最近ではサービスエリアにもペット用のトイレがあるから驚きだ。ちゃんと電柱か何かに見立てた棒が立っているのだ。
俺とレイナは、途中の休憩を含めて四時間ほどで目的の場所に到着した。
森深い場所に建つロッジ。昔見たときよりも幾分小さく見えるのは、俺が大きくなったせいだろうか。
俺は車を停めるとすぐにレイナを外へ出した。ロッジの周りはペットの脱走防止用の柵にぐるりと囲まれているが、レイナはそんなものがなくたって逃げやしない。
中年夫婦の家に寄ってもらってきた鍵で玄関を開け、中へ入ると、木の匂いがした。ペット可のロッジだからといって、獣臭さや糞尿の臭いがしないのは、中年夫婦の手腕なのか、はたまた客のマナーがいいせいか。
ロッジの一階はLDKになっていて、二階には寝室があった。俺が階段を上ると、レイナは俺の後ろをついてきた。
大きめのダブルベッド。昔はここに、両親と三人で寝た。昔飼っていた犬は、確か一階にあるケージの中で寝ていた気がする。
掃き出し窓を開けると、湿り気を帯びた風が頬を撫でた。
バルコニーに歩み出て、眼前の湖を眺める。陽光を受けた湖は、まるで無数の銀の魚が跳ねているかのようにきらめいていた。
レイナも出てきて、隣に並んだ。
深呼吸をする。酸素の濃い空気が肺に満ち、頭がクリアになるような気がした。
見渡す限り、湖と木々ばかり。ここには誰もいない。レイナと俺しか。
俺はずっと思っていたことを口にしてみる。
「なあレイナ。本当は、喋れるんだろう? 喋れるのに、喋らないだけなんだろう?」
背の低いレイナを見下ろす。レイナは俺を見上げていた。
無垢で綺麗な瞳。レイナは返事の代わりに、首をかしげただけだった。