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第11話 クソガキは新しい仲間?

[時は現代の戻る]


 〈あのときは、悪かった〉双葉が言っているのは、妹のベルを庇ったせいで、うみねぇちゃんがダンジョンに囚われることになった、だから〈あのときは、わたしの妹が悪かった〉そういう意味だろう。でも、今のオレは、そんな風には思ってなかった。


「あのさ、前も言ったけど、うみねぇちゃんのことは、別におまえの妹のせいだなんて思ってない。……いや、思ってた時期もあったけど、すぐ考え直した。うみねぇちゃんは困ってる人を見捨てれないすごい人だ。だから、別に双葉のことを恨んだりはしてない。オレがおまえの妹も助けてやるよ」


「……ふんっ、相変わらず、口だけは達者ね」


「そうだよね、りっくんは口だけは割とカッコいい」


「あん?」


「ねぇ、ところで、双葉さん?やめといた方がいいってどういうこと?」


 ゆあちゃんが話の軌道を修正してくれたので、オレもその話をすることにした。


「そうだな。こんなフェンス、前には無かった。駅には入れないのか?」


「そうね、わたしも忍び込もうとしたけど、すぐに警報が鳴ったわ。翌日、家に連絡がきてパパに怒られた」


「マジかよ……」


「マジよ。あんたが1年前、最後に忍び込んですぐにこうなったわ。あんたのせいじゃないの?」


「オレ?オレは別になにも……むしろ、モンスターを倒して人助けしたけど……」


「はぁ?それ、詳しく教えなさいよ」


「やだよ。なんでおまえなんかに」


「なんかってなによ!」


 双葉のやつがキレ出した。昔からすぐにキレるやつで、口も悪くて鬱陶しいやつだ。


「うるさいなー。ゆあちゃん、今日は帰って作戦会議しよ」


「え?いいの?双葉さんのことほっておいて」


「いいわけないでしょ!待ちなさいよ!」


「やだよ。おまえ、うっさいんだもん」


「へー?そんな態度とっていいわけ?わたし、忍び込めるダンジョン知ってるんだけど?教えてあげないわよ?」


「んー……オレ、東京駅ダンジョンにしか興味ないんだよね。さいなら」


「ちょっと!ここに入れないんだから、他で修行するしかないでしょ!鍛えて強くならないと2人を助けれないわよ!」


「んー……まぁ……そう言われれば、そうかも?」


「りっくん、とりあえず双葉さんと話だけでもしておかない?同じダンジョン攻略に挑む仲間なんだし。それに、仲間が増えれば、りっくんも強くなるよね?」


「あっ、たしかに」


「どういう意味よ?」


「いや、別に……」


 《クラス替え》スキルのこと、こいつに話して大丈夫だろうか?オレは、訝しむ双葉の顔を見て、自分のスキルについて話すか考えていた。


「りっくんのことはほっといて、いこっ。双葉さん」


「……わかったわ。ついてきなさい」


 とりあえず、双葉の相手は、ゆあちゃんに任せて後ろについていくことにする。


 双葉がオレたちを連れてきたのは、なんだか高そうなレストランだった。近くの高層ビルの20階にあり、夜景もすごいし個室だ。


「すごーい……」


 ゆあちゃんが窓際に立って感動している。


「オレたち、金ないぞ?」


「わたしが奢ってあげるわよ。下民、座りなさい」


 双葉のやつは偉そうに足を組んでメニューを見ている。

 オレたちも座って、自分のデバイスを使ってメニューを見ることにした。どれもびっくりするほど高くて、おどおどしてると、双葉がオレたちの分も注文してくれる。


 高そうな飲み物とお茶菓子が机に並び、本題がはじまった。


「それで、1年前、モンスターを倒したって?」


「そうだな。そんなこともあったなー」


「1年前、あんたが忍び込んだあと、すぐにニュースが出たわよね?東京駅ダンジョンで高校生4人が死亡、1人だけが生き残ったって。知ってるわよね?」


「……まぁ」


「その顔……まさかとは思うけど、あんたが殺したの?」


「そんなわけあるか!意味わかんないこと言うなよ!」


「冗談よ。でも、無関係ってわけでもなさそうね」


「まぁ……」


「それで?モンスターを倒したってのは、ゲートのすぐ近くに出るウサギみたいなやつのこと?それくらいならわたしも倒したけど?なによ、偉そうにして。だっさ」


「そんな雑魚じゃねーよ!オレが倒したのはこんなデッカいユニークモンスターで!」


 オレは両手を広げて、あのときの黒い狼のサイズを表現した。


「ユニークモンスター?」


「あ……」


 売り言葉に買い言葉で口を滑らせたことに気づく。


「バカりっくん……」


「ユニークモンスターってなによ?」


「まぁ、なんか強いモンスターだよ……」


 もう言ってしまったので、諦めてある程度は話してやることにした。


「どんな?」


「すごいでかい黒い狼で、白いやつと灰色のやつもいて……」


「それ、高校生たちを殺したモンスターよね?あんた、警察に言わなかったの?自分が倒しましたって。それ、犯罪よ?もしもし、警察ですか?」


 双葉がデバイスに向かって話しかけ出した。は?こいつ本当に通報を?


「うぉい!!違う違う!あれは人助けで仕方なく!」


「……なるほど。そう、高校生が4人もやられるモンスター、ユニークモンスターをあんたが倒したってことね。やるじゃない。ちなみにだけど、モンスターの姿形なんてニュースで発表されてないわよ」


「は?」


「だいたい聞きたいことは聞けたわ。ありがとね」


「おまえ……カマかけやがったな?」


「そうだけど?騙される方が悪いんじゃない?」


「こ、このクソマロめ……」


「はぁ?さっきも言ったわよね?そう呼んだらコロスって。ここ、奢らないわよ?」


「それは困る」


「ねぇ、りっくん。ここまで話したんなら、もう、スキルのことも話したら?」


 隣のゆあちゃんがこそこそと小声で伝えてきた。


「いや、でも、コイツが信用できるか怪しいし」


「どういう意味よ?」


「そのまんまの意味だが?」


「少なくとも、ベルを助け出すまでは協力してあげてもいいわよ?」


「ほら、りっくん。新しいクラスメンバーゲットのチャンスだよ?結局一年経ってもお友達作れなかったでしょ?」


「うぐっ……うーん?こいつがぁ〜?」


 痛いところをつかれたが、そもそも、クラス加入のためには、一定の信頼関係が必要なはずだ。一度、左腕のエニモを机の下に持っていって、双葉に見えない位置でクラス替えスキルの画面を操作する。


 オレの隣の座席をタップして、新規メンバーの加入を押して、


―――――――――――――

双葉鈴を転入させますか?

Yes or No

―――――――――――――


 という表示までいきつく。

 ん?ここまでくるってことは加入できるってことか?アトムのときは表示すらされなかったし。


「んー……」


「あんた、さっきからなにしてんのよ?盗撮?キモいんだけど」


「は?おまえなんか盗撮するか、勘違いすんな」


「はぁ?なんなのさっきからケンカ売ってる?」


「こっちのセリフなんだが?てかさ、双葉って強いんだっけ?さっきゲート近くのウサギは倒したって言ってたけど」


「ま、それなりに動ける方だと思うわよ。高校生くらいのレベルにはなってるんじゃない?」


「ほー?武器は?」


「二丁拳銃」


「なにそれ、カッコいい……」


「そりゃどうも」


 オレに褒められた双葉は、偉そうに髪をかき上げていた。


「で、ダンジョン攻略に協力してくれるんだっけ?」


「あんたの誠意次第ね。隠してること、全部ゲロりなさいよ」


「んー……ゆあちゃん、どう思う?」


「クラスに加入できるなら、それなりにりっくんのこと信頼してるってことでしょ?なら、いいんじゃない?それに、ゆあたちと目的は同じなんだし」


「まぁ、そうかぁ……よし!じゃあ!おまえのこと信用して話してやるよ!」


「なんかムカつくけど、いいわ。聞きましょう」


「オレは1年前、ユニークモンスターを倒した!」


「それは聞いた」


「そのときオレは!スキルを手に入れた!」


「……へぇ」


「なんだよ?驚かないのか?」


「続けて?」


 余裕そうにティーカップ片手に手のひらを差し出してくる。


「むっ……そのスキルは、《クラス替え》って名前で、オレを学級委員としたクラスにメンバーを加入させると、そいつの好感度によって、オレの身体能力を上げることができるんだ」


「なるほどね。面白いスキルじゃない」


「だから、おまえもオレのクラスに入ってくれ。オレのステータスのために」


「わたしにメリットは?」


「め、メリット?……オレが東京駅を解放させてやる!」


 ドドン!オレは、自信満々に立ち上がって、空を見上げた。オレに任せておけば全部解決してやる!の構えだ。

 双葉から、「わーい。ありがとー」という答えは聞こえてこない。


「……」


「あの、双葉さん。りっくんはアホだけど、本当に強くって、最近の動きなんて化け物じみてるから、それを見てから、クラスに加入するか判断してもいいんじゃないかな?」


「そうね。今の話が本当なのか分からないし、まずは確認させてもらいましょうか。行くわよ」


「あん?どこにだよ?」


「ダンジョンよ」

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