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白の王子と華の姫は“ 超”鈍感!?
白の王子と華の姫は“ 超”鈍感!?
柚木ゆきこ
恋愛スクールラブ
2025年06月12日
公開日
4,416字
連載中
【恋のステージは文化祭!“白の王子”VS“黒の王子”、姫の隣に立つのはーー】  如月 光、黎明高校の二年生。 その端正な顔立ちから“白の王子”と呼ばれている光は、密かに気になっている存在がいた。 それは“華の姫”と称される、美しく気品あるクラスメイト・雛乃。 ある日、文化祭の合同出し物『メイド執事喫茶』の打ち合わせを終えた光たちは、ミス・ミスターコンテストの話題で盛り上がっていた。 その時、“黒の王子”と呼ばれる破天荒な友人・真が、ニヤリと笑ってこう言い放つ。 「ふふーん、わてが姫はんの隣に立って、タキシード着たら、そらもうかっこええやろなぁ〜!」 その一言に、心がざわめく光―― 初めて自分の気持ちに気づいた瞬間だった。 恋とプライドが交差するミスターコンテスト。 “白の王子”は、“姫”の隣に立つことができるのか――!  一見、王子と姫のラブストーリー──だけど、それだけじゃない。 最後に明かされる“真実”とは……? 

第1話 白の王子

「あのお方、もしかして光様かしら?」


 ベンチで読書をしていると、遠くからそんな声が上がる。

 私は本に集中していたけれど、彼女たちの声に気づいて手を軽く上げた。すると、「格好良いー!」と歓声が上がった。


「やっぱり白の王子様よね? 私、初めてお顔を拝見したわ……」

「私もよ……ああ、もう死んでもいい……」

「いや、死んじゃダメだって!」


 ――まぁ、いつものことだ。

 いや、彼女たちの会話はには少し驚いたけれども。


 きっと彼女たちは新入生なのだろう。顔を初めて見た、と言うのも頷ける。


 私は如月 光きさらぎ ひかる黎明れいめい高校特進科の三年生。


 どうやら、私は見た目がいいらしい。そのため、小学校の頃から注目を集めていた。

 私の通う高校――黎明学園は、小学校から高校までの一貫校。それもあり、小学校の時につけられたあだ名が、今でも続いている。


 ――あだ名は「白の王子」。


 大体私を呼ぶ時は、名前か白の王子と呼ばれることが多い。最初は私なんかが、と思った事もあるが……呼ばれているうちに、私もいつの間にか受け入れていたんだ。それからは可愛らしい女性たちに声をかけられたら、何をしていても笑顔で手を上げる事に決めている。


 普段であれば、声をかけてきた女性たちは去っていくのだけれど……彼女たちは、そこで立ち止まって会話をしている。


「白の王子様は何を読んでいらっしゃるのかしら?」

「分からないわね……あ、よく見ると表紙が英語よ」

「もしかして、何かの原文を読んでいらっしゃるのかしら?」


 そう、最近はシェイクスピアを原文で読むのが楽しくなってしまって――。


「流石白の王子様!」

「白の王子様は、学年で十人しか入れない特進科にご在籍なのでしょう? 『天は二物を与えず』と言うけれど……あの方は天に愛された方なのでしょうね……」


 頬を赤く染めて話しているが、私はただ、地道に努力しているだけなのだが……。


 むしろ――。


 そう思いながら、隣の席に座る彼女あの子のことがふと脳裏をよぎった、そのとき。彼女たちの会話がまた耳に届いてきた。


「あ、そういえばもうお一方、天に愛された方がいるって聞いたわ!」

「私も知ってる! 『華の姫』様でしょう?」


 私はその言葉を聞いて肩が跳ねた。まさに今、頭に浮かべていた人物だったからだ。


 不思議と、あの子のことはいつも気になってしまう。『華の姫』と言う名に相応しい、彼女の事を――。


 私はふと視線を感じて、先程より一ページも進んでいない本から目を離す。無意識に自分の教室へ視線を向けると、そこに彼女がいたような気がした。

 ――いや、気のせいか? けれど、もしあれが本当に彼女だったなら……。こんな不思議な心情の自分にクスッと笑うと、彼女たちが「きゃー!」と叫んでいた。


 さて、そろそろ昼休みも終わる。新入生の彼女たちにも、教室へ帰るように促そう、そう思って腰を上げようとしたその時。

 彼女たちに話しかける者がいた。


「貴女達、淑女としてはしたないですわよ?」

「はい、申し訳ございませんでした……」


 どうやら私を見ながら会話をしていた事で、上級生から怒られてしまったらしい。以前聞いた事があるのだが、私が静かに読書をしている時は、挨拶されたらその場をすぐに去るように……という暗黙の了解があるのだとか。

 まあ、確かに私としてもそれはありがたい。ずっと視線に晒されていたいわけではないからね。


 私が立ち上がると、上級生の彼女に連れられて、新入生の二人が私に謝罪してくる。私は優しく微笑んだ。


「いいよ、これから注意してくれれば良いからね。さすがにずっと見られてると、落ち着かないかな」

「「は、はい……申し訳ございませんでしたぁ……!」」


 私の前で緊張しているらしい彼女達が微笑ましい。


「君もありがとう。ああ、そろそろ授業が始まるから、三人とも教室に戻ろうね? 私はお先に失礼する」


 そう言って私は彼女達に向かって片手を上げて去っていく。

 後ろで彼女達が「かっこいいぃぃぃぃ……」と呟くのが聞こえた。


 そんな私も、ひとつ悩んでいる事がある。


 クラスメイトが私を『華の姫』とくっつけようとしているように思えるのだが……気のせいだろうか?



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