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第18話 斎木直樹の影


「はーい、リオンのダンジョン配信、今日も絶好調! チーム『スターライト』、ミリアちゃんとマナミと一緒に、日本平ダンジョン三階地底湖エリアの続きだよー! 水晶のオーブもゲットしたし、今日はどんな冒険になるかな? みんな、応援よろしくね!」


 ドローンが地底湖の青い水面を映し、ヒカリゴケの光が洞窟を薄暗く照らす。

 僕リオンはミスリウム合金のショートソードを手に、腰には魔鉄弾のハンドガンを隠す。

 銃の免許を取ったことはミリアとマナミにも内緒にしてたけど、昨日の戦いでバレちゃった。

 オーガ革の鎧が心強い。

 ミリアはファイアボルトの準備を整え、マナミはマジック・バッグに戦利品を詰め込む準備万端。

 視聴者コメントが早速盛り上がる。


『スターライト、水晶のオーブおめでとう!』

『リオンちゃんのハンドガン、めっちゃカッコよかった!』

『ミリアちゃん、ファイアボルトまた見たい!』

「リオンさん、昨日ハンドガン使ったの、びっくりしました! いつ免許取ったんですか?」


 ミリアが目を丸くして聞く。彼女のファイアボルトは前回の配信で大絶賛され、スターライトの人気も急上昇中だ。


「へへ、実はこっそり講習受けてたんだ。緊急用の切り札! マナミ、今日も荷物管理頼むよ!」

「お兄ちゃん、銃なんてカッコよすぎ! ポーションもバッグもバッチリだよ!」


 マナミがバッグを叩いてニヤリ。

 視聴者コメントが『マナミちゃん、元気すぎw』『リオンちゃんの銃、もっと見たい!』と沸く。

 サキのブルーファングは今日も別ルートで配信中だが、昨日の一戦で共闘の絆が芽生えた。

 サキのチャンネルは視聴者数一万二千人、スターライトは一万人と追い上げている。

 地底湖エリアの奥へ進む。湖の水面は静かだが、モンスターの気配が濃い。突然、水面が揺れ、小型のフライング・フィッシュが数匹現れる。水中から現れて空も飛ぶ、謎な魚だ。

 ブロンズ級なら対処可能な相手だろう。


「ミリアちゃん、ファイアボルトで一掃! マナミ、ポーション準備!」

「了解、リオンさん!」


 ミリアがファイアボルトを連発し、炎が水面を照らす。フライング・フィッシュが次々と倒れ、マナミが魔石を回収。


『ミリアちゃん、ファイアボルト連発キター!』

『スターライト、動きバッチリ!』


 空を飛び届かないフライング・フィッシュに対して、ハンドガンを打ち込む。

 バン、バンと発砲音。なんとか一撃で倒すことができた。

 ミリアが連続でファイアボルトを放ち、炎がフライング・フィッシュを焼き払う。次々とモンスターが、倒れて落ちてくる。

 マナミが魔石と透明な翼を回収し、マジック・バッグに放り込む。

 視聴者数が一万一千人に急上昇。


「やったー! ミリアちゃん、ナイスファイアボルト! マナミもバッチリ!」

「リオンさん、銃、めっちゃカッコよかったです! 私、ビビりましたけど……」

「お兄ちゃん、銃撃つ姿、めっちゃバズってるよ! これで人気爆上がり!」


 ダンジョン村に戻り、ギルド亭で休息。戦利品の透明な翼は高額で売却可能だが、ミリアが静かに呟く。


「リオンさん、このエリア、兄がよく潜ってた場所なんですよね……」


 ミリアの言葉に、僕はハッとする。斎木直樹が地底湖に執着した理由。


「兄、よく言ってました。『地底湖には、家族を救うカギがある』って。たぶん、水晶のオーブのことだと思うんです。売れば大金になるから、家の借金を返そうとしてたのかな……」


 マナミが目を丸くする。


「ミリアちゃんのお兄さん、めっちゃ家族思いだったんだね……でも、なんでソロで?」

「兄は、仲間を危険に晒したくなかったんです。改革派のギルド幹部が、マギテック社と組んで危険な任務を押し付けているんじゃないかって兄は疑ってました。だから一人で潜って、真相を確かめようとしてたのかも……」

『ミリアちゃんの話、泣ける……』

『斎木さん、かっこよすぎ!』


 僕は黙って聞く。斎木が改革派の腐敗を暴こうとしていた可能性。

 地底湖の奥に、その証拠があるのかもしれない。


「ミリアちゃん、斎木さんの想い、僕たちで引き継ごう。地底湖の奥、もっと調べてみる?」

「はい、リオンさん。兄のやってたこと、知りたいです」

「お兄ちゃん、ミリアちゃん、絶対真相突き止めるよ! ポーター、がんばる!」


 マナミが串焼きを頬張りながら叫ぶ。

 三人で笑い合い、配信を締めくくる。

 ミリアの兄、直樹の執着。それは家族の貧困と、ギルドの改革派への不信だった。


「みんな、スターライトの冒険、今日もありがとう! 斎木さんの想い、ちゃんと受け止めて、継ぐよ! ミリアちゃんの兄貴の想い、僕たちで届けるから!」

『スターライト、最高!』

『斎木さんの名誉、取り戻せ!』


 一部の心ない冒険者は斎木さんの死を「犬死」と言っていたのを聞いたことがある。

 敵を倒したわけでも、特別な報酬を得たわけでもない死。

 僕たちのようなブロンズ級の一般冒険者を逃がしただけで、何も成していないと。

 そんな馬鹿な、って思ったよ。

 斎木さんの死には何か秘密があるのだ。

 彼があんな緊急クエストをソロで受けた理由が。それから裏の本当の理由。


 僕たちはギルド亭でトカゲ丼を食べながら、次の冒険を誓った……。


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