「ケータさん最近、リモート多いっスね」
メンティーである新人が、わざとらしく唇を尖らせて言ってきた。俺は他人受けすると自負のある曖昧な笑みを返す。
「すみません、ちょっと個人的な事情で」
「さっびしいなぁー……なーんて、うそうそ。ケータさんて独身っスよね。もしかして、犬でも飼い始めたんスか?」
こうやって他人のテリトリーにズカズカ踏み込んでくるヤツが俺は嫌いだ。
適当に濁していると、それを肯定と受け取ったのか、新人は愉快そうな顔をした。
「やっぱなぁ。俺の彼女、実家暮らしなんスけど、犬飼い始めた途端にデートの頻度激減して。部屋に遊びに来ても、散歩があるとか言って夕方には帰っちゃうんスよ」
「そうですか、それは……」
「おんなじっス、ケータさん。俺寂しい! 俺も犬みたいに構われたいぃぃ」
「はは」
適当に笑っていると、別の島の俺の同期が通りがかって、まさに犬を撫でるように、新人の頭をかき混ぜ始めた。
いわく、ドライな俺の代役なんだと。
だったらメンターごと代わってくれよ、と思う。当日急に飲みに誘う相手も、この新人にしてくれ。
「南野お前、自分のメンティーにくらい、タメ語で話してやれよ」
「そーっスよ、ケータさんっ! 俺も他の同期みたいに『悩みがあったら聞くよ。飲み行こう』って言われたいぃぃ」
「すみません……敬語で話すの、癖なんです」
というわけでもなかった。本心をいえば、単に使い分けるのが面倒なのだ。
上司、先輩、同期、後輩。
誰に話すときは敬語で、誰に話すときは少し崩して……なんて考えて何になる? 頭の容量がもったいない。全員に敬語で話しておけば、何も問題は起きないし、俺の世界は平和に回る。
「それにしても犬かぁ……南野、独身で犬飼ったら終わりだって聞くぞ?」
「結婚できなくなっちゃうッスよぉ」
適当な笑みを返しておく。おそらく俺の表情は、注意勧告を聞き入れたように見えただろう。
俺はお前たちが嫌いだ。