町の外れにある、小さな図書館の中庭。
春の陽射しが優しく差し込む中、ひとりの男の子がベンチに座って本を読んでいた。
静かで、落ち着いた雰囲気のその子は、読みかけの本を抱えたままページをめくるのに夢中になっていた。
そこへ、足音が近づいてくる。
金髪でいたずらっぽい瞳をした男の子だ。
仕立てのいい洋服はすっかり泥だらけで彼のやんちゃぶりを示している。
「……ねえ、君、なに読んでるの?」
突然の言葉に、テア驚いては顔を上げた。
「あ……これは、おとぎ話の本。昔の天使と悪魔の話なんだ」
「ふーん。君、天使みたいな顔してるもんね」
「えっ……?」
「ぼくはセラ!セラフィムって言うんだ!」
元気よく胸を張るその子の笑顔に、テアは「君のほうこそ天使だ」と思った。
どこかで見たことがあるような、でも思い出せない……会ったばかりなのに安心できる、不思議な感じ。
「……セラ……?」
「うん。セラ!君の名前は?」
「……テア」
「ふーん、テアね。テアは何歳?」
「明日で7歳なんだ。君は?」
「僕は今日で7歳。じゃあ僕は一日だけ君よりお兄さんだ!」
「本当だね!誕生日おめでとう」
テアは満面の笑みでセラフィムの誕生日を祝った。
そんなテアに、セラフィムは一歩近づいて、真剣な顔でこう言った。
「決めた!ぼく、大きくなったらテアと結婚する!」
「……は!?」
テアの目がぱちくりと瞬く。
「え、えっと……なんで……?僕男の子だよ?」
「関係ないよ!だって、テアと一緒にいるって決めたんだもん。テアは前から知ってたみたいに、ほっとするっていうか……ふわって、なる!」
セラは言葉に詰まりながらも、懸命に気持ちを伝えようとしていた。
「ぼく、テアとずっと一緒にいたいの。今日だけじゃなくて、明日も、明後日もずっと!」
テアは呆然としたままセラを見つめていたが、やがてふっと微笑んだ。
「……いいよ。じゃあ、約束忘れないで」
「うん!忘れない」
セラは小さな手を差し出して、テアの小指とからめる。
「ゆびきりげんまん、うそついたら──」
「針千本飲ます!……だよね?」
ふたりの声が重なる。笑い合いながら、セラはテアの隣にちょこんと座った。
──ふたりはまだ幼く、記憶もない。
けれど確かな魂の繋がりを感じていた。
この出会いが、また始まりになる。
前世でも、来世でも、どんな時代でも──
ふたりはきっと、また出会うのだ。