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親愛なる騎士様へ
親愛なる騎士様へ
枝浬菰文庫
BLオメガバース
2025年06月11日
公開日
4,085字
連載中
ガーナシュベルツ城に仕える騎士ルークに、王子から縁談の話が届いた。 名家のαやβの令嬢たちに紛れて、ただひとり、異彩を放つ名前があった。 それは—— “噂のΩ”として誰もが知る少年、シャロン。 身体でしか愛を知らず夜、αの元へ通うとも囁かれるシャロン。 気まぐれで顔を見に行ったルークが目にしたのは、森深くの馬小屋ような場所に一人でいた。 「……こんな場所が、君の居場所なのか?」 言葉を交わしその澄んだ瞳に宿る孤独が、ルークの心を離さなかった。 シャロンがどんな過去を持っていようと関係ない。 名誉も、誓いも、今のルークにはもうどうでもよかった。 「君を迎えるのは、俺でいい。……誰かじゃなく、俺が指輪を渡したい」 騎士の手に守られた孤独なΩ。 噂のΩが未来をつかみルークと結ばれるふたりの関係は、 “結婚”という名の契約を、やがて真実の絆へと変えていく。

親愛なる騎士様へ 試し読み

 とある満月の夜、聖なる泉で私は一人の少年と出会った。

 美しく輝いた月の光が泉に反射していた。その泉には薄い布地姿の人影がいて、こちらに気がつき慌てている様子もなくこちらを見続けていた。

「すまない……ここは王族、貴族が入浴を許された泉なのだが」と言葉を発した。

 栗色の髪を持った少年は言葉を発することなく私の前から消えた。




 ここはガーナ王国ガーナシュベルツ城 私が常駐している仕事場だ。第二王子の騎士として、王子をお守りするのが私の役目だ。


 昨夜あったことを殿下に報告すべきなのか少し迷う。王族でもなく貴族でもない、そんな少年が聖なる泉で儀式をしていたなんて考えられない。もしやどこかの貴族なのか。それにしても言葉を交わしてほしかった。


「おーい、ルークお前百面相してどうした?」

「百面相などしておりません。それよりも殿下、朝の稽古は終わったのですか?」


「ああ、だからこうしてお前の百面相を観察していた」

「殿下、私とお相手しますか?」


「いや、いい。それよりもお前宛にいくつかお見合いが来ている」

「えっ……殿下ではなく私にですか?」

「ああ、俺はまだいい」

「そんな、殿下をお一人にさせるなど…」

「お一人って……俺はそんな寂しいやつじゃないぞ、だから安心しろ。それにこのお見合い一番下の相手はなかなかな噂の持ち主だ」


「……そうですか、拝見させて頂きます」

 私の手元には三冊用意されていた。もちろんのこと私は殿下の騎士だ。殿下が許された者でないと、お見合い相手だろうが城への出入りはできない。なのに殿下は噂を持っている相手を許可なさったとそれも耳を疑ってしまう。


 一冊目、貴族のご令嬢、αだ。とても美しい姿は貴族のご令嬢に相応しい。

 二冊目、こちらも貴族のご令嬢、違うのはβだということ。それにしてもとても美しいお方だ。


 そして三冊目、見た目から違った。それにこの子あの時の子に似ている。貴族のご子息ではあるが。男な上、バース性はΩとあった。殿下や第一王子である兄君がこれを私に持ってくるのだからなにか裏があるのではないか。そんな気がした。


「そう、こいつ噂のΩ、ルークは知っているか?」

「いえ、そういうのは疎いので」

「だよな、お前そういうのどうでもよさそうだもんな、ハハ」と笑っている殿下に対して私は指導する。


「殿下、上に立つお方がそのような口ぶりはよくありませんよ」

「多めに見ろ、この少年まだ十五歳お前と比べて五歳差だな」


「殿下、なぜこの少年を私に?」

「別に選ばなくても良いのだぞ、こちらのα、βのご令嬢のが、お前にあっていると思うが」


「いえ、写真だけでは決められません。できれば一度対面挨拶をしたいのですが」

「生真面目なやつだな。でもダメだ、女はそれだけで噂話をもちかけ、俺に取り入ろうとする」


「そう……ですね、ということは初めから三冊目を選べということでしょうか」

「そうなるな、俺の身を案ずるなら」


 殿下のご命令とあらば、それにこの少年は気になる。どうして昨晩あそこにいたのか。



 殿下の許可を得て私は三冊目に記載されていた家に向かった。

 ナミエール伯爵のご子息。

たしかここには五人ほど兄弟がいる。


その中の三人は騎士見習いとして指導したこともある。

その中の一人として貴重なΩという身分はさぞ辛いだろう。比較され巷では貴重なΩは奴隷として扱われている。


そんなΩをお見合い相手としての身分があるのだろうか。それに殿下結局噂のことを教えて頂けなかった。

自分で知ることということなのか。

 ナミエール伯爵の屋敷についた。


「ああ、これはこれはルーク様、お待ちしておりました。シャロンですね。申し訳ないのですが今森の小屋に行っておりこちらで待たれますか? それとも森の小屋に向かいますか?」

「では、森の小屋へ」


「でしたらこちらをお持ちになりまして、この先、舗装されている道をお通りください」


 なんとも大まかな説明だ。

それにしてもこれはサンドイッチか? バスケットに入っているということはシャロンという男に持っていけということなのか……。

だが、この量どう見ても一人分しかないような。

まったく殿下は私をどうしたいのか。

きっとご令嬢であればこんな道も歩かずアフタヌーンティーをガゼボで頂いていたのだろう。


 しかしこの森は美しい。

正午を迎えようとしている中、木々や鳥の囀り、そして熊……。

私は騎士だから殿下をお守りする剣(つるぎ)がある。

しかし少年にはあるのだろうか。


 汗もかかない程度についた先はとても人が住めるような小屋ではなかった。むしろ、物置。


 私は目の前に立ちはだかる驚異に目をそらさずに扉をノックした。

「こんにちは、ガーナシュベルツ城から来た騎士 ルークと申します、シャロン殿はいらっしゃいますでしょうか」


 これでいなかったら私は辛いな。


 トテトテと歩く音が聞こえドアがギィーと音をたてて開いた。

「こ、こんにちは……ルーク様」


 目がくりくりとしていて栗色の髪はまさしく昨晩泉で見かけた少年だ。

 少しおどおどしていてなんというか子ウサギのようだ。いや色からしたら子リスかもしれない。


「あの、ルーク様よろしければこちらにどうぞ」

 案内された先は多分食卓。一人用とも思われるそこはとても汚れていたがシャロンが持ってきた布で隠された。


「本日は僕のために起こし頂きありがとうございます」

 彼がにこっと微笑むと私の心臓はトクンとしていた。か、……いや、相手は男だぞ。でもΩだ。結婚という響きは特に問題ない。


 それでも微笑む彼の笑顔が私の胸を高鳴らせていた。

「そういえば伯爵からお昼をとバスケットを頂きました。昼食にされますか?」

「ああ、はい、お茶をお持ちします」


 キッチンなのか、水道があるそこに彼は向かった。果たして口にしてもよいものなのか伺ってしまうのはきっと失礼にあたってしまう。

 バスケットの中身を取り出すとご丁寧に水が入ったビンがあった。もしやこれを飲めと言いたげだ。


 少し舐めると毒はないようだ。王子の側近を手にかけ、自らが上位に立とうという者は少なくない。だが殿下は一筋縄ではいかない。


 さて、この場合出された物を頂くのが礼儀……。


「お待たせしました、ルーク様お茶を……」

 私の手元を見たのであろう。なにかを察したシャロンはお茶を下げた。そして自分の元にコップが二つあるではないか。これは……声をかけなければ。

「良かったです、お父様がご用意して頂けたのですね、こちらは僕が頂きます」


 そう言うと自分の昼食なのだろう。腰掛けた膝に広げていた。


「ああ、こちらを持参してほしいと言われたので……」

「はい、頂きましょう」


 大きく口をあけて頬張っていたがそのサンドイッチは不思議な点があった。それは外側にしか葉がないということだ。肉や卵といった材料は入っていない。それでもにこにこしながら食べていた。


「では、私も……」

 ああ、でも本当にこれでいいのか……。シャロンがΩというだけであって普通の子どもだ。私は自分の行いに対して耐えきれずシャロンにサンドイッチを渡した。


「これを食べなさい。そちらは私が食べる」

 そう申すとシャロンはあたふたとしていた。

「えっと……」

 私もどうすればよいのか観察しているとなんともまぁ上目遣いでシャロンは口を開いた。

「ぼ、僕なんかが騎士様の頂いている物を触ってもよろしいのでしょうか」


 もし矢が胸に刺さったという言葉があるのであれば私はその表現をしたい。


「あ、ああ構わない、一緒に食べないか?」そう提案すると

「はい」と元気な声が聞こえた。


 持っていたナイフで半分にわけた。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 美味しそうに食べる姿にまともや矢が飛んできてしまった。


 これが世に言うきゅーんなのだろうか。

 殿下からのお申し付けだったがきっとどのご令嬢にももしかしたらこんな感じにはならないだろう。



 しかしシャロンが着ている服、昨夜泉で見た服装と似ている。これはもしやαである私を誘っているのか……。いやいやシャロンはきっと違う。

 それに「腕の痕はどうしたんだ?」


 そう聞くとビクリと一瞬震えたように見えた。こちらに向き。

「木の幹に当たってしまいました」

 そう答えた。でもこれはそういう痕ではない。何かで縛られたか打たれたような痕だ。


「それよりも騎士様、今日はどのようなご用事でこちらにいらしたのでしょうか」


「え、あっ……伯爵に聞いていないか、お見合い相手の立候補としてシャロンが推薦されたのだ」

「お見合い相手? どなたのですか?」

「ああ、私のだよ」

「ひゃう!?」


 聞いたことのない声でシャロンは顔を真っ赤にしていた。

「ぼ……僕の旦那さん!?」

「うん、えっともしかして間違えだったのかな?」


「はぅっ……嬉しいのですが僕の身分なんて動物以下です」


 そんな感じはしたが国が認めたお見合いに私が口を出すことはできないし、他候補として二人のご令嬢がいる。



「私の妻になってくれるかはまだ…その決まったわけではないのだが、候補としてね」

「はっ……はい」


 私はシャロンといろいろ会話を楽しんだ。しかしどこか素っ気ない態度には驚いてしまった。仕方の無いことなのだろう。


 帰城すると楽しそうな殿下がいた。


「ルーク、ただいま帰城しました」

「ああ、おかえり。で、どうだった噂のΩは?」


「思っていた以上に素敵な方でしたよ。殿下噂というのはなんのことでしょうか」


「そりゃーお前………………。手を出さなかったのか? あいてっ……」


 殿下の言葉遣いに私はゲンコツをしていた。


「お前、俺は王子だぞ」

「ええ、王子だからこそ、正しい言葉遣いをして頂きたいです、それに手など出していませんよ」


「ふーん、つまらん。噂のΩってのは貴族の間で盛り上がっているみたいだが穴兄弟ってやつだ……あいてっお前俺はなにも悪くないだろ、むしろお前が教えろと言うから」


「……。穴兄弟、彼は男性です」

「ああ、発情期が来ていないΩは男に中○しされたところでなにもうまれないからな。女と違って」


「そ……それでそんな無粋なことをされているのですか?」

「みたいだな、それにこの話近衛兵団に行った時に聞いたからお前も隣にいたぞ」


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