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第2話  ジャンル、ダンジョン?

 配信を終えたあと、悠人はぼんやりとスマホをいじっていた。

 言われた通り、ジャンルについて調べる。配信サイトでは、ジャンルを三つまで選べるシステムになっている。人気どころは「雑談」「ゲーム実況」「日常配信」……自分が選んでいたのもそのへんだった。


 だが、nonameが言った通り、それは多すぎる。似たような配信者があふれていて、素人の悠人が目立つわけがない。


「……だからって、今さら手芸とか料理とかやる器用さもねぇしなぁ」


 ため息をつきながらスワイプしていると、目に止まるタイトルがあった。


「――《ダンジョン配信・地下5階から脱出中》?」


 目を細めて見直す。画面に映るのは、暗い石壁と揺れるライトの光。誰かがヘルメットを被り、配信しながら狭い通路を進んでいる。


「……マジで、ダンジョン? なんじゃそりゃ」


 タグを確認すると《#ダンジョン》《#冒険配信》《#リアル脱出中》の文字。


 興味本位でほかの配信も見てみると、確かに、似たような「ダンジョン系」がいくつも出てきた。朽ちた木の扉を開ける配信者、地下の水路を歩く配信者、さらには「魔物に追われてますw」なんてタイトルまで。


「……いや、でもこれ作り物じゃないの? 演出か? 地下施設とか使ってんのか……?」


 疑いつつも、少しワクワクしている自分に気づいた。


 すぐに自分の配信を立ち上げると、画面にnonameの名前が表示された。


「nonameさん、さっき言ってたジャンル、見つけたよ。あったよ、ダンジョンってやつ!」


 そう報告すると、タイミングよく、もうひとり視聴者が入ってきた。


《ミミコさんが入室しました》


《ミミコ:こんにちはー!配信初見です!》



 明るいコメントとともに、スタンプがひとつ、可愛い猫のキャラが飛び跳ねている。


「あ、どうも、こんにちは……!」


 ちゃんと挨拶してくれるのは嬉しい。が、そのあとすぐにアイテムが投げられ、コメントも続々と送られてくる。


《ミミコ:がんばってください!》

《ミミコ:初見ですが応援してます〜!》《ミミコ:ダンジョンジャンルって気になりますね!》


(……ミッション狙いか?)


 ポイント目当てで視聴・アイテム・コメントを一通りこなす“巡回型”の視聴者。滞在時間も長くないことが多い。悠人はすぐに気づいたが、表には出さなかった。


 だが――。


(……いや、待てよ?)


 ふと思い返す。

 三ヶ月間、ずっと誰も見なかった配信。ミッション狙いの巡回系ですら一度も入ってこなかったのだ。それが今日は二人も来た。


「今日って……もしかして大安とか? 天赦日? 占いで最強の日?」


 誰にも聞こえない冗談をこぼす。


「ま、たとえジャンルが“ダンジョン”でもさ……」


 言葉を区切り、笑いながら続けた。


「現実にダンジョンなんてあるわけないし。歩いててトラックに轢かれて異世界転生しない限り、無理だろ? ははっ……」


《ミミコ:あはは、それなです!》


《ミミコ:でも“異世界ダンジョン配信”ってウケそうですよね〜》


《noname:実現する日が来るかもな》


「ないない。そんなラノベみたいな展開あるかっての……」


 だが、そのときだった。


 ――ガシャァァァン!!


 耳をつんざくような衝撃音。地鳴りのような振動。続いて聞こえたのは、甲高いクラクションと、金属が軋む音。


 そして、壁が砕けた。


 白い光と鉄の塊が、部屋の中に突っ込んでくる。


 トラックだった。


 悠人の意識は、その瞬間闇に……。


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