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偵察要員

……………………


 ──偵察要員



 俺たちは音もなくカルテルのパロトールに接近。


「3カウントでやるぞ」


「了解」


 俺はショットガンを、湊はアサルトライフルを構えて狙いを定める。


 3秒のカウントののちに俺と湊は同時に発砲。


「何が────」


 カルテルのパトロールの頭が爆ぜ、敵の動きが一瞬止まった。そこにさらに俺と湊は銃弾を叩き込む。


 それによって連中は血に沈んだ。


「クリア」


「クリア。先を急ごう」


 湊が生きた人間がいないことを確認し、それから俺たちは前進を再開。


 湊が常にポイントマンとして索敵を行い、俺は暗視装置NVDを使用して地形を把握しながら進む。


 ここら辺には何度も枯葉剤が散布されたが、それでもダンジョンの植物は茂り続けている。俺の肩のあたりまで伸びた茂みの中を俺たちは身を低くして進み、友軍との通信可能範囲を目指した。


「そろそろ友軍との秘匿通信が可能な範囲だ」


「通信を試してみる」


 湊にそう言われ、俺は友軍との通信を試みる。


「こちら、ハングドマン・ワン。レイヴン・ワン、聞こえるか?」


『こちらレイヴン・ワン。助けに来てくれたのか、ハングドマン?』


「イエス。そっちの撤退を支援しに来た」


『ありがたい。救いの女神だ』


 偵察要員──レイヴン・ユニットからの通信には安堵の空気が感じられた。


「そちらの状況は?」


『そこら中にカルテルの連中がいて動けない。こっちは正面からの戦闘を想定していない装備で来ちまっている。そっちはどうだ?』


「正面突破も可能。必要ならば陽動を行う」


『では、陽動を頼む。手ごろな位置にカルテルの弾薬を乗せたトラックがあるから、それを爆破してもらえば大騒ぎになるはずだ。こちらは狙撃で援護する』


「了解。こちらでも車両を確認する」


 レイヴン・ユニットは狙撃手と観測手からなる部隊だ。正面突破は難しいが、援護してくれるならば頼りになる部隊である。


「湊。俺は陽動に当たるからお前はレイヴン・ユニットを脱出させてくれ」


「あいよ。気を付けろよ」


「ああ。もちろんだ」


 俺と湊は別行動を取るが、湊の生体電気による索敵とドローンからの映像は受け取り続ける。湊がいれば敵は丸裸になったも同然だ。


 俺は茂みを全く音を立てずに進む。


 俺がいる場所の右手には丘が見え、そこにレイヴン・ユニットが取り残されている。そしてやつらの報告通りに、丘の周辺にはカルテルの兵隊がかなりの規模で展開しており、逃げ出す道はなさそうだった。


「オーケー、オーケー。慎重にやろう」


 俺は慎重に前進し、カルテルの弾薬を乗せたトラックを目指す。


 カルテルの兵隊は数は多いが、質はそこまでじゃない。油断したカルテルの兵隊たちは、隙を見せ、さらには十分に衆を見張れておらず死角が生じていた。


 俺がノーアラートでトラックに到達するまではすぐのことだった。


『佐世保。トラックの傍に敵の歩哨2名。警戒しろ』


「了解」


 俺はトラックの傍で作業をしている2名の男に近づく。


 そしてショットガンをスリングで下げ、サプレッサーを装着した自動拳銃を抜く。それから45口径の亜音速弾を使用するそれで2名の頭を連続してぶち抜いた。男たちは音もなく崩れ落ち、敵の脅威はなくなった。


 俺は死体を引きずって茂みの中に隠してからトラックに接近。


「間違いない。弾薬を満載しているな」


 トラックの荷台には迫撃砲弾などの弾薬がどっさり。


 俺はそこに爆薬を仕掛けていく。時限信管で起爆できるようにセットした爆薬を迫撃砲弾の傍にセットし、信管のカウントダウンが始まったと同時に退避を開始。


『佐世保。敵のパトロールがそちらに向かっているのを確認した。数が4名』


「了解。対処する」


 爆薬の起爆までは30秒。それまでに可能な限り遠くに逃げなければ。


 俺は再びショットガンを構えて、茂みの中を前進していく。


『こちらレイヴン・ワン。狙撃による掩護可能。片付ける目標を指示してくれ』


「助かる。ODINで目標を指示する」


 ODINは公社の利用する戦術ネットワークシステムだ。


 部隊間の通信から戦況の共有、共同交戦能力まで機能満載。


 こいつで俺は目の前を進むカルテルのパトロールをマークし、仕留めてもらう目標をレイヴン・ユニットに向けて送信した。


『オーケー。指示を確認した。3カウントで仕留める』


 レイヴン・ユニットの狙撃手はそう請け負い、俺は狙撃手が仕留めるもの以外の目標を始末する準備に掛かる。


 3秒のカウントのち────。


 バンッとカルテルの兵隊の頭がはじけ飛んだ。口径12.7ミリの大口径ライフル弾による狙撃で、まるで頭が消滅したかのように弾けた。


 同時に俺は他のカルテルの兵隊をショットガンで銃撃。頭が弾けた兵隊のすぐ後ろで、ペレットによって暴力的に人体が破壊される。血の霧と化す。


「敵襲──」


 すぐさま次の狙撃で敵が吹き飛ぶ。さらに俺の銃撃によって敵はミンチに。


「クリア。前進再開」


 爆破まであと10秒足らず。


 俺は身を低くして茂みに隠れながら、遠くへ、遠くへと離れる。


 そして、爆弾が起爆した。


 ずうんと重たい爆発音が響き、臓腑が揺さぶられる。トラックがあった場所には煙と炎が上がっており、見える限りのカルテルの兵隊は混乱している。


『佐世保。こっちは友軍の撤退にはいる。車両の場所で合流だ』


「了解」


 カルテルの兵隊は爆破されたトラックの方に注意が向いている。その間に湊がレイヴン・ユニットを回収し、俺たちは車両の場所まで撤退する。


 俺は痕跡を残さなかったので、カルテルの兵隊が追いかけてくることもなく、俺は湊たちより先に車両の位置まで撤退成功。


「させぼ! だいじょうぶ?」


「俺は平気だ。問題ない」


 マオが顔を出して心配するのに俺はそう短く返した。俺はまだマオに心を許したわけではない。こいつは今でも他のクリーチャーと同じ存在だ。


「みなとは?」


「仲間を迎えにいった。そろそろ戻ってくるはずだ」


 そういう話をしていたときに湊が茂みから姿を見せた。


「友軍は無事か?」


「ああ。怪我もしていない」


 レイヴン・ユニットは周囲の地形に溶け込むためにギリースーツを装備しており、その独特の姿を目にしたマオは目を丸くしている。


「佐世保、湊。助かったよ。あのままカルテルと戦闘になっていれば、俺たちは死んでいたかもしれない」


「気にするな。助け、助けられが戦友ってものだ」


 レイヴン・ユニットの大口径狙撃銃を握った方が礼を述べるのに、俺はそういって肩をすくめて返し、車両に乗るように促した。


「とりあえずお前たちを南部の合流地点に送る。そこからは友軍のパワード・リフト機で撤退してくれ。いいな?」


「ああ。了解している。無事に送り届けてくれ、ブギーマン」


「ブギーマンはやめろ」


 俺はじろりとレイヴン・ユニットの狙撃手を睨むと、装甲車の運転席に乗った。


 それから車両は撤退を始める。


 南部に向けて。


……………………

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