パチスロの大当たりみたいなド派手な効果音がまた流れた。画面に今度は『ティンケルゲット』のテロップと共に牛乳瓶みたいなボトルが表示された。
「ティンケルゲットだぜ!」
俺がそう言うと同時にボトルが画面から飛び出してきたので、慌てて掴んだ。
《これを全部飲んだら帰れるぞ。おめでとう》
「ああ……」
4日間の激闘を思い起こすと、感慨深い。
ヘンタイ・ダンジョンでは、これまで飢えも渇きも感じなかったため、飲み食い一切しなかった。だが、ボトルを手にしてからやたら喉が渇いてきた。
《お前さんのライフレベルがLv 800を超えたので、地上の身体に近くなってきた証拠じゃ。ティンケルを早く飲んで地上に帰らないと、飢えと渇きで死んでしまうぞ》
「えっ?! そうなのか?!」
いざ地上の世界への帰還が近づくと、俺は何だかヘンタイ・ダンジョンが名残惜しくなっていた。地上でも望む人にしかコートの中身を見せていなかったが、たまに間違いはあるし、目の敵にする人間もいるので、肩身が狭かったのだ。
でもヘンタイ・ダンジョンでは、思いきり巨砲を振り回せるし、ちくびームもできるし、ふぐりン&たまリンで精力回復するチャンスもある。何より、俺がコート開
だけど、喉の渇きが限界まできて俺はむせた。喉を潤したくてティンケルのボトルの蓋を開けると、途端にムワッと青臭い匂いが鼻を突いた。右手が恋人の俺にはお馴染みの匂いだ。
「え?! これを飲めってか? 冗談だろ?」
《ホッホッホッホ! 自分のと思えば何とかなるじゃろう? 飲めばすぐに地上に帰られるぞ》
「ざけんな!」
《それじゃあ、飢えと渇きに悩まされながら、もう1、2匹ヘンタイ・モンスターを明日中に昇天させなきゃいかんな》
「おのれぇ~」
《でっきるっかな、でっきるっかな? ヘンタイ、フム~♪》
「いたいけな子供達の夢を壊すような替え歌を歌うんじゃない!」
《お前の存在自体が子供達に見せちゃいけないじゃろ?》
「そ、そんなことは……ゴホ、ゴホ、ゴホ……」
俺の喉はサハラ沙漠並みに渇いていてもう限界だ。俺は鼻をつまんで生臭い汁を一気に飲み込んだ。最後の一滴が喉を通って胃の中に落ちていった途端、ぱぁーっと俺の身体が輝いた。
《おめでとう! 地上でもヘンタイ道を全うしてくれ》
「ああ、ありがとう」
エア爺さんとは喧嘩ばかりしたが、彼がいなければほぼ真っ暗なヘンタイ・ダンジョンで孤独過ぎて絶望していたかもしれない。そう思うと、彼に感謝の気持ちが生まれてきた。
俺の身体は、ほぼ透明になって輝き、ふわーっと上昇していった。最後にエア爺さんのしわがれ声が辛うじて聞こえてきたが、全部は聞き取れなかった。
《尋ね人は……》
「何だ?」
聞き返した俺の声はもうエア爺さんに届かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あんちゃんの持ち物、めちゃ立派やな」
「こんなにデカいの、見たことないな。お前ら、自信なくなるやろ?」
「うっせー、余計なお世話だ!」
「でもこの乳首のピアスは何や? 変態か?」
何か周りが騒がしい。
「んんん……うるさいなぁ」
俺が目を開けると、俺よりも一回りも二回りも年上のおっちゃん達が手ぬぐいで腰を隠しただけの状態で俺を見下ろしていた。もちろん、おっちゃん達の手ぬぐいのもっこり度は俺よりも大分控えめだ。
「お?! あんちゃん、気が付いたか?」
「気が付いたら、ちょっと前隠しぃや」
「え? ここ、どこ?」
俺にとっては前を隠すよりも状況判断のほうが大切だ。
「
「ヘンタイ戸銭湯?」
「いや、違う!
そんなやり取りを数回してやっと俺のいる場所が昔行ったことのある銭湯だと分かった。俺は湯あたりして脱衣場で気絶し、床の上に直接伸びていたらしい。
でもその割にはトレンチコートを羽織っていたのが奇妙だ。コートの前ははだけたままで巨砲がこんにちはしていたが、俺の巨砲を隠蔽しようとしておっさん達がヘタに触らなくてよかった。
俺は立ち上がり、トレンチコートの前を閉じてそのまま脱衣場を出ようとした。
「おいおい、コートの下は何も着いへんのか?」
「ああ、男のロマンや!」
銭湯から出ると、俺は誰かにぶつかった。同じくトレンチコートを着ている。もしかしたら仲間かもしれないと思って顔を見ると、ヘンタイ・ダンジョンで最後に遭遇したビジネスウーマン風美女のヘンタイ・モンスターとそっくりだった。
「あっ、すみません……え?! お会いしたことありますよね?」
あまりの嬉しさに下手なナンパでも言わないような台詞が出て来てしまった。
「俺、
「ヘンタイ・ソウロウさん?」
やべえ、怪しまれている! しかも俺の苗字と名前の区切りを勘違いしてる。そう言えば、ダンジョンでは彼女に名乗らなかった! 何と言う失態!
「あの、ほら、ちくびーム……」
俺は、コートの前を開
「ああ、あの! 本当に会えた! 嬉しい!」
「うぉっ!……ううっ!」
彼女は、コートの前をはだけたまま、俺にいきなり抱き着いてきた。柔肌が直に感じられ、俺の巨砲はすぐに限界が来て彼女にぶっぱなしてしまった。
「ご、ごめん!」
「大丈夫、気にしないで。それより私の方こそ、ヘンタイ・ダンジョンで大事な所を叩いてしまってごめんなさい」
彼女はすごく優しくて美人でボンキュッボンで、俺は大感激した。それに何より、ヘンタイ好きなのが最高だ。
それから俺達は、銭湯の前から近くの公園へ移動し、語り合った。
「私、名乗ってなかったですね。
「騎乗位チコさん?」
「いえ、騎乗が苗字で、位置子が名前です」
「すみません、俺の名前みたいに間違って区切っちゃいました」
話を聞けば、位置子さんもマンホールからあのヘンタイ・ダンジョンに落ちたそうだ。ダンジョンにいる間は、お婆さんの声に励まされてヘンタイ・モンスターと戦っていた。俺に遭遇してヘンタイ・モンスター扱いされて昇天したと思ったら、彼女も変帝都銭湯の女湯の脱衣場でコートの下がマッパで倒れていたそうだ。
「なんだよ、あの爺さん、生きてる人間は今のダンジョンでは俺だけだって言ってたのに騙したな」
「でも変田さんに出会えてよかった。だから、あとは気にしません」
彼女の微笑みだけでイけそうだ。
「あの、俺と……」
「あの、私と……」
同時に話し出して俺達は吹き出した。
「変田さん、お先にどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……お、俺と付き合ってください!」
「ええ、喜んで! 私もそう言おうとしていたんですよ。これから毎日、見せ合いっこして楽しく付き合いましょうね」
彼女がまたコートを開いてボンキュッボンを見せてくれたので、俺の巨砲はまた昇天してしまった。
俺は年齢=彼女なしの記録をストップし、まもなくD貞も卒業した。
愛だけじゃなくて趣味も充実した毎日を俺達は送っている。そう、俺はリア充になったのだ!
HenTubeに2人で『見せ合いっこ』というチャンネルも作って日々、動画を投稿している。HenTubeには時々、ヘンタイ・ダンジョンからのライブ配信もあり、俺達はもちろんいつも視聴して時にはスパチャを献上している。
ヘンタイ・ダンジョンに落ちた時はどうなるかと思ったけど、俺の趣味を理解して見せ合いっこもできる彼女ができて俺は幸せだー!! いいだろ?