「おや、黒の王子くん。どうしたんだ?」
「おーおー、白の王子はんやんけ。そない呼ばれるん、意外と悪ぅないな。どや? 王子の座、そろそろうちに全て譲る気になったんちゃうん?」
軽快に話し始める黒の王子こと真くん。手を上げて教室へと入ってくる。
「それ、いつも言いよーとーやん! 光くんが白の王子の名前返上しても、どーせまた戻ってくるっちゃろ〜?」
朱音さんが楽しそうにそれに応えると、真くんは額に手を当て、あちゃーというポーズをする。
「あちゃ〜、痛いとこ突かれてもうたな〜。せやなぁ、光はんが王子って呼ばれへんのは、なんかしっくりこんな。けどな、いつも思うねん……なんでウチが“黒”なんやろな? 別に“白の王子”って呼ばれてもええんちゃう?」
「それはさ〜、性格真逆だからじゃん? 光っちが黒とか、全然イメージないし〜。残った色が黒だった、とかそんなんじゃね?」
「りおなちゃんの言う通りねぇ」
思う事をズバズバ言っていくりおなさんに、おっとりとしながらも毒舌をかます麗奈さん。普通は二人の言葉にタジタジになるだろうけれど……黒の王子はへこたれない。
「黒の王子……キタキタこれぇ……! 次の新作は……ぐふふふふ……」
真くんの目の前では、満面の笑みの怖い翡翠さんが鉛筆を走らせている。
「あちゃ〜、麗奈はんに言われると、もう何も言い返せへんわ〜って……うわっ、翡翠はん、目ん中に炎みたいなん燃えとるけど、大丈夫やろか?」
「ああ、通常運転だから大丈夫」
こともなげに言う渚くん。それもそうか、毎日何かしらスケッチブックを開いて、鉛筆を走らせているからな……。
「ところで黒の王子こと、
ああ、渚くん。真くんの話の長さに嫌気がさしてきたのかな。彼が人の名前をフルネームで呼ぶ時って、そんな時だから。
「うはー! 渚はん、わての自己紹介ありがとさん!」
「で、何の用?」
冷たく返す渚くんに、真くんは口を尖らせる。
「なんや、ノリ悪いなぁ。ここからが本番やで!」
「ちょっとー、前振り長すぎるっちゃけどー!」
朱音さんも真くんにブーイングだ。隣に立っている雛乃ちゃんまでもが、どうしようかと狼狽えている。そろそろ雛乃ちゃんを座らせたいから、寸劇を終わりにして欲しい、そう思った私は真くんに鋭い視線を送る。
私の視線に気がついた真くんは、両手を上げて降参のポーズをした。
「へーへー、ごめんやて。ここから本題やけどな、わてら総合科と一緒に、執事メイド喫茶やらへんか?」