今日も今日とて忙しい1日であった。
って毎回言ってんな。
とは言え、今日は久々に日付が変わる前に会社を出る事ができた。
セピアと並んで帰り道を歩いていると、不意に彼女が声をかけてくる。
「先輩、ちょっと時間いいですか?」
「ん? 何?」
「私の上司が近くにいるので、会ってもらいたいと言うか……」
「ああ、天使も上下関係あるんだな。別に構わないけど」
セピアは俺の返事を聞くと、どこかに電話をかけ始めた。
当然、上司を呼んでいるんだろう。
と言うか連絡手段がスマホなのかよ。
先日寄ったファミレスに入ると、空いているボックス席に案内される。
すぐに到着すると言うのでドリンクバーだけ頼むと、コーヒーを入れて一息つく。
セピアはと言うと、またメロンソーダにしたようだ。
グラス一杯に注いで席に戻ると、一気にそれを
まったくもって良い飲みっぷりだ。
セピアが何度、メロンソーダのお代わりに席を立った頃だろうか?
俺たちの席に近づく影があった。
どうやら女性のようだ。
近づいてきた女性は金髪に黒いジャージ姿で右耳にシルバーのピアスをしている。
美人なのに、くたびれたジャージ姿なので色々台無しである。
セピアは顔を上げると、手を挙げてその女性を呼んだ。
ってか丸っきり田舎のヤンキーやんけ。
女性はセピアに手を振って応えると、迷わずに彼女の隣に腰かける。
そして俺の顔をまじまじと見つめて口を開いた。
「初めまして。阿久聖クン。私はバーミリオンと言う。セピアの上位天使だよ」
バーミリオンの言葉に俺は軽い会釈で応える。
彼女は俺の事をしっかりと観察して、その力を推し測っているようだ。
「近くで見ると、本当にすごいね。全身に
「
「ああ、霊体を構成する極小の粒子だよ。我々天使の持つ力とは正反対のものだけどね」
「人間は皆持っているんですか?」
感心する彼女であったがその態度は一貫して変わることはない。
その目は珍しい物を見た時と同じような目だ。
「いや、人間は神に祝福された存在だからね。本来なら
「はい。彼女から聞きました。私の魂に宿っているって」
俺がセピアの方をチラリと見ると、そこに彼女はいなかった。
慌てて店内を見渡すと、コーヒーカップを持ってドリンクバーの方からこちらにやってくるのが見えた。
どうやらバーミリオンのためにドリンクを取りに行っていたようだ。
さすがは、部下である。
どこの世界も上下関係は厳しいらしい。
「今、
「
「ああ、
バーミリオンはセピアが持って来たコーヒーを口にしてほぅっと息を吐く。
そして目を細めるとようやく薄い笑みを浮かべて言った。
「それにしても、このコーヒーって飲み物は実にいいね。苦くて体に悪そうな色がまた良い。コーヒーは人間が発明した至高の飲み物だと思うよ」
ファミレスのドリンクバーのコーヒーをここまで褒めるなんて安上がりな天使様だと内心思いつつ、俺は苦笑いで返す。
「今、
「それは別にいいんですが、私はこれからもあの鬼のような生物に襲われ続けるんでしょうか?」
彼女は俺の言葉に少し考えた素振りを見せた後、納得したかのようにうなずくと話し始めた。
「鬼? ああ、バグたちのことだね。ヤツらは
「ふむ。それじゃあ、私から
俺の言いたい事は伝わっているはずだが、彼女はあくまで平然と言ってのけた。
「
「もし回収できたとしても私の
「……」
やっぱりそうか。
俺の言葉はどうやら核心をついたようだ。
バーミリオンは
セピアもどこか気まずそうに顔を背けている。
「鋭いね。確かに我々がいなくなったらキミは鬼に喰われてしまうだろうね」
「別に死ぬのは構わないんですが、できれば喰われて死ぬのだけは勘弁して欲しいところです」
俺の言葉に彼女はハハッと乾いた笑声を上げると、俺の目をじっと見つめてきた。
反射的に目を逸らしてしまう。
「正論だね。実は、我々天使は人間に力を与えることができるんだ。天使の力を与えられた人間は
あくまで楽観的な様子で何の心配もしていないといった表情をしている。
恐らく人間に興味がないのだろう。
「後は、1人で戦い抜けと?」
「何もないよりはいいだろう?
俺が余程複雑な顔をしていたのか、バーミリオンは明るい口調で付け加える。
「まぁ
バグ殲滅部隊ねぇ……。
以前、セピアが死ぬまで
何故だか少しガッカリしている自分がいて多少驚いた。
「他に何か聞きたいことはあるかい?」
彼女の言葉に俺が腕組みをして考える素振りを見せると、セピアが待ってましたとばかりに口を開いた。
「実は、彼の近くに
ああ、確か今朝、
「ふーん。
まぁ言わないけど。
俺は一応頷くと、彼女に疑問をぶつける。
「
「
バーミリオンがその端整な顔立ちを歪ませて
せっかくの美人が台無しである。
まぁ、ショタショタのジャージを着ている時点で残念美人なんだが。
しかし
俺はただの人間だ。
昔のことなど何も知らないが、彼女の
言葉の端々からそれが感じられる。
それ程までに神と
「鬼の襲撃は何とかならないんでしょうか?」
「セピアにはキミの
バーミリオンの言動は一向に変わる気配がない。
しばらくは天使が俺を護ってくれると。
そして俺の中から
んで後は勝手に頑張れ、と。
「
「漠然とした質問だね。まぁ確かに謎だよね。神の
バーミリオンはさっきから淡々と話し続けているが、その言葉からは
ちょっとイラつくな。
「一応、
そういや前の襲撃の時、セピアが破壊したって言ってたな。
推測するに鬼たちの心臓、つまり
結局、まだまだ分からないことだらけだ。
そろそろ天使だけじゃなく
あまり納得できる話でもなかったが、とりあえず今後の生き方くらいは分かった。
取り敢えずは、俺の中に眠る
この世に未練などはない。
死んだら死んだで、『ああ、その時が来たのだ』と思うことだろうさ。
ケセラセラ、なるようになる。
その後もセピアとバーミリオンととりとめのない話をして今夜の
ファミレスから出ると、彼女はふらりとどこかへと姿を消し、俺はセピアと帰路についたのであった。