「入港中に緊急事態になったら、学園宇宙船はまず生徒、学生の収容を優先する。そうマニュアルには記されているわけだ。だからゲートは当分、開いたままだ。どちらにせよ中に飛び込めば駐在警備兵の攻撃を受けるわけだからな」
消防艇に擬装した
「ゲートに向かっていた学生が五、六人まとめて吹っ飛ばされたましたよ! どうするんですか?」
低空で学園宇宙船のゲートへ向かう襲撃艇の噴射に、路上にいた生徒、学生、通行人たちが吹き飛ばされたようだ。下部監視ディスプレイでそれと分かる。ベテランの操縦士バッファロー3は若造のバッファロー4に舌打ちすると答えた。
「運が良ければ生きている」
「運が悪かったら?」
「そりゃ死ぬ。お互い様だ」
そう言って肩をすくめて見せた。バッファロー4は今度は後方監視カメラの表示に切り替えた。そこには激しい炎を上げる商業区画が映っていた。
「派手にやりましたね。こりゃ死傷者は1ダース下りませんよ。いいんですか?」
「いいって何が?」
機首を下げ速度を落としながらバッファロー2は聞き返した。
「クライアントはあんまり派手にやるなと言っていたじゃないですか」
「ああ、まあそうだけどな。お前も覚えてるだろう、ミーティングの後
「そうでしたか? すいません。居眠りしていたもので」
首を傾げるバッファロー4にベテランのバッファロー3は呆れた。
「俺が話してるのは、お前が寝ぼけていた後の話だ。そのくらいちゃんと見ておけ。自分の命がかかってるんだぞ。あいつらは多分別働隊だ。上は何か考えてる。場合によっては皇帝と一戦交えるつもりだろう」
「前方に警備艇です!」
バッファロー4が叫んだ。学園宇宙船に通じるゲートの手前から姿を現した警備艇が数隻、こちらへ武装を向けている。それだけではない。レーダーを確認すると後からも警備艇が急接近してきていた。
「全員、掴まれ! 港湾施設と学園宇宙船を盾にするぞ!」
腕に覚えるの有るベテラン操縦士であるバッファロー3のテクニックで、襲撃機は警備艇からの攻撃を躱していく。
しかしそれでも攻撃を全て避けるのは不可能。消防艇の偽装が吹き飛び、本来の装甲に敵弾が掠める音が響き渡った。
「そんな事、聞いてませんよ!」
バッファロー4が叫んだ。
「なんだ?」
目の前に学園宇宙船のゲートが見えてきた。ようやくただ事では無いと気付いたか、学園宇宙船側も宇宙校内の生徒、学生を全て収容する事を諦めゲートを閉じ始めていた。
聞き返したバッファロー3にバッファロー4は説明した。
「皇帝陛下と一戦交えるって事ですよ。結局それ帝国軍とやり合うわけでしょ。俺ら一介の傭兵風情が敵うわけ無い」
「皇帝を快く思ってない連中はたくさんいる」
そう答えながら操縦士のバッファロー3はディスプレイの表示を確認した。どうやら同行している
「貴族や大富豪。皇位争奪戦になったら勝ち目の無い皇位継承者が、ライバルを出し抜く為に協力してくれるかも知れんぞ」
そう答えてる間に襲撃艇は閉まり始めていたゲートを抜けていた。ここから先は学園宇宙船内の大型ドック内だ。避難した生徒、学生たちも押し込められている。学園宇宙船内の警備部隊も迂闊に手は出せまい。
「畜生め、たんまり手当を貰わねえと!」
吐き捨てるようにそう言うバッファロー4をベテランのバッファロー3は笑った。
「なぁに、ちょっとしたボーナスだと思っておけ。俺なんざ初孫のクリスマスプレゼント……」
そこで金属音が響き言葉は途切れた。バッファロー4は事態を確認すると、インターフォンで機内にいるバッファローチーム隊長へ報告した。
「バッファローチーフへ。こちらバッファロー4。バッファロー3は警備兵によるドック内から狙撃で任務続行不可能。操縦を引き継ぎます」
襲撃艇の外部確認はほとんどがカメラモニターで行われる。しかし離着陸やカメラが使えない時の為、申し訳程度ののぞき穴が操縦席前方には付いているのだ。
操縦士の前にあるそののぞき穴は外部からの狙撃で見事に粉砕され、周囲には返り血がと脳漿が飛び散っていた。
◆ ◆ ◆
「……感触は悪くなかったんだがな」
そうつぶやくとブレット・ホークアイは手に持っていた狙撃ライフルを警備兵に返した。急を聞いてドックに駆けつけたのだが、避難して来た生徒、学生たちの上に強行着陸を試みる偽装襲撃艇にどうしていいのか分からずおろおろするだけの警備兵から、ホークアイはライフルを取り上げて一発撃ってみせたのだ。
「……いや、いい。それは君に任せる。我々は生徒、学生の避難誘導を優先する。援護を頼む」
警備兵もホークアイが襲撃艇操縦席の小さな窓に命中させた事は分かった。その腕前やここは彼に任せるのが最善という事もだ。
ホークアイはライフルの重みを楽しむように笑みを浮かべた。
「生徒に戦わせるのか? 高くつくぞ」
襲撃艇は一旦、躊躇したようだが、逃げ回る生徒、学生たちを押しのけて学園宇宙船のドックへ着陸していた。