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第21話 ギルドの亀裂


「はーい、リオンのダンジョン配信、今日も絶好調でスタート! チーム『スターライト』、今日はギルドで情報収集だよー! 斎木さんのミスリウム・ソードの破片を見つけた僕たち、真相に一歩近づいた! みんな、応援よろしくね!」


 ドローンがダンジョン村のギルド亭の賑やかな雰囲気を映し出す。

 木造のカウンターには冒険者たちがトカゲ丼を頬張る。

『スターライト、真相究明ガンバ!』

『リオンちゃんのハンドガン、また見たい!』

『ミリアちゃん、斎木さんの妹としてカッコいい!』

「リオンさん、ギルドの噂、ほんとなんですかね……兄が改革派と対立してたなんて……」


 ミリアが不安そうに呟く。彼女のファイアボルトと剣技は、兄、斎木直樹の影響を受けており、視聴者の人気も急上昇中だ。


「うん、ミリアちゃん。マリコさんの話、気になるよね。マナミ、今日は情報収集も大事だから、メモの準備OK?」

「お兄ちゃん、いつでもバッチリ! ポーションもバッグにガッツリ入ってるよ!」


 マナミがマジック・バッグを叩いてニヤリ。コメントが沸く。


『マナミちゃん、元気すぎw』

『ポーション投げ、期待!』

『今はポーション投げなくていいぞ』

『あはは』

『ww』


 再び冒険者ギルド日本平支部からの通信でマリコさんが声を潜めて話しかけてくる。

 彼女のピンクの髪が揺れ、猫耳がピクっと動く。


「リオンさん、ミリアちゃん、ちょっとこっちで……ギルドの内紛、結構深刻みたいなんです」

「マリコさん、詳しく教えて! 斎木さんが改革派と揉めてたって、どんな話?」

「冒険者ギルドには二つの派閥があるんです。保守派は、冒険者の誇りや自由を重視して、昔ながらのダンジョン探索の精神を守ろうとしてる。一方、改革派はダンジョンを商業化して、マギテック社みたいな大企業と組んで利益を優先してるんです。斎木さんは保守派の急進派で、改革派がマギテックと癒着して危険な任務を押し付けてるって批判してたみたい」


 マリコさんが周りを確認し、小声で続けた。

 ミリアが目を丸くする。


「兄が……そんな大きな問題に? それで、ソロで危険な任務に挑んだってことですか?」

「そう、ミリアちゃん。斎木さんが地底湖に執着してたのも、改革派の闇を暴く証拠を探してたのかも。マリコさん、証拠になりそうな話、もっとある?」


 マリコさんが頷く。


「噂レベルですけど、斎木さんがソロで受けたアース・ドレイクの任務、実は改革派がマギテック社の利益のために仕組んだものだって。マギテックがダンジョン産のレア素材を独占しようとして、保守派の強い冒険者を潰したかったんじゃないかって……」

『マギテック、めっちゃ怪しい!』

『斎木さんの死、陰謀だった!?』


 視聴者コメントがざわつく。

 僕はカメラに向かって声を張る。


「みんな、聞いて! スターライトは斎木さんの想いを継ぐよ! ギルドの腐敗、マギテックの癒着、絶対に暴いてみせる! ミリアちゃん、マナミ、行くよ!」

「はい、リオンさん! 兄の名誉、絶対守ります!」

「お兄ちゃん、私もガンガン応援するよ! 真相、突き止めよう!」


 ミリアが拳を握り、マナミが串焼きを頬張りながら叫ぶ。

 コメントが殺到する。


『スターライト、熱すぎ!』

『斎木さんの名誉、取り戻せ!』


 視聴者数が一万四千人に急上昇し、スパチャもどんどん飛んでくる。

 マリコさんが、さらに情報をくれるようだ。


「あの、ギルドの互助会って入ってますよね?」

「もちろん?」

「互助会、クランのことですけど」

「うん」


 クランとは本来、血盟といって血族同盟のことだ。

 ゲームなんかだと集団を、ギルド、クラン、クラブなどという呼び方をするが、ギルドは公的機関の名称として使われているため、いわゆるユーザーギルドをクランと呼ぶ習慣ができた。

 一般的な会社でいうところだと、メーデーや賃金アップとかやってる労働組合に相当する。


「そのクラン。冒険者同盟、冒険者ワークス、ダンジョン・ユーザー会、の三つに分かれてるのはご存じだと思います」

「そうだね。僕たち、いわゆる鬼軍曹派は、みんな冒険者同盟で、この冒険者同盟が一番古いクランだよね」

「その通りです。新しいほうが冒険者ワークス、そしてその他の余り物が集まった第三勢力がダンジョン・ユーザー会ですが、こちらは自由奔放に個人でやってるだけなので、大した力はありません」

「うんうん」

「冒険者同盟には、向崎深夜、冒険者ギルド庁長官、ルミナスなどが所属していますね。冒険者ワークスには静岡だとシルバー級チーム『ハレルヤ』あとブルーファングもです」

「あー、なんとなく勢力図が見えてきたよ」

「そういうことですね。冒険者同盟が保守派、冒険者ワークスが改革派とつながっているということです」

「ふむ」


 そこへ、サキのブルーファングがギルド亭に入ってくる。

 サキの青い革鎧にはマギテック・アイテムズのロゴが輝いている。そういえば青もマギテック・ブルーといわれるコーポレートカラーだった。これはもともと彼女たちがマギテック製の防具を使っていたからだ。

 しかし、今装備している防具は最新式のアダマンタイト製の高級防具だった。

 彼女の笑顔はいつもより硬い。


「リオン、配信見たよ。斎木さんのこと、めっちゃ熱く語ってたね。でもさ、私、マギテックと契約しちゃったから、ちょっと複雑な気分……」


 サキの言葉に、ミリアがハッと顔を上げる。


「サキさん、そういえば、昨日もそういう話をしてましたね」

「こうなったら、私はマギテック側から、色々情報がないか、探ってみるつもり。大企業が大っぴらにそんなことしないって少しだけ期待もあるけど……望み薄そうだわ」

「ごめん、なんか」

「お金につられて契約したけれど、不謹慎かもだけど、ちょっとスパイみたいで面白いかも」

『サキちゃん、マギテックやばいよ!』

『スターライトと共闘して真相追って!』


 コメントがざわつく。僕はサキの手を握る。

 僕たちは僕たちで、そしてサキさんたちはサキさんたちの論法で、真相に迫ろうとしていた……。


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