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啓太けいたって、あたしのこと、本当に好き?」

「……うん、好きだよ」


 彼女がそう聞いてくる理由はわかっていた。けれど、だからといって自力でどうにかできるものでもなかった。


 前戯の仕方はAVを観て学んだ。AVはフィクションだから、その技法をそのまま現実に適用しては女性に嫌がられるということもネットで学んだ。


 俺は勉強はできるほうだった。だから知識はするりと実戦に活かせたし、基礎から応用に移行するのも早かった。


 彼女の肌は扇情的せんじょうてきに紅潮し、俺を受け入れてくれる予定の場所は潤っていた。


 それは、いつもそうだった。


 どうしても準備が整わないのは、俺のほうだ。

 頬を赤くし、瞳を潤ませた彼女の表情を見ても、その下の豊かなふたつのふくらみを見ても、その先端が俺の"応用"で硬くかたちを持ち、次なる刺激を待ちわびてる様を見ても、俺の中心には熱が生まれなかった。


 もっと下まで行って、最も鋭敏な彼女の中心を撫でてみても、その先の湿度の高い場所に指先を沈めてみても、俺という男はまるで、しけった木炭だった。


 そんな状況でも俺には、彼女に恥をかかせてはいけないという義務感があった。


 俺がしけった木炭でも、せめて先に燃えている種火だけは絶やしてはいけない、と。


 俺は種火を種火だけで燃え上がらせる方法に長けていった。

 幸いなことに俺は手が大きかったし、指も成人男性の平均より太くて長い自覚があった。


 俺の指先は彼女の弱点を正確に捉えられた。持久力があったので、その場所を同じスピードで長い時間、刺激し続けることができた。


 加えて器用だったので、空いたもう片方の手や唇や舌で、別の場所の官能を同時に生み出すことができた。


「ふぁ、だ、め……あたし、こんなっ、の……されたっ、こと、な……ぃ」


 これに関しては及第点以上をもらえていたと思う。


 彼女の中は最後にはいつも、俺の指を食い千切らんばかりに締めつけた。下腹部のあたりはその瞬間、ダイエット用の電気刺激パットで微弱電流を流しているかのようにビクビクと動いていた。


 顎を逸らし、背をのけぞらせた彼女の姿は、小学生のころに体育の授業でやらされたブリッジを思い起こさせた。


 それらがすべて演技だったのだとしたら、彼女こそAVに出たほうがいい。

 だが、もしそうなっていたとしても、俺はその動画を買わなかっただろう。

 買って観たところで……という話だ。


「啓太、ぜんぜんってないね……」


 自分でも不思議だった。


「舐めてあげる。ね?」


 彼女の口技だって、きっと及第点以上なはずだった。


「今日も駄目? 無理?」

「ごめん」

「啓太って、あたしのこと、本当に好き?」

「……うん、好きだよ」

「あたしも好き。だけど――」


 口の周りを唾液で濡らした全裸の彼女が、その頬までをも濡らす。


「あたし……もう、つらいかなぁ……」


 さよならを告げられても、俺は全然つらくなかった。

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