「ちょっとどうすんのよ！」

　金髪の女が叫ぶ。今しがた彼女たちが通ってきた通路の背後の道は、上から落ちてきた石の壁に封鎖されていた。

「どうするって……どうしようもないでしょ！　先に進むしか道はないじゃない！」

　相棒の赤髪の女が叫び返す。ダンジョンの壁に反響して声が響き渡る。

　もはや彼女たちの退路は断たれた。道は目の前に続く薄暗い通路のみ。

「……これ本当に戻る道あるんでしょうね？」

「私が知るわけないでしょ！」

　二人が歩き出そうとした刹那、彼女たちの前方の道の先轟音が響いた。警戒する間もなく、大きな石の壁が激しく音を立てて降りてきて道をふさいだ。

　後方も前方も石に塞がれた彼女たちに進べき道はなかった。

　残るはただそこに屍を晒す道しか残されていなかった。

　　　　　◇

　如何でございましたでしょうか？

　こちら弊社の製品『シフティング・ウォール』と申しまして、いわゆる可動壁と呼ばれるものでございます。

　古くから愛される伝統的なトラップのひとつでございまして、進行方向の通路を塞ぐもよし、退路を断ち閉じ込めるもよし。シンプルながらも効果的な仕掛けでございます。

　コメントありがとうございます！

『殺傷能力は如何程のものですか？』というご質問ですね。誠にありがとうございます。

　申し訳ございませんが、本製品の殺傷能力はほぼゼロでございます。せいぜい前後の通路をふさいで閉じ込め、餓死させる……といった方法くらいしかございません。

　で・す・が！

　本製品は捕獲力において他に類を見ない性能を誇っております！

　なぜなら、対象者を確実に！　無傷で！　生け捕りにすることが可能なのです！

　さらに、閉じ込めた通路にガスを散布できる機構を組み合わせることで、いとも簡単に対象者を確保することができます！

　ちなみに、先ほどご覧いただいた侵入者の女性二人ですが……彼女たちが閉じ込められた通路には隠し扉が設けられており、ダンジョンマスター様によって生け捕りにされたと報告書に記録されております。

　ガス散布機構や隠し扉はオプションとなってしまいますが、セットでお求め頂くとお得な割引を適用させて頂きます！

　またまたコメントありがとうございます！

『間違って作動して閉じ込められてしまったらどうすればいいのですか？』とのご質問ですね。誠にありがとうございます。

　はい、外部操作用のレバーを取り付けることが可能でございます。

　万が一、関係者様が閉じ込められてしまった場合、内部から、あるいは外部から手動で壁を引き上げるためのレバーを設置いたします。

　ただし、大変申し訳ありませんが……内部にレバーを設置すると、閉じ込めた対象者が発見し、罠を解除する恐れがございます。

　もちろん、細心の注意を払って偽装や隠匿を施しますが、近年は『スキル』や『魔法』によって感知される可能性もございます。

　そのため、弊社では内部レバーの設置を推奨しておりません。

　申し訳ございませんが、一定のリスクが伴うことをご理解いただけますよう、お願い申し上げます。

　よろしいでしょうか？

　はい、弊社の『シフティング・ウォール』。ただいま通路閉じ込めセール期間中につき、なんと前後用のもう一枚をセットでご提供いたします！

　一枚買えばもう一枚ついてくる！　お得なキャンペーン中でございます！　この機会を是非お見逃しなく！

　ああ、早速のご注文ありがとうございます！　誠にありがとうございます！

　はい、『投げ銭』でのご購入も可能でございます。

　後ほど、お名前と配送先を弊社までお送りくださいませ。

　ありがとうございます、ありがとうございます！

　それでは、本日の配信は以上となります。

　ダンジョントラップ株式会社の 寅吉とらよし がお送りいたしました。

　ご覧の番組は『ダンジョントラップ株式会社』の提供でお送り致しました。