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第8話 マジック・バッグ


 ディメンジョン・イーターを倒してから一週間後、冒険者ギルド静岡支部にマジック・バッグを受け取りにきた。

 静岡市街地のビルの中にある支部は、いつ来ても受付嬢の視線が熱い。

 ミリアも一緒で、ちょっと緊張した顔をしてる。


「川口さん、マジック・バッグ、完成しましたよ!」


 マリコさんがカウンターの奥から、黒光りする革のバッグを持ってくる。

 ディメンジョン・イーターの革でできたマジック・バッグ、めっちゃカッコいい!

 中は別次元空間で、めっちゃ荷物が入る優れものだ。

 別次元というだけあって、いくら入れても重くならない。かなり不思議。

 原理は解明されていないが、普通に科学に混じって利用されていた。


「うわ、めっちゃいい感じ! マリコさん、職人さんに感謝伝えて!」

「はーい、了解! 百万DPの支払い、確認済みだから、これでバッチリね!」


 ギルドカードからこの前ガッツリDPが引き落とされたけど、このバッグがあれば冒険がめっちゃ楽になる。

 ミリアもバッグを興味津々で覗いてる。


「リオンさん、これで荷物持ち放題ですね!」

「うん、これでポーションも素材もガンガン運べるよ! よし、早速ダンジョンで試すか!」


 そのとき、背後からドスドスと重い足音がした。

 振り向くとシルバー級パーティー「ルミナス」のリーダー、小野田さんが立ってる。

 細身の背の高い年長の男性で、ミスリウムのロングソードを背負ってる。

 後ろには魔法使いの男性、増田さんと、ダガー使いの青年、海野さんがいる。

 全員めっちゃ強そう。


「よ、リオン。お前、マジック・バッグ手に入れたんだってな?」

「う、うん、小野田さん。やっと完成したんだよね……」

「ちょうどいい。俺たち、明日から日本平ダンジョン五階に潜る予定なんだ。荷物係、やってくんね?」


 え、マジで!? 五階って、ブロンズ級の僕にはキツいフロアだ。キングオーガとかゴブリン・マジシャンとか、ヤバいモンスターが普段からウロウロしてる。

 例のアース・ドラゴンも地下に潜ったまま斎木さんと一緒に行方不明のままだ。

 地下七階ぐらいにいるのではないか、とは言われているけど分からない。

 それで地下五階。マジック・バッグがあれば、荷物運びは楽勝だし、シルバー級のパーティーに混ざれるなんてチャンスすぎる!


「リオンさん、危なくないですか?」

「大丈夫、小野田さんたちシルバー級だよ。僕、荷物運びだけだからさ!」


 ミリアが心配そうな顔で確認してくる。

 配信の準備もして、翌日、僕とミリアはルミナスと一緒にダンジョン入り口に集合した。


 配信開始!


「はーい、リオンのダンジョン配信、今日は特別編! シルバー級パーティー『ルミナス』と五階に挑戦だよー! 荷物係だけど、ガンガンいくぜ!」

『ルミナス!? マジすげえ!』

『ああ、ルミナスな、なんとなく聞いたことあるわ』

『リオンちゃん、荷物係でも輝いてる!』

『五階やばそう、気をつけて!』


 小野田さんがドンと肩を叩いてくる。


「リオン、荷物はマジック・バッグに頼んだぞ。ポーションと素材、全部預けるからな!」

「ラジャー! 任せてください!」


 すでにポーションをたっぷり入れてある。

 けっこうな費用だろうにルミナスの資金はたくさんあるようだ。


 五階は空気が重い。ヒカリゴケの光も薄暗く、モンスターの気配がビシビシ感じる。

 そして全体的に通路が広い。つまり大型の魔物が通るということだった。

 いわゆる魔力波は強いモンスターほど強力で、慣れている冒険者なら体感でもわかるほどだ。

 ルミナスの面々はさすがで、キングオーガが現れても小野田さんの剣と魔法使いの増田さんのファイアボールで一瞬で片付ける。

 海野さんのダガーも一撃で道中の敵を倒していた。

 僕はマジック・バッグにモンスター素材をガンガン詰め込む。めっちゃ便利!

 ミリアは僕の後ろでショートソードを握り、キョロキョロしてる。まだグリーン級だしね。いわゆる『初心者マーク』というやつで、もちろんみんなに大切にされる期間だ。


「リオンさん、なんか怖いです……」

「大丈夫? でも、小野田さんたちがいれば安全だよ。ほら、コメントも応援してくれてる!」

『リオンちゃん、荷物係もカッコいい!』

『ミリアちゃん、守られてる感かわいい!』

『怖いモンスターが出てきたら逃げるんだぞ』

『ルミナスの後ろに隠れてようぜ』


 突然、ゴブリン・マジシャンが現れてサンダーボルトを撃ってくる!

 バチッとマジック・バリアが光るけど、小野田さんが一閃で倒す。

 すげえ、シルバー級!

 数時間の探索で、マジック・バッグはキングオーガの牙や魔石でパンパン。

 基本的に強いモンスターほど魔力が多く、魔石も比例して大きい。

 大きい魔石は相対的に高値で取引されている。だから強い敵相手のほうが稼ぎがいいのだ。

 大粒の魔石がゴロゴロと出てきて、それを僕のマジック・バッグに入れていく。

 それだけではなく、いわゆる素材。

 シルバー・カウという牛モンスターなんか丸々肉塊がマジック・バッグに吸い込まれていった。

 百キロくらいありそうだ。ごくりと喉を鳴らす。

 帰ったら、焼肉食べたいな。お腹もグーと鳴いたら、みんなに笑われてしまった。


「お腹すいたんだもん」

「まったく、リオンちゃんはかわいい」

『リオンちゃん、お腹かわいい』

『リオンちゃんナイス』

『ぐーー』

『ぐうー』

『お腹ぐうう』


 小野田さんがニヤッと笑う。

 小野田さんたちもモンスター情報や地図表示のためにメガネ型端末をつけて、僕の配信を見ているので、同じようにコメントも表示されているはずだ。

 それに対して、たまに突っ込みとかも入れてくれる。

 解説とかまでしてくれるので頭が上がらない。助かる。

 強いオーガなどを倒しつつも、探検は和やかに進んだ。

 そうして四時間余り、時間に余裕を持たせて階を上がって戻ってくる。


「リオン、いい仕事だ。次も頼むぞ」

「へへ、ありがとう! また呼んでね!」


 配信終了後、ギルドで報酬を受け取る。

 二十万DPの臨時ボーナス! ミリアも目をキラキラさせている。


「リオンさん、シルバー級ってすごいですね! 私もいつか……」

「うん、ミリアちゃんも頑張ればなれるよ。斎木さんみたいに!」

「はいっ。頑張ります! いえ、頑張ってみせます!」

「いい気合いだ」

「あはは。最初はちょっと怖かったんです。でも、みんな優しくしてくれて」

「そうだね」

「だから、大丈夫そうです。なんとか、できそうです。うれしいです」

「よかったね」

「はいっ!」


 にっこり笑うミリアはなんともかわいらしい。

 最初はガチガチに緊張して、少し不安そうにしていたもんな。

 今日の敵は強かったけど、ルミナスのメンバーはめちゃんこ強いし、ガンガン倒していくし、で目が回りそうだった。

 僕たちも、倒されたモンスターの解体を手伝ったり、出てきた魔石の大きさにびっくりしたり。

 本当にいい経験をさせてもらった。


 マジック・バッグを肩にかけながら、僕は思う。斎木さん、僕、ちょっとだけ近づけたかな? まだブロンズだけど、いつか絶対シルバー級になってやる!


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