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大人の、初恋
大人の、初恋
一兎
恋愛現代恋愛
2025年06月08日
公開日
6,622字
連載中
振られた女は、半ばヤケくそでバーで逆ナン、リッチな男とワンナイトする。 だがある日、男は彼女の上司として職場に現れた。

第1話 荒れる女

「……うぃ〜、マスター……同じヤツもう一杯、ウエッ」

「飲みすぎだよ、さっちゃん。もう止めときな」


 薄暗いショットバーの店内。

 カウンターに突っ伏している私を、馴染みのマスター「リョウ」は呆れ顔で見下ろした。


「何よ、お金払うんだからいいじゃないの。それとも、私には商品出せないってか、あ?」

「うわー……たち悪」

「何か言った?リョウちゃん」

「何でもないよ、少々お待ちを」


 週前半の火曜とあって、会員制の小さなバーのお客は私の他に2、3人しかいない。他の客が静かに飲んでいるのをいいことに、マスターを独り占めしてクダを巻く。


「だって。自分が浮気しといてよ?『サツキって、割り切りすぎてて可愛げねえんだよ。俺がいなくったって別に困らない、って顔してる』だってさー。お前が選べる立場かっつーの、人の顔の意味を勝手に決めんなっつーの! 浮気男がえっらそうに……う、ううっ……」

「もう……。怒るか泣くか、どっちかにしろよ。さっちゃんのことだから、どうせ『わかったよ、仕方ないね』とか、格好つけて別れたんだろ? こんなとこで僕に言うなら、オトコに直接言えばいいのに」

 クリスタルグラスを拭きながら、長髪を後ろに括ったマスターは溜め息をつく。

「だあってさーあ、〝他に好きな人できた〟って云ってんだから、どうしようも無いじゃん? 例え喚いて、その一瞬ヨリ戻したとして、遅かれ早かれ別れるじゃん。気持ちはもう向こうに移ってる訳だから」

「……。そういうとこだよ、『割り切りすぎ』って言われてんの。分かる?……ってちょっと、聞いてんの?!」


「『俺のコト、そんなに好きじゃないみたい』っだって……そんなことないよ……私、本当に大好きだったんだよお、結婚したかったんだよおおぉ」

「あー、ダメだ。聞いてねぇわこりゃ」


 涙ながらにジントニックを一気飲みし、再びカウンターに頭を伏せた私は、酔眼をはたと見開いた。


「あ、ねえ。でもさ。アイツは結局、あの娘を選んだ訳だから、結果としては私の方が浮気相手だったってこと? 嘘、信じられない……、う、ううう、うわああん!」


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