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第10話 希望

配信を再開すると、待ち構えていた常連たちが一斉に帰ってきた。そして数人また増えていた。




《no  name:やっぱり事故だったぞ。ニュース速報に出てる!》


「あんな田舎なのに! やはりトラック突っ込む事故は……あれなのか」

と悠人。


《ケロッピ:見た見た! トラックが民家に突っ込んだ……ってお昼のバラエティ番組ニュースに切り替わった!》

《ナナコ:室内にいた三十代男性と運転手が重傷、助手席の二十五歳男性と通行人の二十代女性は意識不明だって……》


カイトの顔に、わずかながら光が射す。


「純也さんも――生きてる可能性がある!」


《チロル:死にかけてるからそのダンジョンに魂釜彷徨ってる?》


《ミミコ:配信切った後に似たような配信が始まって……スヨンって子。その子に連絡したよ! そっちと同じダンジョンかもしれないって!》


「スヨン……ありがとう! ミミコさんだったのか」 

《ミミコ:たまたま知ってる配信のこだったの!》


悠人が端末を握り直す。

「コラボで繋げる?」


《ミミコ:うん、アカウント送るね!今は配信ストップしてるのが気になるわ。私この配信はスマホで見て、スヨンはスマホで見てるわ》


なんとも頼もしい視聴者だ。他にも数人スヨンを知ってる人がいた。


申請が通らずとりあえず分岐を慎重に進む二人。だがレンガの通路は予想以上に入り組んでいる。


《no name:むやみに動くな。位置を見失うと合流が難しい》


その忠告が終わらぬうちに、ぬるりと粘液が足元を舐めた。


「来た!」

スライムである。さっきよりも範囲が広い。大量だ。


ライトを最大照度にし、狙いを定める。粘体は光に焼かれるように震え、あっけなく崩れ落ちた。


「さっきより早いな」

悠人が息を整える。

「慣れてきたって証拠だ」とカイト。



受け取ったアカウントへ、コラボ配信申請を送信。

数秒ののち、画面が二分割され、同じレンガ壁を背景にした女性が現れた。


「はい、こんにちは!!」


少し緊張した声――スヨンだ。


《ミミコ: 繋がったーー!》

《ケロッピ: 同じ壁! 絶対同じダンジョン!》

《ナナコ: 無事でよかった……!》


スヨンはカメラを握りしめ、安堵の笑みをこぼした。


「あなたたちが配信してるって、視聴者さんが教えてくれたの。まさか本当に繋がるなんて……!」


「こっちも仲間が増えて心強いよ」と悠人。

カイトもヘッドマイクを直しながら言う。


「俺たち二人にスヨンさん――三人で情報を共有しよう。生きて脱出するために」


《ノーネーム: 三拠点連携、戦術的に有利だ》

《ミミコ: スリーマンセル配信! 盛り上がってまいりました!》

《チロル: 視聴者も三倍応援する!✨》


スヨンは頷き、画面に向かって小さく拳を握った。


「ここから、一緒に帰りましょう。ぜったいに――!」


赤い「LIVE」のランプは、三つのカメラで同時に瞬いている。

ダンジョンの奥で、何かがゆっくりと動き出す気配がした。

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