ディメンジョン・イーターを倒してから一週間後、冒険者ギルド静岡支部にマジック・バッグを受け取りにきた。
静岡市街地のビルの中にある支部は、いつ来ても受付嬢の視線が熱い。
ミリアも一緒で、ちょっと緊張した顔をしてる。
「川口さん、マジック・バッグ、完成しましたよ!」
マリコさんがカウンターの奥から、黒光りする革のバッグを持ってくる。
ディメンジョン・イーターの革でできたマジック・バッグ、めっちゃカッコいい!
中は別次元空間で、めっちゃ荷物が入る優れものだ。
別次元というだけあって、いくら入れても重くならない。かなり不思議。
原理は解明されていないが、普通に科学に混じって利用されていた。
「うわ、めっちゃいい感じ! マリコさん、職人さんに感謝伝えて!」
「はーい、了解! 百万DPの支払い、確認済みだから、これでバッチリね!」
ギルドカードからこの前ガッツリDPが引き落とされたけど、このバッグがあれば冒険がめっちゃ楽になる。
ミリアもバッグを興味津々で覗いてる。
「リオンさん、これで荷物持ち放題ですね!」
「うん、これでポーションも素材もガンガン運べるよ! よし、早速ダンジョンで試すか!」
そのとき、背後からドスドスと重い足音がした。
振り向くとシルバー級パーティー「ルミナス」のリーダー、小野田さんが立ってる。
細身の背の高い年長の男性で、ミスリウムのロングソードを背負ってる。
後ろには魔法使いの男性、増田さんと、ダガー使いの青年、海野さんがいる。
全員めっちゃ強そう。
「よ、リオン。お前、マジック・バッグ手に入れたんだってな?」
「う、うん、小野田さん。やっと完成したんだよね……」
「ちょうどいい。俺たち、明日から日本平ダンジョン五階に潜る予定なんだ。荷物係、やってくんね?」
え、マジで!? 五階って、ブロンズ級の僕にはキツいフロアだ。キングオーガとかゴブリン・マジシャンとか、ヤバいモンスターが普段からウロウロしてる。
例のアース・ドラゴンも地下に潜ったまま斎木さんと一緒に行方不明のままだ。
地下七階ぐらいにいるのではないか、とは言われているけど分からない。
それで地下五階。マジック・バッグがあれば、荷物運びは楽勝だし、シルバー級のパーティーに混ざれるなんてチャンスすぎる!
「リオンさん、危なくないですか?」
「大丈夫、小野田さんたちシルバー級だよ。僕、荷物運びだけだからさ!」
ミリアが心配そうな顔で確認してくる。
配信の準備もして、翌日、僕とミリアはルミナスと一緒にダンジョン入り口に集合した。
配信開始!
「はーい、リオンのダンジョン配信、今日は特別編! シルバー級パーティー『ルミナス』と五階に挑戦だよー! 荷物係だけど、ガンガンいくぜ!」
『ルミナス!? マジすげえ!』
『ああ、ルミナスな、なんとなく聞いたことあるわ』
『リオンちゃん、荷物係でも輝いてる!』
『五階やばそう、気をつけて!』
小野田さんがドンと肩を叩いてくる。
「リオン、荷物はマジック・バッグに頼んだぞ。ポーションと素材、全部預けるからな!」
「ラジャー! 任せてください!」
すでにポーションをたっぷり入れてある。
けっこうな費用だろうにルミナスの資金はたくさんあるようだ。
五階は空気が重い。ヒカリゴケの光も薄暗く、モンスターの気配がビシビシ感じる。
そして全体的に通路が広い。つまり大型の魔物が通るということだった。
いわゆる魔力波は強いモンスターほど強力で、慣れている冒険者なら体感でもわかるほどだ。
ルミナスの面々はさすがで、キングオーガが現れても小野田さんの剣と魔法使いの増田さんのファイアボールで一瞬で片付ける。
海野さんのダガーも一撃で道中の敵を倒していた。
僕はマジック・バッグにモンスター素材をガンガン詰め込む。めっちゃ便利!
ミリアは僕の後ろでショートソードを握り、キョロキョロしてる。まだグリーン級だしね。いわゆる『初心者マーク』というやつで、もちろんみんなに大切にされる期間だ。
「リオンさん、なんか怖いです……」
「大丈夫? でも、小野田さんたちがいれば安全だよ。ほら、コメントも応援してくれてる!」
『リオンちゃん、荷物係もカッコいい!』
『ミリアちゃん、守られてる感かわいい!』
『怖いモンスターが出てきたら逃げるんだぞ』
『ルミナスの後ろに隠れてようぜ』
突然、ゴブリン・マジシャンが現れてサンダーボルトを撃ってくる!
バチッとマジック・バリアが光るけど、小野田さんが一閃で倒す。
すげえ、シルバー級!
数時間の探索で、マジック・バッグはキングオーガの牙や魔石でパンパン。
基本的に強いモンスターほど魔力が多く、魔石も比例して大きい。
大きい魔石は相対的に高値で取引されている。だから強い敵相手のほうが稼ぎがいいのだ。
大粒の魔石がゴロゴロと出てきて、それを僕のマジック・バッグに入れていく。
それだけではなく、いわゆる素材。
シルバー・カウという牛モンスターなんか丸々肉塊がマジック・バッグに吸い込まれていった。
百キロくらいありそうだ。ごくりと喉を鳴らす。
帰ったら、焼肉食べたいな。お腹もグーと鳴いたら、みんなに笑われてしまった。
「お腹すいたんだもん」
「まったく、リオンちゃんはかわいい」
『リオンちゃん、お腹かわいい』
『リオンちゃんナイス』
『ぐーー』
『ぐうー』
『お腹ぐうう』
小野田さんがニヤッと笑う。
小野田さんたちもモンスター情報や地図表示のためにメガネ型端末をつけて、僕の配信を見ているので、同じようにコメントも表示されているはずだ。
それに対して、たまに突っ込みとかも入れてくれる。
解説とかまでしてくれるので頭が上がらない。助かる。
強いオーガなどを倒しつつも、探検は和やかに進んだ。
そうして四時間余り、時間に余裕を持たせて階を上がって戻ってくる。
「リオン、いい仕事だ。次も頼むぞ」
「へへ、ありがとう! また呼んでね!」
配信終了後、ギルドで報酬を受け取る。
二十万DPの臨時ボーナス! ミリアも目をキラキラさせている。
「リオンさん、シルバー級ってすごいですね! 私もいつか……」
「うん、ミリアちゃんも頑張ればなれるよ。斎木さんみたいに!」
「はいっ。頑張ります! いえ、頑張ってみせます!」
「いい気合いだ」
「あはは。最初はちょっと怖かったんです。でも、みんな優しくしてくれて」
「そうだね」
「だから、大丈夫そうです。なんとか、できそうです。うれしいです」
「よかったね」
「はいっ!」
にっこり笑うミリアはなんともかわいらしい。
最初はガチガチに緊張して、少し不安そうにしていたもんな。
今日の敵は強かったけど、ルミナスのメンバーはめちゃんこ強いし、ガンガン倒していくし、で目が回りそうだった。
僕たちも、倒されたモンスターの解体を手伝ったり、出てきた魔石の大きさにびっくりしたり。
本当にいい経験をさせてもらった。
マジック・バッグを肩にかけながら、僕は思う。斎木さん、僕、ちょっとだけ近づけたかな? まだブロンズだけど、いつか絶対シルバー級になってやる!