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ダンジョン配信は始めません!
ダンジョン配信は始めません!
奇蹟あい
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月14日
公開日
5,057字
連載中
西暦XXXX年。 突如として世界の至るところに『ダンジョン』と呼ばれる異空間への入り口が出現した。 ダンジョンは、地球上に存在しない凶暴な生物(のちに魔物やモンスターと呼称)が支配する世界だった。 ダンジョンの出現と同時に、地球上には『ダンジョンスキル』と呼ばれる、ダンジョン内でのみで使える特別な力に目覚める者たちが現れ始めた。 その者たちは『覚醒者』と呼ばれた。 覚醒した者は、世界人口の約10%に達すると言われているが、その実態、覚醒理由、発現条件などはいまだ不明だ。 ダンジョンへ潜ることができるのは『覚醒者』のみである。 なぜなら非覚醒の一般人がダンジョンへ立ち入ると、その内部の空気中に含まれる有害な成分を体内で分解することできず、たちまち死に至るからだ。 しかし、地球に住む人類はダンジョンの存在を無視することができなかった。 ダンジョン内には、地球上には存在しない資源が豊富に存在していることがわかったからだ。 ダンジョンからもたらされるその資源は、人口が飽和状態になっている地球に多大な恩恵をもたらしてくれる一方で、『新人類』と呼ばれる『覚醒者』たちの選民思想が問題となり始めていた。 『覚醒者』たちは自分の力を誇示するように、こぞって『ダンジョン配信』を始めていた。 そんなダンジョン黎明期のお話。 高校3年生の流野陽一(ながれのよういち)は、『ダンジョンスキル』が発現した『覚醒者』の1人だった。 しかし、陽一(覚醒者ネーム:ルイ=シャドウイング)は、決してダンジョン配信をしようとはしない変わり者。 ほかのダンジョン配信者のダンジョン攻略にこっそりついていき、その様子を自身のスキルを使って撮影し、匿名の動画チャンネルで公開するという行動を繰り返していた。 陽一が新進気鋭のダンジョン配信者、≪閃光≫のミオ=セリーヌの生配信に隠れて同行していた時のことだった。 ミオがボスの攻撃により、思わぬ致命傷を負ってしまう。 それを見過ごすことのできなかった陽一は代わりにボスを討伐する。 そのおかげで、ミオを一命をとりとめることになった。 本来なら出逢うことのなかったはずの2人。 運命に導かれ、パートナーとなってダンジョン配信を始める――話ではありません。 拗らせ非モテ男子と、メンヘラ隠れギャル女子による、甘々(?)ダンジョン外バトルが開幕する⁉

第1話 まさかさ、俺の目の前でボスに殺されかかって死ぬ寸前まで行くとは思わないじゃん?

“おい、この映像見たか?”

“≪閃光≫のミオ=セリーヌの配信だろ? 自爆ダンジョン攻略で有名な”

“実際かなり強いからな”

“最近急に出てきたし、まだレベル低いだろ?”

“たぶんリアル女子高生。俺の勘がそう言っている!”

“キモッ”

“だからこの映像見ろって!”

“生配信で見たから今さら見なくても”

“渋谷アルファダンジョンのボス『深淵の騎士』を閃光フラッシュで倒したあれだろ?”

“肝心の討伐シーンが映っていなったけどな”

“違うんだって。動画投稿者の名前を見ろ”

“『LUI』誰だこれ? 公式の動画じゃないのか。切り抜き?”

“そうじゃねぇって。動画の映像がおかしいんだよ”

“なんだこれ……? どこから撮影した画角なんだ?”

“ボスと戦っている時の表情をアップで撮影? ボスの顔と交互に?”

“気づいたか。自動追尾のドローンカメラがこんな寄り方するわけねぇ”

“ステルス性能あり? 新型のドローンか?”

“そんなのが出てるなら、もっと有名な配信者が自慢しまくって使ってるだろ”

“閃光姉さんの配信コメで突撃したヤツがいたんだけど、こんな映像知らないってさ”

“AIで合成? それにしてはリアルすぎるよな”

“でも今はAI技術も進化してるしな”

“何だフェイク動画か”

“解散”



「人の動画のことを匿名掲示板で好き勝手言いやがって……。だから違げぇって。俺がリアルに撮影したの。なんでもかんでもAIAIって、お前らお猿さんかっ!」


 とは言えない。


 今回の映像はかなり自信作なんだけどな。

 本人の生配信の映像と比べたら、どんな素人でも俺の動画とのクオリティの違いに気づけるだろ?


 ≪閃光≫のミオ=セリーヌだっけか。

 最近話題になり始めた新人ダンジョン配信者だ。

 ギャルっぽい見た目と強気で派手な言動にばかり目が行きがちだが、実力は確かなものがある。


 双剣使いでスピードはピカイチ。

 雑魚モブは言うまでもなく、ボス戦でも移動速度にものを言わせた戦術で、ほぼ無傷でのソロ討伐が話題を呼んでいる。


 しかし性格に難あり。……だいぶ難があるな、あれは。

 命を粗末にする系の配信者だからな。しかも視聴数のためじゃなく、あれはギリギリの戦いに身を置くことで、自分が生きていることを実感するタイプ。脳汁ジャンキーだわ。


 強さと無謀は違う。

 俺はああいうのは好きじゃないな。リアルに近づくのだけはやめたほうが良いタイプだな。


 人間、何事も身の丈に合った行動が1番だ。

 たとえば俺のようにな!


 俺? 俺はダンジョン配信者じゃないぜ。

 もちろん一般人ではないがな。

 人口の10%しか発現していないと言われている『ダンジョン覚醒者』だ。だからダンジョンには潜れる。

 でも俺は自分が弱いことを知っているからな。

 ちゃんと自覚しているから、自分の力を誇示するためにダンジョン配信、なんて偉そうなことはしない。


 俺はただ映像を撮りたいだけ。

 美しい映像、躍動感のある映像、見ているだけで血沸き肉躍るような、そんな刺激を世間に届けたいだけなんだ。


 それには俺が積極的にモンスターと戦う必要はない。

 俺の発現した能力、自分の姿を完璧に隠蔽する『ステルス・シャドウ』があれば問題ない。

 相手から見えなければ襲われる心配はないし、積極的に戦う必要なんてないんだからな。


 ああ、もちろん最低限は鍛えているよ?

 そうじゃないともう1つの能力、目で見たものを動画に収録する『ゴースト・ビュー』を最大限活かすことができなくなるからな。

 誰よりも速く動けて、誰よりも高く飛べて、誰よりも体が柔らかくないと美しい映像は撮れない。


 動画収録は一朝一夕にならずだ。


 俺は裏方で良い。

 むしろ表舞台には立ちたくない。


 だが人一倍承認欲求はある。

 チヤホヤされたい。

 なんなら女にモテたい。

 でも、誰にも俺のことは知られたくはないんだ。

 この『LUI』って動画投稿アカウントで配信しているのも身バレを防ぐためだ。


 謎の凄腕カメラマン。

 どんな生配信よりも美しく被写体を撮れるカメラマン。

 ダンジョンの最深部だろうが、超凶悪なボスとの闘いだろうが、なんでも撮影できるカメラマンを目指しているんだ。


 誰も顔を見たことがない『LUI』が覚醒者のランカーたちに人知れずついていって、その戦いの様子をカメラに収める。


 自動追尾のドローンカメラなんて目じゃねぇ。

 人間が人間を撮る。

 間合い。息遣い。匂い立つような恐怖。そして勝利の雄たけび。


 人間同士だからわかる、人間の魅力をこの目カメラに焼きつけるんだ。


 かっこよくね?

 今はそのための修行中で、そこそこの強さのダンジョン配信者を見つけてはこっそりついていって動画に収めているってわけだ。



 ≪閃光≫のミオ=セリーヌはちょうど良いターゲットだったんだよな。

 次回どこのダンジョンで配信するかを細かく予告してくれるから、張り込みがしやすいというのが大きな理由だ。

 ダンジョンの最深部で偶然攻略パーティーがやってくるのを待つ、なんてのはバカのすることだからな。

 実際それをやって、1回餓死しかけたし。

 あの時はその辺に生えているキノコを食って幻覚を見て、頭がおかしくなりそうだった……。まあ、あのキノコの影響なのかは知らんが、なんかへんな速度ブーストを掛けられるようになったから結果オーライだけどな?


 しばらくこのミオ=セリーヌの生配信についていって、動画撮影の技術を磨いてやろうと思っていたわけだよ。

 被写体としても映えるし、実際アップした動画の再生数もほかのダンジョン配信者よりもかなり良いしな。



 だけど……やっぱりやめておけば良かったよ……。

 実力ギリギリの無理めのダンジョンに繰り返し潜るようなヤツが、まともな神経を持っているわけなかったんだよな……。


 まさかさ、俺の目の前でボスに殺されかかって死ぬ寸前まで行くとは思わないじゃん?



 ついうっかり……。

 ほんの出来心だったんだよ……。

 いや、俺の育ちの良さが出ちまったのか……。


 ついうっかりなんだよ。

 ついうっかり助けちまったんだよなあ。


 さすがに目の前で人に死なれたくなかったしな。



 何がいけなかったんだろうな?

 助けるだけ助けて、当身でもして気絶させて、浅い階層まで連れていって放置して帰れば良かったのか?


 いやーでも、とっさのことでそんな判断はできなかったな。


 ダンジョンボスを一撃でヤッたのを見られたのは、さすがにダメだったかな……。

 顔は見られていないから大丈夫だったと思ったんだよ。

 それにほら、俺って『ステルス・シャドウ』で隠蔽しているし、ボスの弱点を思いっきり攻撃することなんて造作もないからさ。

 弱点が見えていて、そこに100%攻撃が当たるってわかっているなら、みんな普通にワンパンできるだろ?


 何もSランクダンジョンのレイドボスじゃない。

 たかがAランクダンジョンのレイドボス程度なら……さすがにね?



 と思ったんだが、どうやら俺は相手を――≪閃光≫のミオ=セリーヌという人物を甘く見ていたらしい……。

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