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 長い休みをとることにした。春休みにしては遅すぎて、夏休みにしては早すぎる、中途半端な時期だった。


「レイナ、旅行に行こうか。ん?」


 膝に乗せられた彼女の頭を撫でながら、俺は彼女の顔を覗き見た。


 彼女は俺みたいに喋ったりしない。けれども最近は、表情で喜怒哀楽がわかるようになってきた。今はたぶん、喜だ。


「のんびりできる場所があるんだ」


 田舎の中年夫婦が経営している、ペット可のロッジ。二十年前には、若夫婦だった彼ら。


「近くに湖があって、泳いでもいいんだって。今の時期だとまだ早いかな。そうそう、バーベキューセットもついてくるからさ、レイナの好きな肉、いっぱい焼こう」


 レイナは上目遣いに俺を見ていた。


「大丈夫。ここからずっと遠くの森にあるロッジなんだ。ね? 行こう、レイナ」


 返事の代わりに彼女は、ふう、と鼻から息を吐いて、目を閉じた。

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