[時は現代の戻る]
〈あのときは、悪かった〉双葉が言っているのは、妹のベルを庇ったせいで、うみねぇちゃんがダンジョンに囚われることになった、だから〈あのときは、わたしの妹が悪かった〉そういう意味だろう。でも、今のオレは、そんな風には思ってなかった。
「あのさ、前も言ったけど、うみねぇちゃんのことは、別におまえの妹のせいだなんて思ってない。……いや、思ってた時期もあったけど、すぐ考え直した。うみねぇちゃんは困ってる人を見捨てれないすごい人だ。だから、別に双葉のことを恨んだりはしてない。オレがおまえの妹も助けてやるよ」
「……ふんっ、相変わらず、口だけは達者ね」
「そうだよね、りっくんは口だけは割とカッコいい」
「あん?」
「ねぇ、ところで、双葉さん?やめといた方がいいってどういうこと?」
ゆあちゃんが話の軌道を修正してくれたので、オレもその話をすることにした。
「そうだな。こんなフェンス、前には無かった。駅には入れないのか?」
「そうね、わたしも忍び込もうとしたけど、すぐに警報が鳴ったわ。翌日、家に連絡がきてパパに怒られた」
「マジかよ……」
「マジよ。あんたが1年前、最後に忍び込んですぐにこうなったわ。あんたのせいじゃないの?」
「オレ?オレは別になにも……むしろ、モンスターを倒して人助けしたけど……」
「はぁ?それ、詳しく教えなさいよ」
「やだよ。なんでおまえなんかに」
「なんかってなによ!」
双葉のやつがキレ出した。昔からすぐにキレるやつで、口も悪くて鬱陶しいやつだ。
「うるさいなー。ゆあちゃん、今日は帰って作戦会議しよ」
「え?いいの?双葉さんのことほっておいて」
「いいわけないでしょ!待ちなさいよ!」
「やだよ。おまえ、うっさいんだもん」
「へー?そんな態度とっていいわけ?わたし、忍び込めるダンジョン知ってるんだけど?教えてあげないわよ?」
「んー……オレ、東京駅ダンジョンにしか興味ないんだよね。さいなら」
「ちょっと!ここに入れないんだから、他で修行するしかないでしょ!鍛えて強くならないと2人を助けれないわよ!」
「んー……まぁ……そう言われれば、そうかも?」
「りっくん、とりあえず双葉さんと話だけでもしておかない?同じダンジョン攻略に挑む仲間なんだし。それに、仲間が増えれば、りっくんも強くなるよね?」
「あっ、たしかに」
「どういう意味よ?」
「いや、別に……」
《クラス替え》スキルのこと、こいつに話して大丈夫だろうか?オレは、訝しむ双葉の顔を見て、自分のスキルについて話すか考えていた。
「りっくんのことはほっといて、いこっ。双葉さん」
「……わかったわ。ついてきなさい」
とりあえず、双葉の相手は、ゆあちゃんに任せて後ろについていくことにする。
双葉がオレたちを連れてきたのは、なんだか高そうなレストランだった。近くの高層ビルの20階にあり、夜景もすごいし個室だ。
「すごーい……」
ゆあちゃんが窓際に立って感動している。
「オレたち、金ないぞ?」
「わたしが奢ってあげるわよ。下民、座りなさい」
双葉のやつは偉そうに足を組んでメニューを見ている。
オレたちも座って、自分のデバイスを使ってメニューを見ることにした。どれもびっくりするほど高くて、おどおどしてると、双葉がオレたちの分も注文してくれる。
高そうな飲み物とお茶菓子が机に並び、本題がはじまった。
「それで、1年前、モンスターを倒したって?」
「そうだな。そんなこともあったなー」
「1年前、あんたが忍び込んだあと、すぐにニュースが出たわよね?東京駅ダンジョンで高校生4人が死亡、1人だけが生き残ったって。知ってるわよね?」
「……まぁ」
「その顔……まさかとは思うけど、あんたが殺したの?」
「そんなわけあるか!意味わかんないこと言うなよ!」
「冗談よ。でも、無関係ってわけでもなさそうね」
「まぁ……」
「それで?モンスターを倒したってのは、ゲートのすぐ近くに出るウサギみたいなやつのこと?それくらいならわたしも倒したけど?なによ、偉そうにして。だっさ」
「そんな雑魚じゃねーよ!オレが倒したのはこんなデッカいユニークモンスターで!」
オレは両手を広げて、あのときの黒い狼のサイズを表現した。
「ユニークモンスター?」
「あ……」
売り言葉に買い言葉で口を滑らせたことに気づく。
「バカりっくん……」
「ユニークモンスターってなによ?」
「まぁ、なんか強いモンスターだよ……」
もう言ってしまったので、諦めてある程度は話してやることにした。
「どんな?」
「すごいでかい黒い狼で、白いやつと灰色のやつもいて……」
「それ、高校生たちを殺したモンスターよね?あんた、警察に言わなかったの?自分が倒しましたって。それ、犯罪よ?もしもし、警察ですか?」
双葉がデバイスに向かって話しかけ出した。は?こいつ本当に通報を?
「うぉい!!違う違う!あれは人助けで仕方なく!」
「……なるほど。そう、高校生が4人もやられるモンスター、ユニークモンスターをあんたが倒したってことね。やるじゃない。ちなみにだけど、モンスターの姿形なんてニュースで発表されてないわよ」
「は?」
「だいたい聞きたいことは聞けたわ。ありがとね」
「おまえ……カマかけやがったな?」
「そうだけど?騙される方が悪いんじゃない?」
「こ、このクソマロめ……」
「はぁ?さっきも言ったわよね?そう呼んだらコロスって。ここ、奢らないわよ?」
「それは困る」
「ねぇ、りっくん。ここまで話したんなら、もう、スキルのことも話したら?」
隣のゆあちゃんがこそこそと小声で伝えてきた。
「いや、でも、コイツが信用できるか怪しいし」
「どういう意味よ?」
「そのまんまの意味だが?」
「少なくとも、ベルを助け出すまでは協力してあげてもいいわよ?」
「ほら、りっくん。新しいクラスメンバーゲットのチャンスだよ?結局一年経ってもお友達作れなかったでしょ?」
「うぐっ……うーん?こいつがぁ〜?」
痛いところをつかれたが、そもそも、クラス加入のためには、一定の信頼関係が必要なはずだ。一度、左腕のエニモを机の下に持っていって、双葉に見えない位置でクラス替えスキルの画面を操作する。
オレの隣の座席をタップして、新規メンバーの加入を押して、
―――――――――――――
双葉鈴を転入させますか?
Yes or No
―――――――――――――
という表示までいきつく。
ん?ここまでくるってことは加入できるってことか?アトムのときは表示すらされなかったし。
「んー……」
「あんた、さっきからなにしてんのよ?盗撮?キモいんだけど」
「は?おまえなんか盗撮するか、勘違いすんな」
「はぁ?なんなのさっきからケンカ売ってる?」
「こっちのセリフなんだが?てかさ、双葉って強いんだっけ?さっきゲート近くのウサギは倒したって言ってたけど」
「ま、それなりに動ける方だと思うわよ。高校生くらいのレベルにはなってるんじゃない?」
「ほー?武器は?」
「二丁拳銃」
「なにそれ、カッコいい……」
「そりゃどうも」
オレに褒められた双葉は、偉そうに髪をかき上げていた。
「で、ダンジョン攻略に協力してくれるんだっけ?」
「あんたの誠意次第ね。隠してること、全部ゲロりなさいよ」
「んー……ゆあちゃん、どう思う?」
「クラスに加入できるなら、それなりにりっくんのこと信頼してるってことでしょ?なら、いいんじゃない?それに、ゆあたちと目的は同じなんだし」
「まぁ、そうかぁ……よし!じゃあ!おまえのこと信用して話してやるよ!」
「なんかムカつくけど、いいわ。聞きましょう」
「オレは1年前、ユニークモンスターを倒した!」
「それは聞いた」
「そのときオレは!スキルを手に入れた!」
「……へぇ」
「なんだよ?驚かないのか?」
「続けて?」
余裕そうにティーカップ片手に手のひらを差し出してくる。
「むっ……そのスキルは、《クラス替え》って名前で、オレを学級委員としたクラスにメンバーを加入させると、そいつの好感度によって、オレの身体能力を上げることができるんだ」
「なるほどね。面白いスキルじゃない」
「だから、おまえもオレのクラスに入ってくれ。オレのステータスのために」
「わたしにメリットは?」
「め、メリット?……オレが東京駅を解放させてやる!」
ドドン!オレは、自信満々に立ち上がって、空を見上げた。オレに任せておけば全部解決してやる!の構えだ。
双葉から、「わーい。ありがとー」という答えは聞こえてこない。
「……」
「あの、双葉さん。りっくんはアホだけど、本当に強くって、最近の動きなんて化け物じみてるから、それを見てから、クラスに加入するか判断してもいいんじゃないかな?」
「そうね。今の話が本当なのか分からないし、まずは確認させてもらいましょうか。行くわよ」
「あん?どこにだよ?」
「ダンジョンよ」