「卒業おめでとうございます」
そんなアナウンスが、式典会場に響き渡る。卒業証書を受け取って、私はとある教室へと向かった。
「卒業おめでとう」
そう言ってくれた最愛の人へ、ありがとうと言葉だけを返す。晴れて教師と生徒ではなくなったけれど、アイドルとファンという関係には戻るから。まだまだ、巷でいうラブラブの恋人同士という訳にはいかないのだ。
「まずは、小さい頃の夢を叶えてきますね」
彼女のようになりたい。彼女のように、私も、皆を元気づけられるアイドルになりたい。そちらの夢の方が先なので、まずはそっちを頑張ろうと思う。やりきったって思えるまで待っててくれるって、彼は言ってくれたから。
「頑張って来い。俺は変わらず、応援しているから」
「ライブにも来てくれますか?」
「ライブにはな」
「握手会は?」
「そっちは遠慮しよう」
すげなく断られたので、むうっと頬を膨らませてみる。可愛い顔をしても絆されんぞと言われながら、彼の指が私の頬をちょいちょいとつついた。
「そうですね。お互い隠し事苦手だから、絶対に感づかれるもの」
「既に社長とマネージャーは感づいていたな」
「節度を守るなら黙認って感じみたい」
「そうか、それなら、まだまだ俺達はこの距離感だな」
そう言った彼が、私に手を差し出す。強く握りたいのを我慢して、握手会の時のようにそっと握った。