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裏切った元夫が泣いて謝ってきたが、もう遅い。私、今は財閥の奥様です
裏切った元夫が泣いて謝ってきたが、もう遅い。私、今は財閥の奥様です
七月
恋愛現代恋愛
2025年06月16日
公開日
4.1万字
連載中
【毎日10時に更新します。】 「あなたを愛したことが、人生最大の過ちだった――」 宮崎家の令嬢・宮崎麻奈は、星野侑二にすべてを捧げた。彼には忘れがたい初恋・小林ひるみがあると知っていながらも。 いつか自分が彼の氷壁を溶かす日が来るだろうと信じて… けれどその愛の果てに待っていたのは、誤解、監禁、牢獄という地獄の日々だった。 四年後、ようやく刑務所を出た麻奈は星野への愛から目覚めた。 散々裏切られ、踏みにじられた彼女は、決意する。 「この子だけは、絶対に守ってみせる。 私はこの子と一緒に新しい生活へ!」 お腹の命とともに、星野家からの脱出を図る麻奈。 だがその裏で、侑二もまた重大な"真実"に気づいてしまう―― 「麻奈が浮気なんてしていなかった……それは、俺の子……?」 (本作に出てきた地名や会社名、キャラなどはすべて架空でございます。)

第1話:地獄


痛い——

胸を引き裂かれるような激痛が、私の身体を貫いた。


冷たいアスファルトの上で身を丸め、太ももから流れ続ける鮮血を眺めながら、私は夫・星野侑二ほしのゆうじのズボンの裾を掴み、すすり泣きながら懇願した。


「私が悪かった……全部私のせい……お願い、赤ちゃんを……助けて……!」


星野侑二は、まるで死人を見るような目で、私の大きく膨らんだお腹を見下ろした。


「お前がひるみを誘拐させて、あいつに酷いことをしたとき……彼女に生きる道を残してやろうなんて思ったか?」


小林ひるみ——星野侑二にとっての“初恋”であり、忘れがたい女だった。

三日前、彼女は何者かに誘拐され、凌辱された末に、自ら命を絶った。


だが、どれだけ侑二を愛していたとしても、どれほどひるみを憎んでいたとしても、そんな狂気の沙汰を私は決してやっていない。

……なのに、侑二は私を信じてくれなかった。


再び激痛が襲いかかる。


私は、必死に叫んだ。

「……お腹の子だけは……助けてくれるなら……離婚する……それでいいから……!」


星野侑二はしゃがみ込み、私の顎を力任せに掴んだ。


「離婚すれば、ひるみの命が戻ってくるとでも思ってるのか?」


私は腹を守るように抱え込みながら、叫んだ。


「一体……どうしたいのよ……!」


「血で償え」と耳元で囁くその声は、まるで地獄から来た悪魔のささやきのようだった。


ゾッとする寒気が背中を走った。


「何を……する気なの……?」


返事の代わりに、侑二は私を突き飛ばし、後ろに手を振った。

冷酷そうな二人の男が近づいてくる。


「南区刑務所に連れて行け。」


——南区刑務所。

変質者や殺人鬼が集められる、まさに“地獄”の場所。


「やめてっ!!私を刑務所に入れないで!」

悲鳴をあげた私に、侑二は氷のような声で告げた。


「できるさ。俺は星野家の当主だからな。」


絶望が私を飲み込む。


それでも私は、最後の希望に縋るように叫んだ。

「お願い……子には罪はない……産ませてさえくれれば、あとは……十年でも二十年でも……牢に入るから……!」


だが、侑二は冷酷に微笑んだ。

「お前も、その腹のガキも……一緒に地獄を味わえ。」


―――


星野侑二の手は、あまりに強大だった。

たった一時間で、私は彼の手下によって、南区刑務所に連行された。


下半身から流れる血の量がどんどん増していく。

私はお腹を撫でながら、声を震わせて囁いた。


「怖がらないで……ママが、絶対守るからね……」


そのとき——

鉄の扉が、ぎぃ、と音を立てて開いた。


数人の女囚が、いやらしい笑みを浮かべながら私の方へ歩み寄り、ぐるりと私を囲んだ。


「……何をする気!?」

私は必死に威嚇しながら叫ぶ。


「私は星野家の……正妻よ!下手なことをすれば……ただじゃ済まないわよ……!」


リーダー格の女囚が冷笑を浮かべ、私の髪を鷲掴みにして言った。


「社長さん直々のご命令よ。お前と、その腹のガキに……“おもてなし”しろってさ。」


そう言うが早いか、女囚のひとりが私の頭を床に叩きつけた。


目の前が真っ白になる。

他の女囚たちが襲いかかり、私は無我夢中で腹をかばう。


私の大事な、大事な赤ちゃん……

何があっても、守らなきゃいけないのに——!


けれど、彼女たちは腹めがけて、容赦なく蹴りを叩き込んできた。


痛い——

どんどん、痛みが酷くなっていく。

意識が遠のく中で、私は幻を見る。


十年前の星野侑二——

火の海から私を抱き上げ、「麻奈、大丈夫だ。俺が助けに来た」と、優しく囁いてくれた侑二を……


だが、その幻はすぐに、赤黒い現実に打ち砕かれた。


私は感じた。

何かが、大腿からすべり出た。


私と侑二の、赤ちゃんだった。


三ヶ月、心から待ち望んだ命。

その小さな体は赤色に染まり、泣き声も、呼吸の気配もない。


私は崩れ落ち、我が子を胸に抱きしめて、号泣した。


「ごめんね……ごめんね……」


……守れなかった。

ママが……守ってあげられなかったの……!


―――


私は宮崎家の箱入り娘・宮崎麻奈みやざきまなだった。

両親にも、兄にも、大切に育てられ、苦労など知らずに生きてきた。


すべては、星野侑二を愛してしまったせい。


本来なら——

事故で下半身不随になり、後継者の座を追われた侑二を、最初に見捨てたのは小林ひるみだった。

あのとき冷酷に彼を捨てて、海外留学に行ったのは彼女の方だった。


それでも私は傍にいた。

彼を支え、励まし、星野家の力を取り戻すため、両親に土下座してまで助けを求めた。


そして彼は、私にプロポーズした。

私は思った——ついに彼の心を溶かしたんだ、と。


だが、小林ひるみが帰国したとたん、すべてが変わった。


彼女が階段から落ちたとき、私が突き落としたと彼は信じた。

ストーカー被害も、交通事故も、すべて私の仕業だと……!


そして今、彼女の死までも、私のせいにされている——


夫に裏切られ、我が子を失い、私は地獄に堕とされた。


―――


四年後。


南区刑務所の鉄の扉が開く。

私は片足を引きずりながら、ようやく外へと出た。


服は出産前のマタニティドレスのまま、身体に合わずだらしなく垂れ下がっている。


そのとき——

見慣れた黒いマイバッハが目に入った。


星野侑二の車だった。


あのとき、私をこの車で刑務所へと突き落とした、その車。


車のドアが開く。

後部座席には、帝王のようなオーラをまとった男。


四年という歳月は、彼をさらに冷酷で、威圧的に仕上げていた。


私はその視線から逃げるように、うつむき、そっと後ずさった。


「……やっと出てきたな。」


冷え切った声が響く。


あの日、小林ひるみ誘拐事件の証拠がなかったからこそ、私は今ここに立っていられる。

けれど、あの牢獄で囁かれ続けた「社長からのご命令」という言葉を思い出すたび、体が震える。


「……そうね。出てきたわ……」


声を震わせながら答えた瞬間、侑二が車から降り、無言で近づいてきた。


その視線が私の足元を捉える。


「出てきたばかりで、もう同情を買う芝居か?」


彼の冷笑が胸に突き刺さる。


この足は、収監から三ヶ月目に折られた。

治りかけるたびに、また女囚たちが繰り返し折りに来る——

何度も、何度も……


だから、もう、治らなかった。


でも、侑二はきっと信じていない。

私が哀れみを引こうとしていると思ってる。


私は無意識に、痺れた足を掴んだ。


「……星野侑二。これからは、もう関わらないで。」


震える声でそう言って、逃げるように彼の傍をすり抜けようとしたその瞬間——


「……宮崎グループは、もう破産した。」

星野侑二が私の腕を掴み、冷たくささやいた。


「お前の両親は、借金に耐えきれず飛び降りた。兄は……借金取りに殺され、遺体すら見つからなかったそうだ。」


——私は、すべてを……失った。

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