とずっと一緒にいたがる。それで母に散々文句を言われたが、弟を無理に帰そうとすると、泣き叫んで大変だ。
子供達が物心ついてからは、3人に絵本を読み聞かせて寝かしつけてわたしはそのまま眠り込んでしまうことが多くなった。
その日もそんな夜だったが、なぜか少し眠りが浅くて海が子供部屋に入って来たのに気付いた。海はキングサイズのベッドでわたしの隣に横になり、そっとキスをした。
「今日も寝ちゃったか。
海は、わたしのパジャマのズボンを突然ずり下げて後ろから私の股をちょっとだけ触っていきなり貫いてきた。
「さすがにいつも慣らしてるから、すぐに濡れるね」
激しく律動すれば子供達が起きてしまうだろうから、海は後ろから小刻みにわたしを突いているだけだった。それだけなのに股がじんわりと更に濡れてきたのを感じた。思わず声が出そうになったけど、わたしが眠っている時に海が何をしているのか知りたくて寝たふりを続けた。まもなく海は小さく呻いてわたしの中で果てた。
「やっぱり起きている時のほうが反応よくていいな」
海はわたしのズボンを元に戻してわたしの頭を撫でた。その時、息子と弟がむにゃむにゃと寝言で娘の名前を呼んだ。
「血は争えないね。父さんと母さんも兄妹で子供作って、僕達も双子で子供作って……僕達の娘は、息子と弟のどっちを選ぶんだろうね」
わたしは、あまりにショックを受けて寝たふりがもうできていなかったかもしれない。でも海は気が付かない素振りでわたしの頭をずっと撫でていた。
「かわいい空。無知のまま、僕の隣にずっといてよ。じゃなきゃ、小指がなくなっちゃうか、子供達がいなくなっちゃうかもね。僕は子供達も弟も母さんも祖父母も会社も何もかもどうでもいいんだ。空さえいれば、何もなくてもいい。むしろ子供達は邪魔だな。思いっきり空とセックスできないから。でも空が子供達と一緒にいたいなら、仕方ないか」
海は、それだけ言うと起き上がって子供部屋を出て行った。
わたしは、朝が来るまでずっと眠れず、布団の中で震えていた。