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希望の魔女



 あーだこーだしながら駄弁ってたら、軍服のかっこいいおにーさんがたに到着した。たぶん一等魔法少女や士官魔女のお付きの方々だ。その中でもひときわ目を引くブロンド髪のイケメンがあたしを見つけるやいなやぱあっと笑顔になってやってきた。殺す気か。


「お姉さま。セイカさまは」


 冗談みたいにかしずくイケメン、もといセイカのお付きのなんとかさん。えーっと、名前なんだっけ?


「お部屋で寝てる。あたしが代理。らしいっす」


 トロイ大佐の顔色をうかがいながらお答えする。うむ、ご満悦である。ご満悦じゃねえよ。


「お休みになられて……、セイカさまが」


 お顔をあげてイケメンがあたしを見た。あたしを見て、そのお隣のトロイ大佐を見る。たぶん察したのだろう。


「では、ぼくはセイカさまに付いております。お姉さま、またのちほど」


 挨拶もそこそこに行ってしまった。のちほどってなんやねん。のちほどお会いする予定も理由もないんだが。


「修復の魔法少女は呼んどいたぞー」


 と、トロイ大佐は叫んだ。そもそもが誰のせいやねんって話だ。




        *




 んで、軍服イケメンたちをかきわけてお部屋に入ります。いまさらだけどやっぱかったるいわ。だいたいあたしが参加してどうするんだよ。トロイ大佐はイモアレンジの話しかしねえって言ってたけど、そもそもあたしイモ好きくねえし。


「よー、お待たせ。イモ」


 開口一番でイモの話を始めるトロイ大佐。冗談じゃなくってこの人イモ好きなんだろうな。


「お、おイモです」


 アイちゃん大先輩がなんか勘違いしてそう言った。この人もこの人で緊張してんだな。ん、つまりあたしも緊張してんのか?


「すんません代理で来ました。イモ」


 仕方ねえからイモ言っておく。なんだよこれ。


 お部屋に入ると他の四名は揃い踏みだった。トロイ大佐がハチャメチャしてたからだきっと。


「おーセイカ姉じゃん。妹よりはおもしれーんだよなこいつ」


 だいたいみなさん物静かなんだけど唯一うるさい希望の魔女が飛んできた。来んな、めんどうくせえ。


「どもっす、ノゾミさん」


 でもあたしはいい子だからめんどうな奴ともそれなりにお付き合いするぞ。お相手は上官なのでいちおう敬礼もしといた。ゆるゆるだけど。


「えー、いーよいーよ堅苦しい。同い年なんだし」


「じゃあ最近のうまいイモアレンジについてなんか意見ありますか?」


「イモ? 青田刈りの話か?」


 素できょとんとされた。そりゃそうだ。青田刈りはそりゃそうじゃねえけど。


「聞いてくださいよ。このアホ、セイカのお部屋で屁ぇこきやがったんですよ。それでこのざまさ」


「おい、誰がアホだってんだ」


「すんません聞こえてないと思って」


「聞こえてなきゃなに言ってもいいってのか?」


「聞こえてなきゃなに言ってもいいでしょう」


「まあそうだな」


 あっさりとトロイ大佐は折れた。やったぜ。


「でも聞こえてたからアウトだな」


 ポキポキと拳を鳴らしてトロイ大佐が迫ってくる。きゃーたすけてー。あたしはノゾミちゃんのうしろに回り込んで隠れた。


「もートロイはあいかわらずだなー。なんにでもいちいち怒ってたらストレスたまっちゃうぞー。たのしーく。やさしーく」


 きゅるるんってとびきりの笑顔でノゾミちゃんは言った。この人はほんとうにかわいいな。アイちゃん大先輩みたいにかわいらしいんじゃなくって、かわいいんだ。学校のアイドルみたいな感じ。


「心配すんな。おれは楽しいし、それに優しいんだ。一発かまして、それでチャラにしてやんよ」


 楽しそうで怖そうな笑顔でトロイ大佐は言った。すこしは慣れた気になってたけど、やっぱこの人はふつうに怖えや。実害を及ぼすって意味じゃたぶん魔女軍で最悪の女だし。まさしく学校一の不良生徒。


「一発で」


「では定刻よ。お座りなさい。お二人とも」


 まだなんかノゾミちゃんが言いかけてたけど、どうもお時間がきたっぽい。日本国魔女軍のエンブレムをうしろに背負った上座の魔法少女が声を張る。ほんと『張る』って感じだ。弓に弦を張るみたいな。楽器に弦を張るのとは絶対に違う。ほのぼのした小競り合いなんか一発で払い除ける、厳格に澄んだ一声。


「それではこれより、二〇四〇年三月度のお七席会議を執り行います」


 全員が笑いをこらえた。じゃなくって、破壊の魔女以外がちゃんと笑いを抑えた。ごめん、あたしもちょっと噴き出した。みんなは慣れてるかもしれないけどあたしはそうでもないんだって。


 この、ちょっとなにかを勘違いしている平和の魔女さまは、『お』をつければなんでも丁寧になると思っていらっしゃるのだ。気苦労も多いんだろう。だって、いくら肩書上少将やら大佐やらって方々でも、実権はないからな。名ばかりの階級。だけどこの平和の魔女さまだけは違う。


 日本国魔女軍の現場最高責任官。有事の際には魔女軍全軍を自らの責任と意思で自由に動かせる権限をお持ちのマジモンの権力者である。


「なーなー」


 お隣の席で希望の魔女がなんか腑に落ちねえって声で囁いてきた。


「一発じゃ満足できなくねー?」


 この魔女もなんか頭のネジ飛んでるんだよな。


「お黙りなさいこの淫乱が!」


 あたしは平和の魔法少女さまを指さして平和の魔法少女さまみたいな口調で叱ってみた。


「いやあそれほどでも」


 希望の魔女が照れた。褒めてねえ。







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