ジワジワと蝉が鳴いている。
積乱雲が主張する真夏の空は、もう十六時だというのに、まだ青い。
顎を伝う汗が、気になる。
「祭り、誰と行くの?」
バス停脇のベンチ。一人分間を空けて、端と端同士に座る私たち。
「同じクラスの、女の子たち」
「へぇ。みんな浴衣?」
「うん、そう。そういう約束、したの」
園崎くんとは家が近く、小中、それから高校も同じ。中学生のころから、何があった訳でもないけれど、お互いあまり話さなくなってしまった。
それは別に私たちだけに限ったことじゃなくて、この、一人分空いたスペースのような微妙な距離感はきっと、『男女』を意識したときに、誰にでも生まれているものなのだと思う。
本当に久しぶりに会話を交わしている。きっと、この場所に私たちしかいないから、話せてる。
今日は、高校近くの神社で縁日があって、それに向かうためのバスを待っている。園崎くんも、私も。
「園崎くんは? 誰と行くの?」
「同じクラスのやつら」
「彼女……とか?」
「いないから、彼女とか」
園崎くんが笑う。
いないんだ。
そっか、と相槌を打ちながら、ホッと胸を撫で下ろしている私がいる。上がりそうになる口角を、奥歯を噛みしめてこらえる。
不意に、園崎くんがベンチを立った。間もなくバスが来る時間だというのに、彼はバス停裏に行ってしまった。
もう十六時を過ぎているのに、まだ蝉が鳴いている。けれど、園崎くんの姿が見えなくなって、なんだかとても静かな空間になってしまったように思えた。
「園崎くん、もうすぐバス来るよ」
寂しくなって、声を掛ける。「おー」と軽い声が返ってきた。
「
Tシャツの裾で何かを拭いながら、江口くんがバス停裏から戻って来る。手を出すように言われ、素直に差し出せば、その上にころんとビー玉が転がった。
「ビー玉好きだったでしょ」
屈託のない園崎くんの笑顔を見て、「あ、」と思わず赤面した。
小学五年生の夏休み。駄菓子屋さんで会った園崎くんは、店前のベンチに座って、今日のようにラムネを飲んでいた。その隣で、くじで引き当てたビー玉を光に透かして眺めていた私に、園崎くんは「ビー玉好きなの?」と尋ねてきた。うん、と頷いたのか、好きだと答えたのかは忘れてしまったけれど、帰り際、園崎くんが「あげる」と言って、ラムネ瓶に入っていたビー玉をくれたのだ。
「今って、簡単に蓋開けられるの知ってた? 昔は瓶、叩き割ってたけど。あ! さっき裏の水道でちゃんと洗ってるから」
「ありがとう」
園崎くんは、「うん」とあの日と同じように、満足そうな表情で頷いた。
そしてまた、一人分のスペースを空けてベンチに腰を下ろした。
世界を透かすように、園崎くんから貰ったばかりのビー玉を覗く。
見慣れた景色は、ときめくほど、青く青く、輝いていた。