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三題噺で恋話
三題噺で恋話
雨宮徹
恋愛現代恋愛
2025年06月16日
公開日
1,161字
連載中
三題噺で恋愛ショートショートを書いていきます。一話完結です。 『タイトル お題三つ』といった形で、エピソードタイトルをつけます。 基本的に、ネットにある三題噺メーカーを使います。 お題をいただければ、それに沿って書ければと思います。この場合、お時間をいただきます。

少しの間の恋 詐欺/呼吸/空腹

 私は空腹で歩くのも辛い状況だった。なにせ二日間、何も食べていないのだから。結婚詐欺にあってお金を失ったのが大きかった。もう、男は誰も信じられない。疲れのせいか呼吸が浅い。早く何かを食べたい。


 そんなふうに思いながら路上を歩いていると、見知らない男性から声をかけられる。


「お姉さん、大丈夫ですか。足元ふらついてますよ?」


 また、男か。男は信用できない生き物だ。こいつも同じに違いない。


「もしかして、飲まず食わずなんですか? もし、良かったらご飯をご馳走しますよ? ほら、あそこにレストランが見えるでしょう。あそこなんて、どうですか?」


 ご飯を奢る? そんな話、あるのだろうか。


「その感じ、信用されてないようですね。なら、せめてこれを受け取ってください」


 男は千円札を渡してくる。


「もし、嫌だったら交番に届ければいいでしょう?」


「あの、あなたの名前は?」


「名前? 中本です。もしかして、気になりますか?」


「そんなわけないわ!」


「まあまあ。そう怒らないで。冗談ですよ、冗談」





 私は中本なる人物からもらったお金でお腹を満たしていた。それにしても変わった人だった。見知らない人を助けるなんて。人格者に違いない。





 私は昨日と同じ道を歩いていた。中本さんにお礼を言うために。あの作業服は近くの工事現場のものだ。ここら辺を歩けば、また会えるかもしれない。その時だった。彼が向こうからやってきたのは。


「中本さん、昨日はありがとうございました」


「良かった。昨日のお金、食事代に使ってくれたんですね!」


「はい。とても助かりました。その……今度は一緒にどうですか? 私、お金は出せないですけど……」


「本当ですか! 嬉しいです」





 それから数週間、私は中本さんと一緒に過ごす時間が長くなった。彼は仕事を斡旋してくれたから、まともな生活ができるようになった。これなら、中本さんにお礼ができる。そう思うと、私は嬉しくてたまらなかった。これが恋か。久しぶりの感覚だった。





 数日後のことだった。中本さんから呼び出されたのは。


「急にごめん。少しお金が必要になったんだ」


「ほんと!? どれくらい必要?」


「十万くらい……」


 それくらいなら、すぐにでも渡せる。その時、ハッと気がついた。これは詐欺師の手法だ。危うくまた騙されるところだった。でも、もしも本心だったら? 私は恩人を見捨てることになる。


「それ、本当? もしかして、騙し取ろうとしてない?」


「そうか、君には僕が詐欺師に見えるんだな。心外だよ。君とはこれっきりだ。他の人にあたるよ」





 中本さんと別れて数日後。たまたま、レストランに入った時だった。中本さんの姿を見つけたのは。彼は見知らない女性と楽しそうに話している。私は嫉妬のあまり、胸が苦しくなった。これが本当の恋か。次の瞬間だった。中本さんが女性にこう言ったのは。


「ねえ、少しお金を貸してよ」

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