≪周りからしてもあからさまに異質な白い髪、青い目の少女が雑踏の中に一人≫
何を祝っているかは定かでない華やかなパレードの中
人の波に押し潰されそうになっている
「む...」
男が後ろから話しかけてくる
男「アンドロイドのお嬢ちゃん、悪いけどここ人間用のスペースだよ」
「あ...ごめんなさい、この町初めてで...」
人の間を縫うように走って駅に向かう
「新聞一つください」
新聞屋「あいよ」
≪超人現る...原因不明...自警団暴徒化...標的は亜人...≫
(やっぱり街中は厳しいか)
こうして暗く水浸しのマンホールの中に侵入した
「...」
咄嗟に服の臭いを嗅ぐ
(この臭い...落ちるかな...また人に関わることがあれば差し障るし)
通電していないケーブが見える辿って通電しているケーブルを見つけられれば目的の建物が分かるかもしれない
それから数時間は迷路のような古く湿ったレンガ造りの下水道を歩き回った
そんな時、出合頭に浮浪者の集団に遭遇して先頭の男と目が合った
「うわ」
更に5~6人の人間が後ろにいるようだ
浮浪者「ん~」
浮浪者「はあ、こんなところにアンドロイドか...」
「あわわ、私を分解しても高くは売れないですよ」
浮浪者「アリ一匹殺しただけで何が起きるか分からないのに、そんなことできるかよ!」
「あそうなんですね、よかったです、ところで私迷ってしまっててここの地下道の地図とか持ってません?」
浮浪者「持ってはいるがタダってわけにはいかねえぞ」
「分かった、えーとでも先に行っとくけど私そういう機能ついてないからね?」
浮浪者「ああ、勘弁してくれよ」
「いや冗談です、あっじゃあまずこれ使える?」
袖から紙幣を取り出して見せる
浮浪者「あー外の紙幣な、上がアレだから紙切れだよ」
交渉は淡々と続き
最終的に食料缶10個と交換した
浮浪者「よしよし、それじゃお互いせいぜい長生きしような、お前ら!帰るぞ」
「じゃ~」
浮浪者達が柱の陰に隠れていた仲間達と共に溶暗の中に消えていったのを見た後、また歩き出した
(ここが目的の建物の真下ね)
他とは明らかに作りが違う、広大なコンクリート造りの空間が目の前に広がる
目測で天井にボルトを打ち込んでワイヤーカッターで少しずつ切り開いていく
照明の光が見えてきた、金庫室のようだ
「ん」
乱痴気なガラクタの中からおもむろに
古びた真空管のようなものを手に取る
(多分目的の物はこれなんだとは思うけど...本気で握っても壊れない)
金庫の扉を蹴り破って外に出る
「最初からこうできてれば楽だったんだけど」
(さてここは)
吹き抜けのある洋館のような広間を見渡すと音を聞きつけて誰かが来た
「なんだお前は!」
新聞と見比べる
「うん、市長さんだね」
(ちゃんと下見しててよかった)
壁を蹴って2階に上がり背を向けて逃げようとする市長を捕まえて質問する
「これ、何か分かる?」
市長「こ 古代の機械の部品か何かだろ?」
「知らないんだ、これは電脳管、私達の脳だよ」
これが私達が21グラムのブリキの棺桶と言われる由縁
実際にAIの開発に失敗していて複製された人格がこの空の容器に入ってるなんて誰が信じるだろう
「それがどうした!」
「壊れないんだけど、何か仕掛けとかした?」
「まあ時間がないから、脳に直接聞くね」
「待て待て!書斎の金庫に小さな金属板がある、それと何か関係があると聞いている」
拘束を解いて立ち上がる
「なるほ」
≪ぺキ≫
奇妙な格好の集団A「そこまでだ、化け物」
衝撃で吹き飛ばされ周辺が吹き飛び壁を数枚突き抜けた
(どっちが...腕で逸らしていなかったら、胴体が二つに分かれてた)
腕だけを動かしてして銃の照準を定める
彼らの弱点は、武器への警戒心の薄さ
奇妙な格好の集団B「おい、コイツまだ動くぞ!」
冷たい静寂を乾いた銃声が切り裂く
糸が切れたように中央の二人が倒れた
(硬いとは言っても生理機能は人間と同じ、薬品で失神はさせられる)
体勢が崩れたのを伺いすかさず足元の電線を掴んで走る
「ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね」
相手の目に電線を押し当てると、石像のように硬直して固まって倒れる、原理は私の装甲と同じ
ただ原子の完全制御には私たちみたいな処理力がないと、こうしたちょっとした負荷で制御ができなくなる
(ここはいくら強化されても所詮人間、ね)
「これで残るは一人」
血と油が装甲の隙間から溢れてくる
(ここまで約2秒短時間とはいっても高速移動のGに耐えきれずに体は限界、あと数発殴られたら確実に機能停止する)
最後の一人を見て銃に手をかける
「流石にもう余裕ないし、見逃してくれない?」
奇妙な格好の集団C「ヒッ」
そそくさと飛んで最後の一人は逃げようとしたところを
後ろから銃で無力化した
奇妙な格好の集団A「まだだッ」
「まだ動くの!?」
腕で止めて煙幕を焚いて飛び上がり一階床に着地する
「わっ」
着地の衝撃で勢い良く脚から飛んだ部品を手で捕まえた
(最悪、パワーアシストが壊れた)
人の物とは思えない二人分の断末魔と呼吸音が聴こえる
(うん、あのおっさんも変な格好をした変態も生きてる)
複合センサーには壁内の金庫がしっかり映っている
重たくなった体で歩いて金庫らしきものがある部屋に向かう
「これ金庫じゃなくて暖炉!」
三つ目の異常に埃っぽい部屋で金庫を発見した
薬品で施錠機構を破壊して開けた
(なんだろう、凄くワクワクする)
銅板のような板が一枚入っていた
手に取って真空管に当てる
「ふん」
ガシャンと電脳缶が砕ける
(多分機体を破壊した武器の一部だったのかも)
ホワイトノイズが微かに聴こえはじめる
≪あ…がと…≫
「!?」
サラサラと電脳缶の中身の砂と部屋の埃が陽光に煌めきながら舞っている
そんな中声が聞こえた気がした
(本当はこうなる前に私が殺すはずだったんだけど、感謝されちゃった?)
つかの間の静寂を破壊音が砕く
「復活早ッちょっと催涙作用強すぎたって後悔してた私がバカみたいじゃない」
奇妙な格好の集団A「黙れ、お前はここで終わりだ」
「かもね」
〈カンッ〉
奇妙な格好の集団A「は?」
「時間丁度でガス欠、供給源が無くなった以上、もうあなたはただの人間と変わらないよ」
奇妙な格好の集団A「クソ!何をした」
「あなたたちの動力源、みたいなものを壊した」
奇妙な格好の集団A「ああ...折角故郷を守れるだけの力を手に入れられたのに」
「まあ大丈夫じゃない?暫くすれば力は戻るよ」
(仮に次があっても絶対そんなことはないと思うけど...)
奇妙な格好の集団A「本当?本当か?」
「えっと...うん、じゃあ私は警察が来る前に逃げさせてもらう、バイバイ!」
野次馬に紛れて現場を去った
「おじさん、新聞一つ!」
新聞屋「はいよ」
飛んできた新聞をキャッチして紙面を見る
≪自警団逮捕、騒乱罪で全員死刑≫
「うーん」
新聞屋「ああ例の超人集団、捕まったんだってな」
「だねー、全員死刑だってこの国終わってるよねー」
列車に並走して飛び乗って
貨物列車から夕日と地平線を眺める
多分あの名前も知らない都市国家は、列国の何れかに侵攻されて無くなる
でも自然な流れに戻った以上動乱は避けて通れない人の営みの一つだと、私は思う
ああクリエイター...人類は、良い未来に向かっていますか?。