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第6話 ダンジョン配信はしません!

「好きです。アタシのパートナーになってください」


 これって……マジの告白? いや、さすがにドッキリだよな? あーわかった! これも配信されている? って、学校の廊下だよな。ドローンも飛んでいないし、ダンジョン内でもないから配信は無理か。


 でもあれだろ。配信じゃなくても罰ゲームで告白するやつ!

 知ってる知ってる! 誰かが影から『ドッキリ大成功』の看板を持って登場するヤツだ!


「ダメ……ですか……?」


 その上目遣い……あざとすぎるだろ。

 いつの間に前髪をヘアピンで留めて、表情が見えるようにしたんだよ……。

 素顔もめっちゃ美人ですね!

 さては普段芋っぽい格好をしているのはわざとだな⁉ そうだよな! 素のキャラもはっちゃけているし!


「婚姻届は書いてきたの」


 小さく折りたたまれた紙を取り出し、俺の目の前で丁寧に広げていく。


「えっ、パートナーってそっち⁉」


 リアルのほうの⁉

 ダンジョン配信のほうじゃなくて⁉


「あとはルイくんがハンコを押してくれれば書類は完成よ。何度も確認したから不備はないし、お役所に提出すればすぐ受理されるからね」


 うわー! 俺の名前も住所も、何もかも全部先に記入されている!

 証人の欄……光崎の父さんの名前と……俺の父さんの名前⁉ いつの間に⁉


「ちょっとこれ! こういう書類の偽造は絶対ダメだぞ!」


「偽造? ルイくんのご両親には、ちゃんとご挨拶を済ませておいたから問題ないわ」


「なん……だと……」


 俺たち自身が初対面の挨拶を済ませていなかったのに、先に俺の両親と挨拶を⁉

 よく見れば確かに父さんの筆跡だわ……。父さんも母さんも、俺には何も……。


「あとはルイくんの血判があれば……」


「怖い怖い怖い!」


 突然胸元から小刀を取り出すな!

 今断ったら、確実にそれで刺されるやつじゃん!


「ほ~ら~、力を抜いて手を開いてね~。ちょっとチクッてするだけだから♡」


 いや、今手を開いて指を見せたら終わる!

 いろいろと終わる気がする!


「恥ずかしがってないで? アタシたちは運命のパートナーなんだから心配しなくても大丈夫よ?」


 それは完全にお前の勘違いだからな!


 くっ、コイツ……リアルの力はけっこう強い!

 このままだと俺の血判が取られちまう!


「ちょっと待ってくれ! は、判を押す前にいくつか俺の要求も聞いてくれっ!」


 なんとか時間稼ぎをしなければ!

 その間に一旦熱が冷めてくれることを祈る!


「何でも言って♡ しばらくはダンジョン配信したいから、子どもはもうちょっとあとでね♡」


「ちがうー。そっち方面の話じゃねぇ!」


 えっ、でも結婚ってなったら、そういうのも合法……?

 ミオって実は隠れ美人だし……スタイルも……って違う違う! そうじゃない!


「俺たちの関係は、絶対に世間には秘密にしたい。できるか?」


 これはマジでリアルに守ってほしいやつ!

 これが守れないなら、さすがに命の危険がある……。


「え~! みんなに祝福してほしいのに~!」


「お前の言うみんなとは……?」


「配信で大々的に報告してファンのみんなにお祝いしてもらうの♡」


「絶対却下!」


 1番やっちゃいけないことだろ! 死ぬぞ!


「え~! 祝われたい祝われたい~!」


 駄々をこねるな!


「両親以外に秘密だ。自分が『覚醒者』であることの取り扱いと同じにしてくれ。そうじゃなければ命の危険があるからな」


「むぅ~、仕方ないけれど……わかったわ……」


 1つ目はなんとかクリアか……。


「もう1つだけ、俺の要求がある」


 こっちはどうせのめない条件だろうがな。

 ここで物別れに終われれば完璧だ。


「週7回ね♡ わかったわ♡」


「俺は性欲の化け物か! だからそっち方面の話じゃない!」


「ダンジョン配信は週7回まで、毎日配信よね?」


「……すまない。俺の発言は忘れてくれ……」


 恥ずかしっ!

 完全にシモの話だと思っちゃいました!


「ダンジョン配信の回数は……好きにしてくれ……。でも、俺はカメラマンに徹する。顔出しもNGだし、俺の存在を匂わすのもNGだ。これまで通り≪閃光≫のミオ=セリーヌのソロ配信にしてくれ。これが俺の譲れない条件だ」


 俺は表舞台に立ちたくないんだ。


「え~! ラブラブダンジョンアタックしたい~♡」


「ラブラブって……お前、キャラ崩壊してるぞ。ギャルっぽいキャラとはいえ、もっとクール系で危ないヤツだったろ……」


 急に恋愛脳が爆発したみたいなスイーツ系になってんじゃねぇよ。

 お前のファンが混乱するだろ。


「ルイくんがアタシのキャラを分析してくれてるぅ!……もうっ好き♡」


 何言っても恋愛脳か!

 ホントに視野が狭いヤツなんだな……。これってもうどうあっても俺の好感度が上がることしかないんじゃ……。


「俺たちの関係は家族以外には公表しない。ダンジョン配信もこれまで通り、ミオのソロ配信で俺はカメラマンに徹する。この2つの条件をのんでくれるなら、お前の希望も叶えよう……」


「じゃあ~、アタシのことは~ミオちゃんって呼んで♡ もしくは、マイスイートハニーラブリーエンジェルエターナルトロピカルクラシック――」


「ミオちゃんで!」


 スタバのメニュー呪文かよ!


「うん、条件のみます♡」


 即答かよ。

 マジかよ……。


 これってホントのホントに結婚する流れ……なのか?

 0日婚どころか、出逢って1時間も経っていないんだが……。


 でも条件は全部のんでくれるわけだし、もう何も問題はない……。ホントか……? ホントにホントか⁉


 だけどもう断る理由がないな……。


「じゃあ……わかった……判を押すわ……」


 痛って!


「おい! 深く切り過ぎだろ! ぜんぜん血が止まらねぇ! あー、婚姻届けが血まみれに!」


「大丈夫大丈夫♡ このまま走って役所に提出にいけばそのうち乾くし♡」


 そういう問題か……?

 血まみれの婚姻届けとか怖すぎる……って、もう何でも良いか……。





 というわけで、俺は出逢ったばかりのクラスメイト・光崎美緒――≪閃光≫のミオ=セリーヌと結婚した。






 それから毎日、週7回ミオのダンジョン配信に付き合っていたわけだが――。



 ミオが配信中に、ついうっかりステルス状態の俺に話しかけてしまい、あっさりとカメラマンの存在が世間にバレてしまうことになる。

 完全に開き直ったミオが、堂々の結婚宣言をぶちかましてしまう。

 このニュースが超大炎上。SNSでトレンド入りし、違う意味でミオと俺は有名になってしまったのだった。



 だが、炎上してから開き直ったミオのキャラ変ぶりを見て、徐々にファンたちが理解を示し始め……そのせいで、なぜか俺が顔出しのカップル配信を強いられることになるのだが――。



 それはまた別の話。



 いやいやいや! 俺は絶対にダンジョン配信はしないぞ!



≪おしまい≫

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