「おめでとう!」
ミス・ミスターコンテストが終わり、しばらくして。
今年の一位である雛乃さんと光さんが、タキシードとドレス姿で壇上から手を振っている。
周囲はそんな二人を祝福している――まるで結婚式のよう。
私は講堂の後ろの壁にもたれかかりながら、頬を染めている雛乃さんと凛々しい光さんをぼうっと見ていた。
今まで同率だったミスターコン、今回決着がついたその原因のひとつは私かもしれない。
……私は二年間、白紙で出していた。
真の名前も書けなかったし、かと言って光さんの名前も書けなかった。
個人的には真に入れたい。けれど、私が入れたら真はまた遠く離れていってしまうかもしれない、そんな思いが邪魔をしていた。
そんな事はないだろう、というのは分かってる。
分かってるけど……複雑な胸中だった。
ただ、今年は光さんの名前を書いて出した。
その理由はひとつ。
雛乃さんと真が並ぶところを見たくなかった。
皮肉なものね。真が言ったあの言葉。
『ふふーん、わてが姫はんの隣にいて、タキシード着る姿はきっとかっこいいやろなぁ〜!』
あれはきっと光くんに発破をかけるために告げたものだろう。
真はああ見えて、他人の感情に鋭いから――まあ、あとは光さんと雛乃さんが鈍すぎるのもあるとは思うけど。
真に「鈍い」と言われている私でも気づいたんだもの。相当よ。
その言葉に光くんは自分の心の願望に気がついたのでしょうね。
顔つきが変わったもの。
……それと同時に気がついた。私が持つ心の願望に。
「雛乃さんにはああ言ったけど……どの口が言うのかしら。笑っちゃうわ」
ここは騒々しいから誰にも聞こえないだろう。そう思ってぼそりと呟いた時――。
「何が笑っちゃうん?」
声のした方を振り向けば、そこには私と同じように壁にもたれながら腕を組む真がいた。
……いつもと違う、真剣な表情で。
少し気まずい。
私が光くんに入れた事、きっと真は察しているわね。
「……何でもないわ」
私は雛乃さんみたいに、勇気が持てなかった。
だって、真とは幼馴染なだけ。
口うるさい私に、きっと真が付き合ってくれているだけだと思うから。
俯く私の耳に、ため息が聞こえた。
「……なあ、ひとつ聞いていいか? 今回誰に入れた?」
私の肩がわずかに跳ねる。ダメよ、平然としないとバレてしまう。
「……誰でもいいじゃない」
もう潮時だ。
私は最後に幸せそうな二人の表情を見てから、会場を後にする。
講堂は祭りの会場とは少しだけ離れているため、幸いこの周辺には人がいないようだ。一人になりたくて私は裏庭へと向かう。
「ちょい待ち」
真に手を掴まれた。
「どうしてわてに入れないん?」
今までに見た事のない表情で問う真に、私は顔を背けた。
言えない。あなたとの距離を感じるから、なんて。
言えない。あなたの隣に違う人がいる事に耐えられない、なんて。
「……っ、何でもいいでしょう?」
手を振り解こうとしても、力が強くて振り解けない。真、こんなに力が強かったかしら……。
「……なあ、わて……自惚れてもいいん?」
「え?」
「雛乃はんの隣にいるわてを見たくないから、光はんに入れたんやろ?」
その言葉に顔が熱くなる。真に、見抜かれて……?!
「やっぱそうやんか、嬉しいなぁ……顔真っ赤にしいよって、かわいー」
私は真に何も言う事ができなかった。恥ずかし過ぎて。
顔も見る事ができなくて俯くと、真が私の耳元で囁いた。
「あの言葉、紗夜も気にしてくれたん? 言って良かったわ」