釼が長刀の隣に立つ二人へと視線を移す。
柔らかな眼差しで問いかけた。
「そのお二方は……ご友人ですか?」
一瞬、長刀の肩がぴくりと動いた。
言葉が喉で詰まり、視線が泳ぐ。
先に口を開いたのは羽衣だった。
「はっちは羽臣羽衣だなも! 動物園の娘で、長刀くんとはクラスメイトだなも!」
天真爛漫な自己紹介に、釼は微笑んで軽く会釈を返す。
問題は六夢だった。
長刀はあからさまに焦った表情を浮かべ、勢い任せに口をついた。
「えーと……こっちは……鈴木花子じゃ!」
「……は?」
一瞬、空気が固まる。
六夢の眉がぴくりと跳ね上がった。
鈴木花子って……なんだよ、その雑な名前!
心の中で全力で突っ込むが、
ここで本当の名を明かすわけにもいかない。
「……あ、はい。鈴木……花子ディス」
作り笑顔を浮かべながら、六夢は渋々頭を下げた。
「へぇ、花子か!」
朱璃はあっけらかんと笑い、
「めっちゃフツーの名前だな!」と無邪気に言い放つ。
六夢の心にさらに小さな火が灯ったが、ぐっと飲み込む。
釼はといえば、特に疑いの色もなく、静かに微笑んだ。
「……長刀さまに、ご友人」
その優しい声に、六夢はほんの少しだけ頬を緩めた。
「……釼」
談笑の最中、奥から落ち着いた声が響いた。
視線を向けると、衣装を脱ぎきった一人の男が立っていた。
優しげな目元に人の良さが滲み出ている男。
「おう、鉾の叔父貴!
今年もええ舞だったわ!」
「長刀、来てたか」
鉾と呼ばれたその男は
釼と朱璃の父にして、長刀の叔父であった。
その顔はどこか気弱そうで、決して豪胆ではない。だが、柔らかな笑みには確かな温かさが宿っていた。
釼はその姿を見るなり、こくりと頷いた。
「……はい。すぐ行きます」
控えめに頭を下げると、六夢たちへ軽く手を振り、父のもとへと歩み去る。
残されたのは朱璃ひとり。
彼女はぽかんと父と兄の背を見送り、それから勢いよく振り返った。
「ほいじゃ、あとはオレが遊んだる!」
にやりと笑って胸を張る朱璃。
六夢と羽衣は顔を見合わせ、
少しだけたじろいだが
すぐに笑顔が弾けた。
「じゃあ、みんなで屋台巡りだな!」
六夢が言えば、羽衣も
「はっちも金魚すくいやりたいだなも!」と張り切る。
「よっしゃ! ついてこんかい!
花子も! ……あ、羽衣も!」
「……花子言うなや」
「え、名前じゃろ?」
「……ソーダケドサー」
朱璃に引っ張られるようにして、一行は再び賑やかな祭りの人混みへと紛れていった。