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第17話 黒の王子の幼馴染

「おめでとう!」


 ミス・ミスターコンテストが終わり、しばらくして。

 今年の一位である雛乃さんと光さんが、タキシードとドレス姿で壇上から手を振っている。


 周囲はそんな二人を祝福している――まるで結婚式のよう。


 私は講堂の後ろの壁にもたれかかりながら、頬を染めている雛乃さんと凛々しい光さんをぼうっと見ていた。



 今まで同率だったミスターコン、今回決着がついたその原因のひとつは私かもしれない。


 ……私は二年間、白紙で出していた。


 真の名前も書けなかったし、かと言って光さんの名前も書けなかった。

 個人的には真に入れたい。けれど、私が入れたら真はまた遠く離れていってしまうかもしれない、そんな思いが邪魔をしていた。


 そんな事はないだろう、というのは分かってる。

 分かってるけど……複雑な胸中だった。


 ただ、今年は光さんの名前を書いて出した。


 その理由はひとつ。

 雛乃さんと真が並ぶところを見たくなかった。


 皮肉なものね。真が言ったあの言葉。


 『ふふーん、わてが姫はんの隣にいて、タキシード着る姿はきっとかっこいいやろなぁ〜!』


 あれはきっと光くんに発破をかけるために告げたものだろう。

 真はああ見えて、他人の感情に鋭いから――まあ、あとは光さんと雛乃さんが鈍すぎるのもあるとは思うけど。

 真に「鈍い」と言われている私でも気づいたんだもの。相当よ。


 その言葉に光くんは自分の心の願望に気がついたのでしょうね。

 顔つきが変わったもの。


 ……それと同時に気がついた。私が持つ心の願望に。


「雛乃さんにはああ言ったけど……どの口が言うのかしら。笑っちゃうわ」


 ここは騒々しいから誰にも聞こえないだろう。そう思ってぼそりと呟いた時――。


「何が笑っちゃうん?」


 声のした方を振り向けば、そこには私と同じように壁にもたれながら腕を組む真がいた。

 ……いつもと違う、真剣な表情で。


 少し気まずい。

 私が光くんに入れた事、きっと真は察しているわね。


「……何でもないわ」


 私は雛乃さんみたいに、勇気が持てなかった。

 だって、真とは幼馴染なだけ。

 口うるさい私に、きっと真が付き合ってくれているだけだと思うから。


 俯く私の耳に、ため息が聞こえた。


「……なあ、ひとつ聞いていいか? 今回誰に入れた?」


 私の肩がわずかに跳ねる。ダメよ、平然としないとバレてしまう。


「……誰でもいいじゃない」


 もう潮時だ。

 私は最後に幸せそうな二人の表情を見てから、会場を後にする。


 講堂は祭りの会場とは少しだけ離れているため、幸いこの周辺には人がいないようだ。一人になりたくて私は裏庭へと向かう。


「ちょい待ち」


 真に手を掴まれた。


「どうしてわてに入れないん?」


 今までに見た事のない表情で問う真に、私は顔を背けた。


 言えない。あなたとの距離を感じるから、なんて。

 言えない。あなたの隣に違う人がいる事に耐えられない、なんて。


「……っ、何でもいいでしょう?」


 手を振り解こうとしても、力が強くて振り解けない。真、こんなに力が強かったかしら……。


「……なあ、わて……自惚れてもいいん?」

「え?」

「雛乃はんの隣にいるわてを見たくないから、光はんに入れたんやろ?」


 その言葉に顔が熱くなる。真に、見抜かれて……?!


「やっぱそうやんか、嬉しいなぁ……顔真っ赤にしいよって、かわいー」


 私は真に何も言う事ができなかった。恥ずかし過ぎて。

 顔も見る事ができなくて俯くと、真が私の耳元で囁いた。


「あの言葉、紗夜も気にしてくれたん? 言って良かったわ」

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