鳥類は約6500万年前の絶滅イベントを生き延びた、恐竜の唯一の子孫であると見なされている。
第一章 ハイペリオン 西歴52024年
イオとルナは教室の様子を外の空から見ていた。
イオは男子、ルナは女子で見かけは十代の人間である。しかし二人は普通の人間では無く、普通の人間には彼らの姿は見えない。神の様な特別な能力を持った存在だ。しかし精神的には普通の人間と変わらず、神のような尊厳は少しも無い。
「ルナ、僕らってあの子らには見えないんだよね?」
「そう。普通は見えないよ」
「じゃあ、もっと近くで見てもいいんじゃない? 教室の中とか」
「それがフィーネだけは特別で、私達の事が見えるらしいの。なので近くには行けない。あそこにいるのがフィーネよ。よく見ていてね」
「分かった、小柄で細身の子だね。比奈ってあんな感じだったかな?」
爽やかな季節の中、二階建ての学校は窓を開けており、微風が吹き抜けていた。二階の教室には十五人の生徒がいて男子はわずか一人、女子が十四人もいた。
女子の半数はフィーネを含めて非常に小柄である。女子は見かけで明らかに二つのグループに分かれている。
教師と思われる女性が前方で何かの授業の説明をしている。フィーネが隣のやはり小柄な女子友達に耳打ちする。
「メグ、今日これからやるよ。他のf2にも伝えて」
「分かった。伝える」
すると唯一の男子、ラーズがたしなめた。
「フィーネ、またさぼる気かよ。阻止するぞ」
フィーネが軽く返す。「ラーズ、やれるもんならやってみなよ。それから後であんたにも来てもらうからね」
イオがルナに聞く。
「f2(エフツー)って何?」
「f2は第三の性よ。男でも女でも無い。フィーネやメグら小柄な子達は見た目は女の子だけど皆f2なの」
「第三の性? なんだそりゃ」
「進化の果てに発生した新しい人類よ。基本的には女性なんだけれど、男性の機能も持っていて、女性を妊娠させることもできるのよ。この時代はその新しい人類に移行する過渡期、切り替わりの途中だと思われるわ。」
「マジか、女なのに男の機能も持つって? 新人類か。驚いたな」
「見ててご覧。もっと驚くよ」
フィーネが突然席を立って叫んだ。
「みんな、行くよ!」
フィーネを含めた小柄な七人の女子は立ち上がって、背中に手を回し服のジッパーを下ろした。すると驚いたことに皆、背中から白い翼が出てきた。何と彼女達には翼があるのである。
イオは本当に驚いた。
「おい、あの子ら翼が生えてるぞ! あり得ない」
ルナは表情を変えずに答えた。
「あれが話していた鳥人間、この時代のf2よ」
女性教師が叫んだ。
「こらf2共、またさぼる気か!」
「サラ先生、ばいばい。 後程先生にも参加してもらいまーす」
次の瞬間、七人は窓から一斉に飛び立った。白い翼をはためかせ一気に高度を上げる。サラ先生はその美しい顔を怒りの表情に変え、脇に置いてあった長身の銃を持ち、窓際で構えた。
イオが叫んだ。
「飛んだぞ! おいおい。あの先生、撃つつもりだぞ」
ルナが欠伸をしながらイオに教えてあげた。
「大丈夫よ、怪我はしないから。いつもの事だし」
サラは二発放ち、外した。そのとたん、男子のラーズが駆け寄ってきた。
「サラ先生、僕に貸して」
ラーズは銃を受け取ると、すぐさま構えてやはり二発狙い撃ちした。その内一発がメグに当たった。メグの体がピンク色に包まれ、メグは失速していった。発光しただけで体へのダメージは何も無い様だ。
「フィーネ、私やられた。ラーズは射撃の腕を上げてるよ。私は教室に戻る、じゃあね」
「メグ残念ね。授業頑張ってね。ラーズと先生は後で連れて来て。例の所よ」
イオがルナに聞いた。
「あれはどうなっているんだ? 撃たれて大丈夫なのか?」
「だから大丈夫だって言ったでしょ。この時代、全ての武器は人を殺傷出来ないような仕組みになっているの。戦いもスポーツみたくルールに則ったものになっているのよ」
「本当か?」
逃げ延びたフィーネ達は大空を自由に飛び回った。
ルナがイオにこの時代、この場所の説明を始めた。
「ここはハイペリオンと呼ばれている場所よ。イオの時代の知識で言うと、県とか州とかの単位のエリアよ。由緒ある国の代表的な首都、古都なんだけど、あなたの時代にはまだ無かったわね」
「改めて見回すとすごいな。まず上空に光っているばかでかい輪みたいのは何だ?」
「スカイパスよ。未来の高速道路みたいなものね。一つのリングの直径は十キロメートル位でパスの幅は二百メートルくらいかな。ほらそこの地上からリングまで光る果てしない上り坂が続いているでしょ。あれがインターチェンジ、入口よ」
「あの所々に見えるのは木? ものすごく高いね」
「高さが三百メートルもあるわ。セコイアの一種だけど、人工的に巨大化させているわ。昔からこのエリアの象徴よ」
フィーネのような鳥人達の他にも、空中には色々な飛行体が飛び交っている。ある場所ではすごく大きな青い壁の穴があり、飛行体が入ったり出たりしていた。穴は地下深くに続いているようだった。
「あの大きな穴は?」
「ラグーンの入口ね。ハイペリオンには世界最大の地底空間、地底都市があるの。ラグーンって呼んでいる。地底と言っても人工太陽があり、昼間はそれなりに明るくて地上と大差は無いのよ。この地域は地上とラグーンの巨大な二層構造になっていると思うといいわ」
あまりにも未来的でありイオは圧倒された。